「愛の讃歌」「バラ色の人生」などの名曲で知られるフランスの歌手エディット・ピアフの激烈な生涯を描いた音楽劇『ピアフ』。2011年の初演以来、本作に挑み続ける大竹しのぶさんは、2026年1月の公演で上演200回を達成します。本記事では、シアタークリエ 上演15周年記念公演『ピアフ』製作発表会見の様子をお届けします。

「歌うことは祈りに近い。天と地を結ぶ役目が歌にはある」

フランスが最も愛した歌手「エディット・ピアフ」の人生をイギリスの劇作家パム・ジェムス氏が描いた『ピアフ』。ブロードウェイ、ウェストエンドで歴代の名女優によって演じ継がれてきた本作を、日本では2011年以来、大竹しのぶさんが演じてきました。

2022年の公演ではコロナ禍の中止もありながら、6度目の上演となる2026年、200回の上演回数を達成予定となっています。

演出を手がけるのは、『ピアフ』初演で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した栗山民也さんです。

製作発表会見には、大竹しのぶさん、梅沢昌代さん、彩輝なおさん、廣瀬友祐さん、藤岡正明さんが登壇しました。

「ピアフの“あたしが歌うときは、あたしを出すんだ。全部まるごと”という台詞が大好きで、今回も1回1回全力で演じていきます」と意気込みを語った大竹さん。「ピアフをやっていて、歌の素晴らしさ、歌の持つ力というのを教えられました。歌うことは祈りに近い。客席に向かって歌っているのではなく、天と地を結ぶ役目が歌にはあるんだなというのをピアフに教えられました。あと必死に生きる、必死に愛するということもなんて素敵なんだろうと思います」と作品の魅力を語ります。

ピアフと少女時代から行動を共にする生涯の友人トワーヌを演じる梅沢昌代さんは「この作品はもうすごいスピードで展開していって、ピアフが亡くなる前に自分の人生を走馬灯のように見ている作品だと思います。ピアフと娼婦時代から人生を共にして、貧しいからこそのたくましさと、優しんですけれど愛を押し付けないトワーヌが好きです。私にもそういう友人がいますけれど、何年も会っていなくても同じ時代に生きた人とはすぐに戻ってその時の話ができる、そういう人が1人でもいたらそれは幸せなんじゃないかと思います。今、愛することや傷つくことを怖がる人が多い世の中なので、そういう人たちにも見ていただきたいなと思っています」と想いを語ります。

ピアフの盟友で女優・歌手のマレーネ・ディートリッヒを演じるのは、彩輝なおさん。本作を「心の支えの1つ」と語り、「役を通してでもあると思いますけれど、私から見るとピアフは愛を人々に与え続けたという印象を、回を追うごとに感じます。マレーネ・ディートリッヒはピアフと歳が離れているんですけれども、親友のように、そしてどこか母親のように、親しく愛していたと思います。魂が惹かれ合う間柄だと思います」と語りました。

今回が本作に初参加となる廣瀬友祐さんは、ピアフと最も熱い恋をしたボクサーで、航空機事故で命を落とすマルセル・セルダンを演じます。「作品の魅力は、とにかく映像で感じたのは誰もが認める大竹しのぶさんの演技だと思います」と語ります。

ピアフが愛し見出す、フランスで最も偉大な歌手イヴ・モンタンを演じるのは、2013年以来、13年ぶりのカムバックとなる藤岡正明さん。「イヴ・モンタンさんは187cm身長があったと。僕171cmなんですよ。開演まであと1ヶ月くらい、あと15cm背が伸びるように応援していただけたら」とお茶目にコメント。

本作の魅力について「ピアフを中心に、その周りに生きた人々は、現代、僕自身とも比べたときに、はるかに高い熱量、パッション、覚悟を持って生きている人たちのお話であるということ。もう一つは、愛というのは果たして一体何者なのだろうかというところ。愛の定義を問いかけるのではなく、作品全体にある、数字では表せない、歪さもあるような愛が描かれていることが、作品の魅力なんじゃないかと思います」と語ります。

