俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。今月は秋風を感じながら、1歳のココくんと一緒にお散歩!小野田さんは、来年芸歴25周年を迎えます。日々の積み重ねで役を創り上げていく舞台俳優としての生活を、長年続けている小野田さんに、「積み重ね」をテーマにお話を伺いました。
詩的な日本語の『レ・ミゼラブル』は特別
−今日はワンちゃんとの撮影でしたが、いかがでしたか。
「生まれた時から実家には犬がいたので、やっぱり癒されますね。犬を飼っている友人も多いので、よく一緒に遊んでもらっています。ワンちゃんと遊ぶとリフレッシュも出来ますし、僕、ワンちゃんとすぐ仲良くなれるんですよ。今日もとっても癒されました」
−直近は『レ・ミゼラブル』の稽古の日々でしょうか。
「そうですね。今回は、かなり丁寧に稽古が進んでいます。前回の日本公演から少し空いたことや、その間に海外での公演でリニューアルされた部分もあるので、イギリスのスタッフが最初から稽古に参加していて、細かく演出がつけられています。僕らとしても新しい発見が多いですね」
−その中で感じる難しさはありますか。
「やればやるほど、日本語の『レ・ミゼラブル』は特別だなと思います。岩谷時子さんの訳詞がとても詩的なので、“英語ではそういうテイストの芝居もあるけれど、日本語の詩的な世界に合っているのかな”と考え直すこともあって。でも演出家が求める新たな挑戦も出していきたいし、そういった基礎的な部分に立ち戻って悩んだり、話し合ったりしながら、創り上げているところです」
−アンジョルラス役からジャベール役への役替わりは、作品への見え方も一番変化しそうですよね。
「バルジャンを筆頭にみんなは解放されたり、エネルギーを発散したりしているけれど、ジャベールはずっと感情を溜め込んで突き詰めていくから、作品の中でも異質な存在だなと思いますね。発散できていないからか、稽古が終わると焼肉に行きたくなるんですよ(笑)。役替わりしたからこそ出来ることなのかなと思うのは、アンジョルラスとして舞台に立っていた時にジャベールに感じていたことを思い出して、“じゃあ自分はこうしてみようかな”とトライすること。先日の稽古では木内健人くんがアンジョルラス役だったのですが、2021年の公演では僕も木内くんも同じアンジョルラス役だったので、今はジャベールとして対峙するのだなと思うとなんだか胸熱でした」
俳優としての1番の進化は、ステージに立ち続けること
−2025年2月に帝国劇場で行われるCONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』ではレギュラーキャストとしての出演が発表されました。
「非常に感慨深いものがあります。様々なスターが生まれ、作品が生まれた劇場ですし、自分も子どもの頃から観客として通い、今は俳優として、カンパニーの一員として立たせて頂いている場所です。舞台に立つたびに“ここはインペリアルシアターなのだな”と感じる瞬間があるので、一旦のクローズのコンサートをレギュラーキャストとして務めさせて頂けることは光栄ですし、これが終わりではなく、日本のミュージカルの歴史の新たな始まりになるよう、パフォーマンスをしていければと思っています。チケット料金の細分化をこのタイミングで行うというのも、新たなトライをしていこうという姿勢だと感じました。やってみて見直さなければいけない部分もあるかもしれないけれども、歩み出すというのが大事なことだと思います」
−小野田さんは来年25周年を迎えますが、俳優として、日々を積み重ねてきて思うことはありますか。
「俳優はレッスンや稽古ももちろん大事だけれど、ステージに立ち続けることが一番の進化に繋がるんです。それも、同じような作品・役をやり続ければ良いわけではなくて、色々な作品・役と出会っていかなければいけない。本番の舞台に立つというのは有意義なことであり、怖いことでもあります。相当の精神力と肉体を使わなければいけないし、そのために長い稽古期間が必要です。本番が始まってからもコンディションとの戦いがある。子どもの頃から舞台に出ていると一回ブランク期間のある方も多いのですが、僕はありがたいことにブランクの期間がなく、舞台に立ち続けられているというのは大きいなと思います」
−年齢によって、出られる役の変化もありますよね。
「10代後半、年齢に合う役がなかなかない時期に、僕は2.5次元ミュージカル『テニスの王子様』に出ることが出来ました。俳優として新たな挑戦にもなりましたし、そういった出会いに恵まれたなと思います」
“積み重ね”とは“愛し続けること”
−長年やり続ける中で、舞台に立つことが辛くなることはなかったのでしょうか。
「ないんです。もちろん精神的に大変な役だなと思うことや、体調が良くないなと思うことはありますが、僕はむしろ自分の人生で、舞台に立つことや稽古をすることにしか興味がないんですよ。 “積み重ね”と聞くと、僕の中では“愛し続けること”なのかなと思っています。舞台芸術が大好きで、色々なものを見たり聞いたり調べたり、稽古に入る前は実は様々なことを勉強していますが、それは僕にとって努力ではなく、日常なんです。そういった運命の仕事に巡り会える人ばかりではないと思うので、幸せなことだし、自分のポリシーとプライドを持って、生きていかなきゃいけないなと思いますね」
−どういったことを勉強されているのでしょうか。
「作品によって違うけれど、オリジナル音楽を聴き込んだり、原作の本を読んだり、映画を見たり。それを観る中で、“自分だったらこうやるかな”と想像します。よく稽古場で“初めてやったようには見えない”と言われるのですが、それも事前に世界観を理解して臨んでいるからなのかなと思っています」
−好きなことをやり続けているからこそ、思うような成果が出ずに苦しい思いをすることはないですか?
