『MEAN GIRLS』『FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜』『マリー・キュリー』『PRETTY WOMAN The Musical』、そして2026年5月から開幕する『レッドブック〜私は私を語るひと〜』。アミューズが企画・製作する作品には、女性が主人公であり、女性の尊厳と可能性を描く作品が多く存在します。意思ある作品選びを続ける姿に、そしてその作品の数々に、勇気づけられてきた人も多いのではないでしょうか。

演劇は社会を映す鏡である−。そう信じる私たち「Audience」としても、大きな共鳴を感じてきました。そこで今回は、これらの作品のエグゼクティブプロデューサーを務めてきた小見太佳子さんへのインタビューが実現しました。

女性の若手制作チームが見つけ出した、唯一無二の作品作り

−小見さんはこれまでどのような作品に携わられてきましたか。プロデューサーとしてのお仕事内容を教えてください。
「アミューズで舞台制作部が本格的に立ち上がったのは2016年と、まだ歴史の浅い部署です。(2024年に舞台製作部はアミューズクリエイティブスタジオに承継)今もまだ小さい部署ですから、濃淡はありますが、基本的には全ての作品の製作に携わっています。企画から現場までやっている作品で言うと、昨年度は『キンキーブーツ』と『PRETTY WOMAN The Musical』ですね。プロデューサーの仕事内容は企画の立ち上げからキャスティング・スタッフ選びなど多岐に渡っていて、会社によっても役割が異なると思うんですけれども、特にアミューズのプロデューサーとして大事にしていることは作品のブランディングかなと思います。作品の価値を言語化したり、誰にどう見せたいかを明確にしたりするというのを大事にしていますので、今回「意思ある作品選び」と思ってくださってこういうインタビューにお声がけいただき、何か伝わっていたのかなと嬉しかったです」

−舞台制作部にはどのような方がいらっしゃるのでしょうか。また、作品の方向性が統一されているのはなぜでしょうか。
「2016年当時、部署発足にあたって社内外で人を募った結果、集まったのがほぼ女性でした。現在は男性も1人部署におりますが、約10名の組織でほぼ女性という、舞台制作会社では珍しい男女比だと思います。
当時、比較的若い年齢であった私が部署を任せていただいたというのも、大きかったのかもしれません。
既に舞台制作をやられている素晴らしい会社がたくさんある中で、どう演劇界にアミューズの居場所を作るか?という視点を持った時、もちろんノウハウや知見をつけることも重要ですが、せっかくなら、何か自分たちの色を作ろうと意識的に作品選びを行うようになりました。人数が少ない部署なので色を統一しやすいというところもあると思います。今は“この作品はアミューズっぽいと思うんだけど”とお声がけいただくことも増えています」

−社会的なメッセージをストレートに伝える作品と、ハッピーな雰囲気の中で力強く生きる女性を描いた作品、両軸をやられていますよね。
「どちらもエンターテイメントの役割であり、エンターテイメントだからこそできることだと感じています。メッセージ性が強い作品−それでも、ミュージカルとして音楽になる時点で、ある種エンタメの力が強くなるとは思いますが、メッセージを強く直接的に伝える事ができるのも、エンタメの力ですし、楽しさの中にメッセージが伝わる作品も魅力的です。両方ともやっていきたいなという思いがありますね」

−国際女性デーや同性婚におけるメッセージなど、直近は特に企業全体で人権意識の高さが伺えます。
「すごく恵まれた環境だなと感じます。私たちとしても女性のことやLGBTQのことについて、エンタメで“消費”したくないという思いが強くあります。ある種フェミニズムという言葉自体揶揄されるような使い方もされてしまう日本で、弊社の姿勢として、ステートメントを出す姿勢を貫けるのはすごくありがたいです」

ジェンダーギャップの大きい日本で感じる変化は?

