アルフレット・テニスンが書いた物語詩『イノック・アーデン』。そして、この詩からインスパイアを受けたリヒャルト・シュトラウスによる楽曲。それらを融合し誕生した作品が、3月に新国立劇場にて上演されることが決まりました。
不変かつ普遍である“愛”がテーマ 3人の登場人物が描く物語とは?
イギリスの桂冠詩人(英国王室が与える最高の称号)として称されるアルフレッド・テニスンが1864年に書いた物語詩である『イノック・アーデン』。この物語詩では、ひたすら愛する人を待ち続けた妻アニー・リーと、その期待に応えるべく努力を重ねた男イノック・アーデン、そして夫を待つ女性を深く愛しているが故に友情と愛情のはざまで揺れ動く幼なじみの男フィリップ・レイの三人を描く、哀しくもロマンチックな物語です。
その物語は、夏目漱石が「ここに人間がある。活きた人間がある。感覚のある情緒のある人間がある」と絶賛するほどで、人間というものの“らしさ”を“愛”というものを通じて存分に描いた物語なのではないかと想像します。
そして今回、この物語の演出・振付を務めるのはウィル・タケットさん。25年以上、ロイヤルバレエのメンバーとして出演し、振付家としても活躍されています。近年は、日本で上演される作品の演出・振付も手掛けられ、特に2023年は『カスパー』、新作バレエ『マクベス』、『レイディマクベス』と日本で上演された3作品の演出・振付に携わりました。
今回この作品を作るにあたり、3人の登場人物によるトライアングルには、愛・忠誠心・義務の3つのテーマがあるとした上で、「そのトライアングルは、時には愛が損なわれると義務や忠誠心が引きずられ、また愛が戻ってくると、義務は存在しなくなり、しかし忠誠心に引きずられたり…。この絶え間ない緊張と三角関係(愛、忠誠心、義務)が密接に関わり、繋がっています。しかし、実はそれぞれが非常に異なってもいます。このテーマは時代を越え、私たちの人生で常に与えられているタイムレスなテーマであると思っています」とコメントしており、そんな密接に関わりあるテーマの中で描かれる物語を、現代を生きる私たちにどのように見せる作品に作っていくのかが楽しみです。
俳優・バレエダンサー・ピアニスト 各分野で活躍する表現者が集う舞台
この舞台には、普段あまり同じ舞台に立つことがない各方面で活躍する表現者たちが集まり作品を上演することとなります。
俳優界からは田代万里生さん、中嶋朋子さんが出演されます。ミュージカルをはじめ舞台を中心に活躍されている田代さん。今回出演するにあたり、書籍の『イノック・アーデン』手に取ったところ夢中になって最後まで一気に読まれたそう。今回共に作品を作り上げる共演者やクリエイター陣との出会いを楽しみにした上で、「様々な化学反応で一体どんな作品に仕上がるのか、どんな自分と出会えるのか、とても楽しみにしております」とコメントされています。
中嶋さんは映像作品・舞台問わずに出演されており、近年は朗読劇に力を入れ活躍されています。そんな中嶋さん、「語られるべき、受けとめられるべき「言葉」が、想像という大いなる海を内包し、劇場という空間に満ちた時、「物語」は、物語られるものから、私たち自身の命を紡ぐものへと姿をかえるのです。本公演は、作り手、観客双方にとって、そんな、大いなる想像の海に漕ぎだす、またとない機会であるに違いないのです」とコメントされており、作品への熱い思いを感じます。
バレエ界からは東京バレエ団より秋山瑛さん、生方隆之介さん、南江祐生さんの3人が出演されます。秋山さんは出演にあたり、「バレエはふだん言葉を使わない舞台芸術なのですが、『言葉が旋律に、音と身体が言葉となり語る一つの世界を紡ぐ舞台』という新たなクリエーションに挑戦できることが楽しみです」とコメントしており、普段出演されている舞台とはまた違った姿を見ることができるのかなと期待します。
演奏は世界的に活躍されているピアニストである櫻澤弘子さんが務めます。
朗読とダンス、そしてピアノによる演奏がこの『イノック・アーデン』に新たな命を吹き込むのかがとても楽しみです。
『イノック・アーデン』は、3月7日(金)~16日(日)まで新国立劇場小劇場にて上演されます。詳しくは公式ホームページをご覧ください。
中嶋さんがコメントで書かれている、「「言葉」が言葉を超え、情感が言葉と成り得るかー」という言葉が印象的で、朗読というものに力を入れ新しい形を模索する中で感じられたことなのかなと思いました。どんな舞台になるのか想像するだけで楽しみです。