2001年にブロードウェイで12部門で最優秀賞を受賞、日本でもこれまでに3度上演されてきた人気ミュージカル『プロデューサーズ』。スーザン・ストローマンさんのオリジナル演出・振付をベースに、ブロードウェイ版・ウエストエンド版・映画版で『プロデューサーズ』に出演してきたジェームス・グレイさんによって、新演出版で上演が行われます。11月8日の開幕を前に、濵田崇裕さん、神山智洋さん、王林さんらが取材会と公開ゲネプロに臨みました。
「上手く星座が並ぶ瞬間」が実現。新しい『プロデューサーズ』を
取材会には新演出版にて演出・振付を務めるジェームス・グレイさんと、濵田崇裕さん、神山智洋さん、王林さんが登壇しました。
本格ミュージカル初出演となるWEST.の濵田崇裕さんは、「不安はなく、ジェームスがユニークなので、色々なジョークを交えながらで稽古場が楽しく、あっという間でした」と稽古を振り返ります。
神山智洋さんは「WEST.10周年のタイミングでメンバーの濱ちゃんと2人でミュージカルをやれるというのは凄く安心感を稽古中から感じていて。濱ちゃんはコメディ作品をたくさんやってきているので、自分が迷ったときは濱ちゃんに相談してきました」と明かします。コメディシーンについて濵田さんに度々相談し、神山さんが「めっちゃおもろいやん!」と思う答えが返ってきたそうです。
これに対して濵田さんは「嬉しい。でも僕もほぼほぼ新納(慎也)さんに助けて頂きました」と語ると、演出のジェームス・グレイさんも「新納さん!皆さん、新納さんは毎日新しいアイディアを持ってきてくれました。ぜひ楽しんでください!!」と太鼓判を押されました。
初舞台・初ミュージカルでヒロイン役に挑む王林さんは「初がこんな体験で良いのかというくらい恵まれた環境と、スタッフさんたち、演者の皆さん、衣装、音、セットも本当に豪華な作品で。それでいて面白い作品なので、大変だと思ってもみんなに会えるから頑張っていこうとか、稽古をしているといつの間にか元気になっていたりとかしていて。初めての作品が『プロデューサーズ』という作品で良かったなと思っています」とご挨拶。
ジェームス・グレイさんは本作のカンパニーについて、「今回が初ミュージカルの方々がいるとは信じられないくらい、本当に自然に、持ち前の才能を持ってたくさんのアイディアを持ってきてくださって、僕も笑いっぱなしです」と語り、「この作品にはブロードウェイ版、オリジナルロンドンキャスト、映画版の出演と長く関わっているのですが、これは全く異なる新しい作品だと考えています。コピーではなく、このカンパニーならではの作品に仕上がっています」と自信を覗かせます。
濵田さん、神山さん、王林さんの3人については「まず“beautiful”!美しくて面白い役者さんはなかなかいらっしゃいません。それだけじゃなく、ダンス・歌も才能溢れる3人です。一生懸命にも取り組んでくださって、楽しい時間を過ごさせていただきました」と絶賛し、3人も笑顔に。
神山さんは「『プロデューサーズ』という作品に対するジェームスの思い入れというのが毎日ひしひしと伝わってくるのですが、ある日通し稽古をした後に、ジェームスが泣いたんです。その時に、頑張ってきて良かったなって心から思いましたし、ジェームスが思い描く『プロデューサーズ』に少しでも近付いているのかなという自信にも繋がりました」と特別なエピソードを明かしてくださいました。
これに対してジェームスさんは「ショービジネスは難しい。オンタイムできちんと仕上がることも奇跡的です。でもキャリアの中でたまに上手く星座が並ぶ瞬間があるんです。素晴らしい音楽、素晴らしいストーリー、素晴らしい演出と振付、そしてキャスティング。一番難しいのがキャスティングで、キャラクターに命を吹き込む人を見つけなければなりません。コメディは一見、楽に見えますが、全然楽ではありません。正確性が必要です。このカンパニーはキャスト皆が面白さの才能を持っていて、通し稽古を見ていて素晴らしさに圧倒されて、初めてこの作品に携わった時のことを思い出しました」と想いを語りました。
デビュー前から約20年間、共に時を過ごしてきた濱田さんと神山さん。「マックスが体を使って表現するシーンで何故か条件反射で一緒に動いちゃうんです。それはもう20年の付き合いだからこそなせることなのかなと思います。お互いを分かっているから遠慮なしにできるし、“ここはこうしたいやろな”となんとなく分かるんです。阿吽の呼吸があるというのは改めて実感しました」と神山さんが語り、濱田さんも「2人だから成立した歌のシーンとか、勝手にシンクロしていくことが多い」と頷きました。
抜群のコンビネーションで魅せる濱田&神山、初ミュージカルで存在感を放つ王林
