関西で行われる「関西演劇祭」でフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路さんが、演劇にまつわる様々な方と対談する連載企画。今回ゲストでお迎えしたのは、京都を拠点に活動し、唯一無二の作品を生み出し続けるヨーロッパ企画代表で脚本・演出家の上田誠さん。以前から親交のあるお二人に、土地や環境が演劇に与える影響や、演劇に求めるものについてお話を伺いました。

“職人カタギ”な上田誠が映画制作で意識したこと

−板尾さんは、上田誠さんの作品やヨーロッパ企画についてどのような印象を持たれていますか?
板尾「以前、スズナリで上演された作品を見に行きました。映画『リバー、流れないでよ』も見たけど、上田くんらしい作品でしたね。劇団の皆さんも出演しているので懐かしくて、みんなおっちゃんになったなぁと思って(笑)。上田くんの脚本は独特で、面白い作品を何年も生み出し続けてすごいですね。京都人やなという感じもする。脚本家やけど職人カタギなところというか」

上田「ありがとうございます」

板尾「映画は、貴船の持っている雰囲気を活かしているよね。雪が降っていたのは狙っていたの?しょうがない状況だったの?」

上田「狙いではなかったです。撮影期間は決まっていたので、本当はタイムリープものなので天候は変わらないといいなあと思っていたんですが、雪がめちゃくちゃ降ってしまって」

板尾「そうだよね。じゃないとあんな上手いように行かへんよなと思って」

上田「現場に僕がいたので、その場で脚本を変えて臨機応変に対応することにしました」

板尾「スケジュールもあるからね。でもそれを利用できていて良いね」

上田「ありがとうございます。ループものとして考えると天候が変わるのってしんどいですが、それを抜きにして考えると色々な景色を見せられるのは映画としては面白いので」

板尾「そうよ。雪景色も綺麗やし」

上田「はい。良い絵が撮れたので結果的に良いと思いました」

−上田さんの作品はとても上田さんの作品としての色があるように感じます。創作においてこだわっていることは?
上田「映画に関して言うと、僕は劇団なので、映画を常に作っている人たちに真っ向勝負するよりも、映画界の人たちがなかなかやっていないことをやろう、というところは意識して作っています。時間もの、長回しといった劇団の得意技を活かそうという気持ちが強いです」

−公演についても“ヨーロッパ企画らしさ”がいつもあると思います。
上田「名前がヨーロッパ企画と“企画”がついていますしね。元々僕は劇団ヨーロッパとかにしたかったんですけど、元々別の学生劇団をやっている中から旗揚げしたので、劇団ではなくあくまで“いち企画ですよ”という意図でヨーロッパ企画になったんです。そこから始まったので、たまたま名前に引っ張られて、企画性が高いことをやっていくチームになっていきました。僕も企画性がある作品が好きですしね。京都にいるというのも、なるべくオルタナティブな、東京や他の地域で起こっていることとはまた違う流れが作れたらという思いがあります」

京都という土地から生まれるヨーロッパ企画の特異性

−京都だからこそ得られるインスピレーションはあるのでしょうか?
上田「何百年も続くような歴史ある会社や文化が多くて、長持ちするものとか、時を超えて良いものとかを考えられる場所のような気はしています。だからこそ、ヨーロッパ企画もフラフラしていない気がしますね。このチームでこの環境で作れるものが何かを、ちゃんと考えています。やっていることは一見トリッキーなのですが、映画も僕らからすると、貴船で撮るならあの形が自然だったのだと思いますね」

板尾「京都の環境はヨーロッパ企画に影響していると思う。住んでいる人なりの発想や思い、京都の人間でやることが環境性になって、独自のものが出てくるよね」

上田「演劇は何もないキャンバスから生み出すものですが、映画はある風景を切り取るところが始まりだと感じていて。京都は絵になるところがたくさんあるので、映画撮るのに良いですよね。今回の映画もまず絵になる場所・貴船を決めて、それに合わせて物語を作りました」

−場所先行だったのですね?
上田「はい。僕は演劇でも当て書きをしますが、まさに場所に当て書きをしたような感じです」

板尾「貴船の神社の“願いが叶う”というところから物語が始まっているわけやもんね。未来の人も願いに来ていて」

上田「そうです。神社も時間装置になっていて、時を超えて同じように願いに来るという物語になっています」

板尾「やっぱりどこかの段階で東京に行ったら変わっていただろうから、東京に来ないということが魅力に繋がっているよね。人間は環境によって流されることもあるし、そこで生きていくにはそこに従わないと行けないことも出てくるし」

上田「特に僕らは集団でいるというのもあります。もし僕1人だったら東京に行っていたと思うんですけれど、集団で環境を変えるのは大変なので。こういう話を板尾さんとは10年くらい前にもさせてもらったことがありましたよね」

板尾「そうだね。上田くんと喋っているとやっぱりそれを感じるんだよね」

上田「板尾さんは映画も撮られていますが、映画って周りの環境やスタッフによって出来ていくものだから、その流れで撮れるものも変わりますか?」

板尾「変わると思う。その土地に住んでいる人が、その土地の人たちと作れるものは1番太いし、自然と説得力が出てくる。映画は特に、知らず知らずのうちに映画に滲み出てくるよね」

上田「活劇映画のようなジャンルを撮られているのも、環境から来るものなのかなと思いました」

板尾「絶対そうやと思う。環境は大事だよ。今の時代はどこにいても良いものが撮れるしね。地元の祭りとかもそういったところが魅力になるわけで。その祭りを他に持って行っても全然別のものになる」

