2013年に作:森雪之丞さん、演出:岸谷五朗さんの2人によって生まれたオリジナル・ミュージカル『SONG WRITERS』。2015年の再演を経て、約10年ぶりの復活公演が実現します。自信過剰な作詞家エディ・レイク役の屋良朝幸さん、気弱な作曲家ピーター・フォックス役の中川晃教さんに、本作への意気込みを伺いました。
運命を感じる再演になるのかもしれない
−約10年ぶりに同じ役に挑む心境はいかがですか。
中川「30代でやっていた作品を40代になってやるって全然違うよね」
屋良「違うよ。俺は40代って男として変わる時期だと思っていて、40歳になったら覚悟決めなきゃ、何かを変えなきゃという気持ちがあったから。それで独立もしたから」
中川「確かに、40代では僕も海外に行きたいなという漠然とした思いがあるから、やっぱり30代とは心境も違うのかもね。作品に出会った当時よりも、作品との関係性がより深まった今、この作品にある普遍的なテーマや要素がより考えることができるという、いわば運命を感じる再演になるのかもしれない」
屋良「そうかもしれないね。この作品を再演してほしいという声が凄く多くて、色々なタイミングが重なって再演が実現したわけだけれど、初演時のこの作品との出会いというのは俺にとって、とても大きくて。アッキーに触発されて色々と変わった部分もあるし。今回は自分が独立して以降、ミュージカルとしては一作目となるので、運命と言っても良いのかも」
−初演時は、オリジナル・ミュージカルということで創作にご苦労もあったのではないでしょうか。
中川「シアタークリエでオリジナル・ミュージカルというのは、当時とても大きいことだったよね。でも屋良っちはシアタークリエでオリジナル作品の方が多いよね」
屋良「そうなんだよね。それこそ前事務所ではオリジナル作品ばかりだったし。既存の作品の役には俺はハマらないのかもしれない(笑)」
中川「そんなわけないじゃない(笑)。屋良っちが僕との出会いで刺激を受けたと言ってくれたけれど、僕にとっても同じなんです。エンターテイメントの世界の第一線にいて、振付というクリエイターとしても活躍されていた同い年の屋良っちとタッグを組ませてもらえるというのは、1つ夢が叶った感覚でした。僕は仙台出身で、18歳でデビューして東京に出てきたので、東京に1人も友達がいないところからこの世界でやってきていて。現場で出会う方々と1人ずつ友達になっていく感じだったんです。そんな中で同い年の屋良っちとはやっぱり引き合うものがあったし、エンターテイメントの世界を牽引する存在の屋良っちと出会えたのは凄く嬉しかった。僕ら2人をこの作品にって、最初に言ってくれた人は誰だったんだろう」
屋良「確かに誰なんだろうね。俺ら2人の組み合わせって、なかなか思いつかないと思うから、ありがたいよね」
−中川さんは本作に音楽面でも携わられていますね。
中川「今回再演にあたって聞き直そうと思ったら、僕のスマホに2人で練習している「現実の国で夢見る人」の音源があったんだよ」
屋良「あの楽曲は、再演の時に2人で動きをつけ直したんだよ。2人でここではこういう目線で、こう動きたいよねってディスカッションして、稽古場でやったら(岸谷)五朗さんに何も言われなくて、そのまま本番だったの」
中川「逆提案したのか。思い出してきた。小高いステージで、そこから何が見えるかなとか話したんだよね。だから音源が残っていたんだ。ある意味、振付みたいなことだよね。屋良っち、今回振付すれば良かったのに」
屋良「実はそういうお話を頂いたこともあるんだけれど、俺じゃない方が良いですって言ったんだよ。振付に携わると、ステージに立っていても第三者の目が働きすぎちゃう。自分がプロデュースして主演する作品でも、自分がより良く見えるように振付するのが苦手で、つい周りをよく見せようとしちゃうんだよね。だから自分が真ん中に立つ作品の場合は、誰かにやってもらった方が良いと思ってる」
中川「なるほどね。僕も2曲、楽曲を書かせてもらったけれど、役者として物語に入る時は、自分がどういう想いで書いたかは一回まっさらに忘れて、役としてこの曲を歌おうという意識は強く持っていたな」
岸谷五朗に投げかけられた言葉とは?
