山本卓卓さん率いる演劇集団「範宙遊泳」の舞台『われらの血がしょうたい』が、2026年2月に東京・シアタートラムで上演されます。2015年の初演版を新しい演出、そして新しいキャストによってリクリエーションされる意欲作です。
“インターネットは血をみるか?”現代社会に生きる人々に問いかける作品
舞台『われらの血がしょうたい』は、人工知能を介して人間の根源的な営みや愛、生命を見つめ、人間の本質とは何かを考えさせる作品です。2015年に演劇集団「範宙遊泳」によって横浜で初演され、続く2016年にはインドで公演が行われました。
作家・演出家・俳優の山本卓卓(すぐる)さんが2007年に旗揚げした「範宙遊泳」は、現実と物語の境界線を行き来することで普遍的なテーマを紐解こうとする表現方法が特徴。東京を拠点に、アジア諸国やニューヨークなど海外での公演にも積極的に取り組んでいます。
今回の再演にあたっては新たに気鋭の演出家とゲスト俳優を迎え、2026年版の『われらの血がしょうたい』を創り上げます。11年前の初演時と比べてますますインターネットが日常に同化し、AIの存在感も高まっている今の時代だからこそ、作品の世界観がよりリアルな実感を伴って迫ってくるでしょう。
<あらすじ>
ネット上に不可解な投稿を残して消えた母。海の彼方に消えてしまったらしい彼女はある日、家電製品の人工知能“ザマ”として現れる。娘の痕跡を見守りながらも時は流れ、住む人間が次々と入れ替わっても、“ザマ”は人間の歴史を積み上げながらバグとともに存在し続けている-。
演劇界で高く評価される山本卓卓×額田大志の初タッグが実現
本作の初演で作・演出を手掛けた山本卓卓さんですが、今回は作・映像を担当します。山本さんは、幼い頃から親しんできた映画や文学など芸術分野の素養を活かし、加速度的に倫理観が変容していく現代社会を劇世界へと鮮明に反映させる手法が持ち味。2022年には作・演出の戯曲『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞しました。
近年は活動の場を海外にも広げる一方で、オンラインを創作の場とする「むこう側の演劇」や子どもと一緒に楽しめる「シリーズ おとなもこどもも」、青少年や福祉施設向けのワークショップ事業など多様な企画を打ち出し、演劇の可能性を探求しています。
また、3月10日からPARCO劇場で開幕する舞台『ジン・ロック・ライム』でも脚本を手掛けています。
そんな山本さんが、『われらの血がしょうたい』の初演で用いた視覚的なアプローチに聴覚的な要素も加えたいと声を掛けたのが、作曲家・演出家・劇作家の額田大志さん。東京藝術大学では作曲を専攻し、現代音楽や舞台音楽、映像音楽を中心に学んできました。2016年に結成した演劇カンパニー「ヌトミック」では「上演とは何か」という問いをベースに、音楽のバックグラウンドを作品の脚本と演出に用いることで演劇や舞踏などパフォーミングアーツの枠組みを拡張しようとしています。
また、俳優に限らずダンサーやミュージシャン、映像作家など出自の異なるパフォーマーともコラボ。それぞれの個性を最大限に引き出して作品を立ち上げる柔軟な演出の手腕が評価されています。「ヌトミック」作品の中では2016年に『それからの街』で愛知県芸術劇場が主催する第16回AAF戯曲賞の大賞を受賞し、2021年の『ぼんやりブルース』では第66回岸田國士戯曲賞の最終候補作にノミネート。第70回岸田國士戯曲賞の最終候補作品には「ヌトミック」の音楽劇『彼方の島たちの話』が挙げられています。
そして先日発表された第33回読売演劇大賞では、演出・音楽を務めた第3回滋企画『ガラスの動物園』が優秀作品賞に選ばれ、自身も優秀演出家賞を獲得しました。今まさに注目を集める額田さんが本作の演出・音楽を託されたことでどのような舞台が出来上がっていくのか、期待が高まります。
範宙遊泳のメンバーとゲストの若手俳優で新演出版に臨む
本作には「範宙遊泳」のメンバー4名が参加し、そのうち2名は新キャストとなります。
1人は、俳優としてだけでなく戯曲に短歌を提供したり映像作品の脚本執筆や監督を務めたりと幅広く活動する井神沙恵さん。2014年より演劇ユニット「モメラス」に所属しながら『バナナの花は食べられる』『心の声など聞こえるか』といった「範宙遊泳」の作品に継続して出演し、2025年に劇団入りしました。
もう1人は俳優兼ダンサーの植田崇幸さんです。大学で演劇と出会って以来、映像作品やミュージカルなど数々の作品に出演。23歳からはコンテンポラリーダンス作品にも参加しており、演技はもちろん磨かれた身体能力による表現にも注目です。
一方で初演から引き続き出演するのは、軽妙な演技と台詞回しで独特の存在感を発揮する埜本幸良(のもと さちろう)さん。2010年より「範宙遊泳」に加わり、劇団内外でさまざまな公演に参加してきました。近年は、ワークショップのファシリテーターとして劇場や教育施設における活動にも注力。さらに2022年に結成した演劇ユニット「ほころびオーケストラ」では脚本を手掛け、野外劇や親子で楽しめる劇を目指しています。
また、言葉と身体を用いた自由な表現で新境地を開拓している福原冠(かん)さんも続投します。2014年に「範宙遊泳」の一員となり、2015年よりインタビューによって作品を立ち上げるユニット「さんぴん」を始動。主な出演作に劇団公演の『バナナの花は食べられる』『心の声など聞こえるか』のほか、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース 音楽劇『愛と正義』や東京芸術劇場『邦子狂詩曲(クニコラプソディー)』など。演出担当の額田さんとは、2019年のヌトミック『ネバーマインド』で共演した経験があります。
そして今回、クリエイターと演者の顔を併せ持つ劇団「南極」から端栞里(はた しおり)さんがゲストとして参加します。2023年に東京を拠点に活動し始め、舞台や映画、ドラマと多彩なジャンルでの活躍が光る若手俳優です。
舞台『われらの血がしょうたい』は2026年2月21日(土)から3月1日(日)まで、東京のシアタートラムにて上演されます。2月21日(土)、22日(日)、23日(月・祝)、26日(木)の公演ではアフターイベントも開催予定。公演に関する詳細は公式HPをご確認ください。
最近では生成AIに関するニュースも多くみられるようになり、人工知能の存在は以前よりもっと身近になってきています。インターネットと現実の境界線があいまいになりつつある今、私たちに突き刺さるテーマの作品では、と感じました。


