上田「僕らが東京公演をやりに来ている時は、物産展のような気持ちです(笑)。“土がついたような”作品を色々な場所に持って行けることを楽しんでいますね。板尾さんは大阪出身で東京に行かれましたが、土地への意識はありましたか?」

板尾「今はあまりお笑いに東京と大阪の垣根はないと思うけれど、当時はまず大阪で売れなあかんという意識はあったかな。大阪で頑張った人が東京に挑戦できるという感覚だったし、大阪で評価されても東京で売れないこともあったから。東京は別世界という感覚だった。今でも大阪に住んで、そこから東京の仕事に通うこともありかなと時々考えるんだけど、どうしても今の生活に慣れてしまうと楽な方に流されちゃう。もっとこだわり持ってやることもできるだろうけど、なかなかダメですね」

上田「大学から劇団が発祥することが多いですし、人数が多いので、芸人さんほど身軽ではないというのもあるかもしれません。劇団が拠点を変えるのはかなり一大決心です。だからこそ1つの地に根を張って活動しようと思えるのですが、身軽さという点は芸人さんの羨ましい部分でもあります」

板尾「ピン芸人なんていつでもどこでも行けるからね。稽古も自分だけだし。お芝居はやっぱり端折れないし、見に来てもらわないといけないというのは独自の特徴だね」

上田「そうですね。映画は創ったものが世界に伝わっていくこともありますが、演劇は結局創った近くでしか見てもらえないものです。次回作『切り裂かないけど攫いはするジャック』もロンドンが舞台の作品なのですが、日本ハワイアンセンターみたいな感覚があります(笑)」

−次回作の『切り裂かないけど攫いはするジャック』はどのようなことを描こうと考えていますか?
上田「今までやっていそうでやっていなかったミステリです。ミステリも芸風にしたいので(笑)、武器にできたら良いなと。自分の中でも満を持してやっています。いつもヨーロッパ企画の作品は劇団員とエチュード(即興)をしながら作るので、ミステリのトリックなどは僕が考えるのですが、ロンドンっ子たちの群像をどう創るかはみんなで色々と試行錯誤しています」

−ヨーロッパ企画の群像劇は、劇団員の皆さんから生まれているのですね。
上田「そうですね。最終的にはもちろん僕が台詞を書くのですが、みんなでわちゃわちゃとエチュードをしてから書きます」

板尾「そこから採用するものもあるの?」

上田「まさにありますね。コメディだからというのもあると思います。芸人さんが口だけで漫才作るのも、やっぱり演者と話す内容が合致しているから生まれるものだと思うので、そこは意識しています」(作品紹介記事はこちら

板尾創路がヨーロッパ企画作品に出演するとしたら…?

撮影:山本春花

−ヨーロッパ企画の作品にもし板尾さんが出演するとしたら、どのようなキャラクターを演じてもらいたいでしょうか?
上田「出てもらいたいですよ…!!板尾さんは何をしでかすか分からない危なっかしさというか、舞台上におられると存在感がすごいと思うので、そういう役をお願いしたいです。あとは板尾さんの関西弁の響きが強い印象もあるので、せっかくなら関西弁を喋っていただきたい思いもあるし、関西の危なっかしい人とかが良いですね。僕らは群像劇で誰か1人がすごく目立つということは意外にないので、板尾さんが入られることでどうなるのかも気になります。ヨーロッパ企画に出るというのはあり得る話ですか…?」

板尾「ぜひ!!やりたいですよ。一生に一回くらいヨーロッパ企画出てみたい」

上田「板尾さんは、とても舞台人という印象がします」

板尾「僕はライブが1番好きですよ。人間やからやろうね。人が人の前で喜んでもらおうと頑張るのって。お笑いでもお芝居でも、やっぱりライブが楽しいと思えます」

上田「確かに僕らも演劇人なので、映画を撮る時も細々カットを積み重ねていくより、みんなでわーっと長回しで撮る方が楽しさがあるんです」

板尾「代え難いものがあるよね。お金は儲からへんねけどな(笑)。純粋に目の前で喜んでもらえると楽しい。だから子供の頃が楽しかったのかなと思うし。ビジネスとか関係なく、ただ面白いことしてるだけやから。お芝居ってそれに近いところがあって、そこにおる人たちが楽しむためにやっている。だからまたやりたいしね。お芝居で劇団やカンパニーと東京公演やって、地方公演とか回っていると、“このまま一生続いていったら良いのにな。これで飯食えたらどんだけ幸せやろう”って思うよ」

−上田さんは演劇に求めているものはありますか?
上田「コロナ禍を通して、劇団ってやっぱりみんなで集まりたくてやっているんだなというのは再認識しました。作品を創るという感覚とは別に、お祭りを創っているという感覚が楽しいんだと気づいて。演劇はそこに来た人がワクワクして、集まって何かを見たり、感情が動いたりする空間を作るのが使命だなと思います」

ヨーロッパ企画第42回公演『切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック』は9月9日の関東プレビュー公演を皮切りに、全国ツアーが実施されます。東京公演は本多劇場で9月20日から10月8日まで。作品の詳細は公式HPをご確認ください。

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Yurika

『サマータイムマシン・ブルース』など、企画性と劇団らしい群像劇の絶妙なバランスを描き出す上田誠さん。京都で活動し続けることへのこだわりや、演劇への愛をたっぷりとお伺いすることができました。ヨーロッパ企画に板尾さんが参加した作品、見てみたいですね…!

板尾創路×演劇人 対談連載

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連載(6本)