「いくらでもあります。“何かもっと面白く出来ないのかな”と思うことは日々ありますが、そういう時は色々なものを手放します。例えば譜面に忠実にやってみたり、丁寧にやってみたり、逆にスピーディに極端にしてみたり。自分の中でもがくよりも一回シンプルにすることで、違うものを見つけられるようにトライしますね」
−精神的にも肉体的にもハードな仕事ですよね。
「だからこそ、自分が好きなもの、ディズニーやお笑い、友達との時間も大事にしようと思えます。自分のメンタルヘルスを良い状態にしておかないと、役のメンタルも調整できない。自分のメンタルを整えるのも、俳優としての仕事だと思っています」
−年齢を重ねると、先輩になることも増えてきたのでは?
「そうですね。『レ・ミゼラブル』のアンサンブルの子には、僕と1回り違うとか、その子が生まれた時はもう僕は歌っていた、という子もいるんですよ。今は厳しく教えられる機会のない子が多いけれど、長期間、1つの作品で壮絶なドラマを演じ続けるには、ただ楽しいだけではやっていけないことも多いです。先輩だからこそ伝えられることが絶対にあるので、それを大事に伝えられる先輩でいたいなと思います。僕が若い時にかっこいいな、あんな大人になりたいなと思う先輩って30代が多かったので、後輩たちから見てそういう俳優でいられたら嬉しいですね」
−『レ・ミゼラブル』に役替わりで出演するというのも、長く活躍し続けたからこその特権ですね。
「『レ・ミゼラブル』は長い歴史がある作品だから、エポニーヌやコゼット、マリウス、アンジョルラスを演じていた俳優がバルジャン、ジャベール、ファンテーヌ、テナルディエなどを演じるようになることが多いですよね。古い作品というだけでなく、コンスタントに上演し続けられているからこそ起こることだとも思うので、作品と一緒に俳優も成長するというのも、『レ・ミゼラブル』の魅力の一部なのだろうなと感じます」
−観客も年齢を重ねることで見え方が変わったり、当時共感した役を演じた俳優さんが役替わりしたことで、新たな役に共感したりすることが出来ます。
「お客様も含めて、みんなで成長していくって、なんだか奇妙な作品ですよね。それだけ積み重ねられている作品なのに、毎回新たなトライを必ず求められる作品でもあります。何年、何回やっても慣れないし、精神力が鍛えられる作品です。その奥深さを、新しい若いキャストの皆さんにも感じてもらえたらと思います」
−25周年にやりたいことはありますか?
「僕自身はあまり意識していないんです。変わらず、素敵な作品に出演して、皆さんに会えるのを楽しみにしています」
ミュージカル『レ・ミゼラブル』は2024年12月16日(月)から12月19日(木)までプレビュー公演、12月20日(金)から2025年2月7日(金)まで 帝国劇場で上演。その後、大阪・福岡・長野・北海道・群馬と全国ツアー公演が6月まで行われます。公式HPはこちら
舞台芸術を“愛し続ける“その裏には、努力を当たり前に積み重ねられる強さがあると感じました。撮影現場では、撮影スタッフもココくんにメロメロ、和やかな撮影となりました!ココくんには来月も登場してもらいますので、お楽しみに!