かつてはブロードウェイでヒットを飛ばしていたプロデューサーのマックス(濵田崇裕さん)でしたが、今やすっかり落ちぶれ、新作は酷評の嵐。新作『FUNNY BOY』はすぐにクローズされ、破産寸前に陥っています。
そんなマックスの元に派遣されてやってきたのが、気弱な会計士のレオ・ブルーム(神山智洋さん)。レオはマックスの帳簿を見て、成功した芝居よりも失敗した芝居のほうが利益を産むことに気がつきます。
そこでマックスは、計画的に芝居を失敗させて出資者から集めた資⾦をだまし取り、⼤もうけしようと企むことに。レオは一度協力を断りますが、会計士として高圧的な上司に怒られながら“みじめ”に働くことに嫌気がさし、密かに夢だったブロードウェイのプロデューサーになることを決意。
絶対的に芝居を失敗させるため、マックスとレオは「最悪の脚本家、最悪の俳優、最悪の演出家」を探し始めます。そこで見つけた脚本が、ヒトラーをこよなく愛するドイツ⼈のフランツ・リープキン(岸祐二さん)が書いた『ヒトラーの春』。フランツのヒトラー愛にビビりつつも、なんとか契約を取った2人は、次に演出家ロジャー・デ・ブリ(新納慎也さん)とアシスタントのカルメン・ギア(神里優希さん)の元へ。
ロジャーは「明るい作品しかやりたくない」と断ろうとしますが、マックスはロジャーに「トニー賞を取れるかも」という魔法の言葉を囁き、契約に漕ぎ着けます。
そしてマックスとレオの元に、オーディションを受けに⼥優志望のスウェーデン娘のウーラ(王林さん)が現れます。ろくに英語がしゃべれないものの、色気たっぷりのウーラにメロメロなマックスとレオ。マックスはウーラを主演女優に抜擢します。
マックスは、欲求不満で裕福な老婦人、ホールドミー・タッチミー(島田歌穂さん。友近さんとのWキャスト)らから⾊仕掛けで出資⾦を集め、史上最悪のミュージカル製作を開始。確実に失敗する!と意気込むマックスでしたが、なぜか『ヒトラーの春』は“風刺が突き刺さる大傑作”と評価されてしまい…。
濵田崇裕さんは抜群の歌唱力とコメディセンスで、舞台上を軽やかに、自由自在に動き回ります。マックスは陽気で少々自信過剰な“ザ・プロデューサー”ですが、濱田さんが持つ人柄の良い空気感が滲み出て、どこか憎めないキャラクター像を創り上げています。2幕後半でアドリブも交えながら歌い上げるソロナンバー「BETRAYED」は圧巻です。
神山智洋さんは気弱で神経質なレオを好演。赤ちゃんの頃から持っているブランケットを握りしめ、ブランケットが奪われると大パニックに。気弱なレオと、パニックになって暴れ回るレオとのギャップが笑いを誘います。会見でお話しされた通り、濱田さんとの掛け合いはまさに阿吽の呼吸。歌声は伸びやかでハーモニーも美しく、しなやかなダンスもたっぷりと堪能できます。
驚かされたのは、本作が初舞台・初ミュージカルとなる王林さん。声量、台詞・歌詞の聞き取りやすさ、美しい歌声、そしてウーラ役にピッタリのコメディセンスと華。ミュージカル女優としての才能の高さを感じ、“新たなミュージカルスターの誕生を目撃した!”という興奮に包まれました。
更に、新納慎也さんと神里優希さんによる、ロジャーとカルメンの演出チームも爆笑必至。個性溢れる陽気なゲイを振り切って演じ、初登場以降は2人の再登場を待ち望んでしまいます。
島田歌穂さんも普段の上品な歌姫のお姿を封印し、お下品で欲求不満なホールドミー・タッチミーを見事に演じます。濱田さん演じるマックスとのやりとりは笑わずにはいられません。
生演奏のオーケストラによる美しく壮大な音楽に、タップを盛り込んだ華やかなダンスシーン、煌びやかなセットや衣装。ブロードウェイミュージカルらしさが詰め込まれながらも、翻訳を徐賀世子さん、訳詞を森雪之丞さんが担当した本作では、「モラハラ」「バズらせて」など現代的な言葉も盛り込まれ、日本語としての親しみやすさも高いのが魅力的です。
そして個性的すぎるキャラクターたちが織りなすコメディに次ぐコメディにいつの間にか現実を忘れ、非日常の世界へと誘われます。どんなに逆境に陥ってもタダでは転ばない彼らの姿には、きっと勇気をもらえるはずです。
ミュージカル『プロデューサーズ』は11月8日(金)から12月6日(金)まで東急シアターオーブにて上演されます。公式HPはこちら
ブロードウェイを題材に、ユーモアに、時にシニカルに描いた本作は、ミュージカルファンとしてもたまりません。『プロデューサーズ』は、コメディセンスはもちろん、歌・ダンスも技術力の高さが求められる難しい作品。キャストそれぞれが才能を放ち、ジェームス・グレイさんが涙したのも納得の、奇跡的なカンパニーだと感じました。