−森雪之丞さん、岸谷五朗さんとは本作についてお話しされましたか?
屋良「俺はまだ会えていないんです」
中川「僕は2人にお会いして、五朗さんから“あの時のアッキーを上回らないといけないんだよ”って言われました」
屋良「うわぁ、凄く五朗さんらしい言葉だね」
中川「そうだよね。五朗さんって尊いなと思いましたね。芸術の世界において妥協せず、常に最高のものを届けてきているという自信を感じました」
屋良「五朗さん、2015年の再演の時も言っていたよ。“初演と同じことをやっていてもコケるよ、どうブラッシュアップする?”って投げかけられたのを覚えてる」
中川「五朗さんに“演劇で俺たちは何が出来るか”と言われたことを思い出します。僕は演劇から始まった人間ではなく、シンガーソングライターとしてデビューをしているので、ミュージカルをきっかけに、歌でお芝居をしていくというのが面白かったんです。
でも2009年にシアタートラムで上演された『7Days Judgement 死神の精度』という作品に出演した時、香川照之さん、鈴木省吾さん、ラサール石井さんとの4人芝居で、ストレートプレイで、自分とはかけ離れているチンピラという役で。
どうやって演じれば良いのか分からなかった中で、お芝居というのは1人で作れなくて、演出家がどういう芝居を求めていくか、芝居でどうストーリーを立ち上げていくか、どう感情のキャッチボールをするかなのだと、そういうことをとても実感しました。
五朗さんの“演劇”という言葉を聞いた時に当時のことを思い出して、雪之丞さんの描いたピーター像、五朗さんの演出するピーター像がある上で、自分がどう役を作っていくかというのを常に考えながら過ごしましたし、そういったキャラクターを初演再演と演じられたのは、僕にとって大きな財産だったと思います。それを胸にまた再演に挑みたいですね」
「エンタメの真髄」が詰まった作品
−本作はエディとピーターが書いたミュージカルが物語上の現実と入り混じり、さらには観客が観ている劇場の現実とも混ざっていく感覚があります。
屋良「観客に投げかけていくような、特殊な終わり方だよね。現実に戻ったら、今度はあなたたちが主役で、新たな物語を始めていくんだよ、というメッセージ性も、この作品の面白いところなんだろうな」
中川「それを投げかけるのが、俳優の役ではなく、ソングライターズ、作詞・作曲家の2人というのも良いんじゃないかな。ソングライターは夢を届けたり、時代を歌ったりする仕事で、歌っている物語が作り話でも、聞き手にとっては現実の物語だったり、自分の物語に重なったりする。そういう音楽の力がギュッとこのタイトルに凝縮されている気がするし、最後にお客さんに投げかけるのも、ソングライターズならではの意味があると思う」
−本作の“この世に100の悲しみがあっても101個めの幸せを書き足せばいい”というメッセージも、ミュージカルを愛する観客としての自分にとても重なります。現実で嫌なことがあった時にミュージカルを観て、エネルギーをもらうと、まさに101個めの幸せを書き足してもらったような、救われた気持ちになるので。
屋良「それはエンタメの真髄でもあるかもしれないですね。現実逃避させるということも、エンターテイメントとして1つの必要な役割だと思います」
中川「初演再演時にお客様からなぜここまで多くの反応を頂けるんだろうと思った、その1つの答えを今頂いた気がします。本作の冒頭で、“言葉は翼、音楽は風”と歌っているのですが、それがまさに劇場で行われていて、それこそが劇場空間だなと今感じました。再再演にあたって、色々イメージが膨らみました」
ミュージカル『SONG WRITERS』は11月6日(水)から28日(火)までシアタークリエにて上演。公式HPはこちら
作品が上演されるシアタークリエでの貴重な撮影となりました!お二人は撮影中もインタビュー中もずっとお話が盛り上がっており、絆の深さを感じました。