演出の栗山民也さんからは以下のメッセージが送られ、大竹さんが代読しました。

「2024年のパリ・オリンピックのその開会式をTVで見ていたら、最後にセリーヌ・ディオンが現れて、PIAFを歌った。
あぁ、やっぱり自由で過激で思いっきり素敵なフランスだなぁと、胸が熱くなった。
ベルヴィルという移民たちの多く住む貧民街の、その路上に産み落とされたPIAFが、高くエッフェル塔の上から世界を見下ろしながら、愛の歌をこの地球のみんなに送った。
この舞台は、PIAFという名の一人の女の「革命劇」なのだと思う。
来年1月、上演15周年記念公演として、日本のPIAFであるしのぶちゃんが、再び劇場を熱い情熱でいっぱいにしてくれるだろう。僕はもう演出家というより、一ファンとして、熱い拍手を送ろう。」

これを受けて大竹さんは「栗山さんは“現代に通じる『ピアフ』を創っていこう”と15年前からおっしゃっていて、前回(2022年)の公演初日は2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した日でした。“戦争が始まりました”という台詞が私たちの中でこんなにもリアリティを持って感じるものなのかと思ったことがありました。それから4年近く経って、まだこの世界で戦争が行われているということ。そういう思いも込めて、愛の歌を“地球のみんな”に、劇場のみんなに届けられるよう、みんなと頑張っていきたいと思いました」と語りました。

また、若い観客に向けて伝えたい本作の魅力について伺うと、梅沢昌代さんは「怖がる人生ではなく、傷ついても何かに挑戦していって欲しいです。そして、今戦争があちこちで起きているということにも関心を持ってほしい。本作でもそういったシーンが出てきますが、どれだけ傷ついて、どれだけ戦争が終わったら喜ぶか。そういうエネルギーを届けたいと思います。ばあさん頑張っているなぁと思われたいです(笑)」と想いが語られます。

廣瀬さんは「どういうメッセージが響くのか分かりませんが…生の大竹しのぶさんが観れるよ!」と一言。

大竹さんは「ちゃんと愛せよ!こういうものなんだよ!と叩きつけてやりたいです(笑)。一回いつだったか、お稽古で相手役の方に“愛してよ!”と叫んだことがあります。その時はピアフになっていたから。楽屋に走っていって“もっと愛して!”って。怖いね(笑)」とチャーミングに語り、ピアフとして生きる熱い想いが伺えました。

藤岡さんは「今は本当に生きづらいなといつも思うんです。コンプライアンスとか、難しい線引きだと思うんです。何をハラスメントと言うのかとか、どう人と人が付き合っていくのが最善なのかというのが分かりにくいと思うんですけれど、この作品が一つの形だと思います。人と人とが本当に強く強く重力で引っ張り合うと、こういうことが起こるはずだよねと」とコメント。

彩輝さんは「ピアフの生きた時代も、とても過酷で、皆さんたくましく生き抜いたと思いますけれども、今もまた違った意味で、もしかしたら過酷なのかもしれない。そんな中でもたくましさはやはり必要ですし、魂の解放みたいな、そういったものは人間なんですから大事だなと感じることが多いです。なので、劇場にいらしていただいて、肌感でそれを感じていただけたらと思います。そして皆さんが自由に受け取ったメッセージが、何か元気になる支えになったりしたら良いなと思います」と語りました。

撮影:蓮見徹

上演15周年記念公演『ピアフ』は2026年1月10日から1月31日まで日比谷シアタークリエ、2月6日から8日まで愛知・御園座、2月21日から23日まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演が行われます。公式HPはこちら

先日も『リア王』で凄まじい生き様で魅了してくださった大竹さん。本作では歌唱も多くあり、大竹さんの唯一無二の表現に触れられるのが今から楽しみです。