2019年から毎年開催されている関西演劇祭で、フェスティバルディレクターを務めている板尾創路さん。全国から募集し、選ばれた約10劇団が45分間の演劇作品を上演し、1公演は2劇団のステージで構成。板尾さんを含めた審査員・客席からの質問に答えるティーチインも実施されています。今年で5年目を迎える演劇祭への思い、そして演劇に対する思いとは。板尾創路さんへの単独インタビューが実現しました。

関西演劇祭は、「作品に対する思いが深まる」場所

撮影:山本春花

−初めて関西演劇祭についての話を聞いた時、どんな印象を受けられましたか?
「演劇祭自体があまり経験ないので、どういう形になるのか想像ができなかったんですけど…関西の小劇場が少なくなったり、関西の劇団が元気なさそうな感じがしていたので、活性化できる意義のあるお祭りなのかなとは思いましたね」

−関西への想いというのもあったのでしょうか?
「そうですね、やはり大阪の人間なので。関西を盛り上げられる演劇祭は良いと思いましたし、どういう面白い劇団や俳優がいるのか、出会いにも興味がありました」

−まさに2019年関西演劇祭の開催発表では「0を1にする人に出会いたい」とおっしゃっていましたが、そういったクリエイター・劇団との出会いはありましたか?
「全く初めて見る劇団ばかりだったので新鮮でしたし、それぞれ個性的でしたね。まだまだ関西に所縁のある劇団や俳優はたくさんいるんだなと感じましたし、可能性や出会いを感じられるようなお祭りになっていると思います」

撮影:山本春花

−板尾さんはフェスティバルディレクターとして自らティーチインにも参加されています。若い劇団と直接言葉を交わすことで感じたことはありますか?
「お芝居をただ見せてもらうだけじゃなく、今まさに見たお客さんの前で、余韻が残っている中で、芝居の内容や作品に対する想いを聞いたり、疑問に思ったことを聞いたら意外な答えが返ってきたり、なるほどと思わせるような答えだったり。ティーチインがあることで、より深く作品に対する想いが広がる感じがして、ただ公演を見るだけよりも持って帰れるものがたくさんある場だと思います。

掴みどころのない劇団とかもあるのですが、ティーチインで疑問に思ったことを質問できて、納得したり、2回目3回目見ることで見方が変わってきたりするので(各劇団3ステージ上演)、それはこの演劇祭の醍醐味ですね。もちろん予備知識のない状態で見て面白い作品を作ることがベストなのでしょうけど、伝わりやすさばっかり意識していると劇団の個性がなくなっていく感じもするので、思い切ってやっていくのも良いのかなと感じていますね」

−全ての劇団を短期間で見るのは大変ではないですか?
「1公演45分というのも集中力が続く時間ですし、一気にたくさんの作品を見られるのも面白いです。劇団によって特性も違いますし、一緒に上演する劇団との組み合わせで見え方が変わったりするので、体験してみると楽しいですね。テーマが偶然にも似ている時もあるし、全然違うテイストの劇団が見られることもあるし、今までにない演劇の捉え方ができるので、お芝居好きな方にもお勧めしたいです」

撮影:山本春花

−東京公演が実現するなど、広がりを見せてきている関西演劇祭。5年目となる今年、もっとこんなことがしてみたいと思っていることはありますか?
「通常の劇団の公演もいいなあと思いますけど、過去に演劇祭に出た俳優さんに出てもらったりして、演劇祭でしか見られない芝居、特別な公演もあっても良いんじゃないかなあと思ったりはしますね」

−賞を獲ったり、ドラマ出演を果たしたりする劇団・俳優も増えています。
「演劇祭で出会ってこの俳優さん使ってみたいなと思ってしまう気持ちは分かります。新しいものを求めている人が多いので、一緒に仕事してみたいと思うだろうなと。そういう風に繋がっていくことでまた新しいものが生まれるので、関西演劇祭を通して新しい繋がりがもっと増えていってくれると嬉しいですね」

審査は、「劇場の中で生まれる空気や反応」を大切に

撮影:山本春花

−芸人・役者という表現者としての活躍もありながら、審査員という立場を務めることも多い板尾さんですが、審査員を務められる上で心がけていることはありますか?
「自分の好きなテイストは見ていて楽しいのですが、自分の中にはないような表現や理解できないと思った作品も、複数回見ていると不思議と印象に残るんですよね。自分にない部分を刺激されたような感覚で。なので、一度見た感覚だけで判断しないようにはしています。あと演劇はライブですから、劇場の中で生まれる空気やお客さんの反応を感じ取るようにしています」

−関西演劇祭はコロナ禍前に始まり、コロナ禍最中の開催の年もありました。劇団がコロナ禍で中止や解散に追い込まれることも多かったかと思いますが、コロナ禍と演劇、コロナ禍とエンタメの関係性・影響についてどう感じられていますか?
「中止になったり環境が整っていなかったりした中でも、なんとか形にしようとする劇団と、見に行こうとするお客さんと、コロナに負けない“しぶとさ”みたいなのは感じていました。どこまで出来るか分からなくても、出来るところまでやろうと、止めない姿勢は見ていて頼もしかったですね。なんとかやってやろうという意気込みを感じていました」

撮影:山本春花

−映画・ドラマ・バラエティなど様々なフィールドで活躍する板尾さんが、舞台に求めていることとは?
「やっぱり舞台・ライブは基本中の基本。テレビやラジオなど気軽に見られるものも文明ですけれど、昔は舞台しかなくて、見せ方は基本的に変わっていないので、人間のエンターテイメントを楽しむ形の基本ですね。劇場に行って、その時、そこで行われることが全て。この先どんなにテクノロジーが発達しても、生に勝てるものはないと思うし、そこを楽しめることは大切にしています。生身の人間が演じる、パフォーマンスする空気というのは凄いですよね。観光でも写真や映像でもある程度は楽しめるけど、行かないとその場の空気は味わえなくて、意外と行ってみたら“雨の日もええな”とかあるじゃないですか。ライブの良さってそういうところにあると思います」

関西演劇祭2023は11月に開催予定。公式HPはこちら

Yurika

4月に新宿シアタートップスで行われた『関西演劇祭 in Tokyo』を観劇し、45分ずつ2劇団を一気に見られること、お客さんの感動がそのまま劇団に伝わるティーチインなど、新たな「出会い」がたくさん詰まっている演劇祭だと実感しました。2023年の開催も楽しみです。