オールメールという言葉を知っていますか?演劇作品のすべての登場人物を男性が演じるというこのスタイル。もしも、絶世の美女や恋する乙女の役を、男性が演じていたらどうでしょう。馴染みのない方は驚かれるかもしれませんが、時には女性が演じる以上に、役の美しさや可愛らしさを表現できるケースもあるのです。本記事では、オールメールの歴史に加え、日本の代表的なオールメールシリーズを紹介します。
オールメールの歴史って?シェイクスピアから歌舞伎まで
オールメール(オールメイルとも)とは、女性役を含むすべての役を男性の俳優が演じる演劇作品のことです。現代の日本の演劇界では、シェイクスピア作品でのオールメール上演が多く見られます。
この上演形式には、歴史的背景が関係しています。シェイクスピアが生きていた当時、舞台に立つのは男性俳優のみでした。しかし、シェイクスピア作品には多くの女性が登場するため、男性が女性の役を演じる必要がありました。そこで、変声期を迎える前の少年俳優が女性役を担当していたと言われています。
日本の伝統芸能である歌舞伎も、男性の役者のみで構成された舞台芸術です。「女形(おんながた)」と呼ばれる役者たちは、代々、女性を演じる「形式美」を継承し、男性でありながら美しい女性の姿を体現して観客を魅了しています。
中国の伝統演劇でも、女性役は男性によって演じられてきました。オールメールによる上演の歴史は、世界中で長く続いているのです。
日本を代表するオールメール・シリーズは?
日本の演劇における「オールメール」といえば、2016年に亡くなった世界的演出家・蜷川幸雄氏を思い出す方も多いのではないでしょうか。
蜷川氏は、2004年から「オールメール・シリーズ」と銘打ったシリーズを立て続けに上演しました。上演されたのはすべてシェイクスピアの作品で、当時絶大な人気を誇っていた若手俳優がキャスティングされています。
2004年に『お気に召すまま』で成宮寛貴さんとともに主演を務めた小栗旬さんは、2006年の『間違いの悲劇』でも主演を務めています。
2007年の『恋の骨折り損』では北村一輝さんと姜暢雄さんが主要キャストに。ワイルドなイメージの強い二人ですが、姜さんがフランス王女の役を演じて新境地を開拓しました。
2008年には、小出恵介さんらが出演した『から騒ぎ』、2010年の『じゃじゃ馬馴らし』、ギリシャ神話を下敷きにした2012年の『トロイラスとクレシダ』など、シェイクスピアの喜劇から悲劇まで、さまざまな作品がオールメールで上演されています。
そして、2014年には、菅田将暉さんと月川悠貴さん主演で『ロミオとジュリエット』が上演されました。この作品は、蜷川氏が初めて手掛けたシェイクスピア作品であり、思い出深い作品を改めてオールメールで上演する試みに多くのファンが注目しました。
本作品でジュリエット役を演じた月川さんは「オールメール・シリーズ」の多くの作品で女性の役を演じており、そのミステリアスな美しさで多くのファンの心を捉えています。
2025年夏上演、オールメールで描く『泣くロミオと怒るジュリエット』
2025年7月に上演されるオールメール作品は、『焼肉ドラゴン』や『パラサイト』など数々の名演劇を生み出した劇作家・演出家の鄭義信さんによる『泣くロミオと怒るジュリエット2025』。

この作品はシェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を下敷きに、戦後の関西を舞台にした物語です。
ロミオ役を演じるのはWEST.の桐山照史さん、ジュリエット役を演じるのは柄本時生さん。2人は2020年の初演時にも同じ役を演じており、再演となる今回も期待が高まります。
また、ならず者たちの抗争劇を描きつつも、人種や国の間で起きる差別や格差などの社会的なテーマも織り込まれた作品です。このエネルギッシュな作品をオールメールで上演することで、作中に込められたメッセージをより強く受け取れるかもしれません。
『泣くロミオと怒るジュリエット』は2025年7月6日(日)~7月28日(月)まで、東京・THEATER MILANO-Zaにて上演。その後8月2日(土)~8月11日(月・祝)まで、大阪・森ノ宮ピロティーホールにて上演されます。公式ホームページはこちらです。

ジェンダーレスな表現が注目される現代において、オールメールは注目すべき上演スタイルかもしれません。性別の違いを演技の力で超越するという素晴らしさも、演劇ならではの魅力に思えます。