−ブロードウェイや韓国では社会的な動きと連動して作品が盛り上がっていくということも多いですよね。日本との違いは感じられますか。
「『レッドブック〜私は私を語るひと〜』も2018年の韓国初演は#MeToo運動と重なり、大きな反響を得たと聞いています。また、ブロードウェイでは、演劇やミュージカルにおいて、女性やLGBTQ当事者はもちろん、多様な主人公の物語が当たり前のように受け入れられていますよね。一方、日本ではそういった社会的なムーブメントには至っていないという実感があります。ただ、演劇やミュージカルの観客の皆さんは人権意識がすごく高いと感じていて、そこはちゃんと信頼して作品を届けていきたいと思っています。中途半端にせず、メッセージを持って作品をやる以上は、覚悟を持って届けることで、正しく伝わる実感があります。だからそこで躊躇はしたくないと思っています」

−演劇は日本では敷居の高いイメージを持っている人もいて、演劇と社会が密接に関係していることが、まだまだ伝わりきっていないようにも思います。
「共感力を育てるという意味でも、生の舞台に触れることは大きな力を持つと思っています。多くの人に、若い方にも演劇やミュージカルに触れていただきたい、という思いがありつつも、やはりチケット代が高いという業界課題もあると思います。
ただ多くの人に観ていただきたいからといって、あえて敷居を低くすることでメッセージを隠すことはしたくないなと思っていて、そこのバランスはいつも苦心しているところかもしれません。
例えば『PRETTY WOMAN The Musical』は日本でも映画が大好きな人が多いと思うんですけれど、ミュージカルでは映画以上に、ヴィヴィアンとエドワードの成長物語であり、大きな夢を持って生きていこうというメッセージや、ヴィヴィアンとキット女性2人のシスターフッドが描かれていました。だからこそ、単なる“シンデレラストーリー映画の舞台化”だけの打ち出し方にはならないよう、心がけました。作品を選ぶだけでなく、どう伝えるか。もちろん実際に戯曲を立ち上げるのは演出家ですが、どう宣伝するかはプロデューサーの仕事において非常に重要な部分かもしれません」

−スタッフ選びもプロデューサーの仕事の1つということでしたが、『レッドブック〜私は私を語るひと〜』では『MEAN GIRLS』でも演出を手がけた小林香さんが演出を担当し、音楽は桑原まこさんと、女性スタッフが製作に大きく携われています。それがまた1つ作品のメッセージにも繋がっているように感じます。
「そうですね。香さんの演出が素敵であるということは大前提の上で、香さんは女性の働き方について積極的に取り組んでいらっしゃり、“同じくらい優秀で魅力的なスタッフの選択肢があったら、女性を選ぶ”とおっしゃっています。日本ではまだまだ男性のクリエイターが多いという現状の中、女性の活躍の場を意識的に作りたいという考え方はとても素敵ですし、私たちにとっても信頼に繋がっています。そういう演出家さんに出会えたのが幸せですね」

−日本はジェンダー・ギャップ指数が148カ国中118位(2025年)と世界的に見ても大きな遅れを取っています。2016年から10年、作品作りを行われてきて、日本社会の変化は感じられますか。
「なかなか変わらないというのが率直な気持ちです。特にジェンダーにおいて、女性のジェンダー・ギャップ指数もそうですし、LGBTQもバックラッシュが起きている状況で、世界はより良くなると希望を持っていた時代から見ると苦しさを感じる瞬間もあります。
ただ一方で変化を感じる瞬間もあって、例えば2014年から上演している『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』に出てくるピラグア(かき氷)屋を、2024年の再再演では女性のMARUさんに演じていただきました。ブロードウェイで、年齢や性別関係なく様々な俳優がある役を演じている作品があるんですけど、それにとても感銘を受けていて。この役も、この役を演じる素質をお持ちであれば、女性でも良いんじゃないかと打診したところ、本国からすぐにOKが出ました。


また、昨年再演しました『マリー・キュリー』では、初演以来舞台映像のダイジェストムービーだけでなく、マリーとアンヌ女性2人の楽曲「あなたは私の星」のMVを出したことは、1つ私たちのメッセージとなっています。
それぞれ日本でも大きな反響をいただいて、私達がどういう視点に立っているか、どういうスタンスでいるかメッセージを伝えることはできるし、受け取ってくださるお客様はそこにいると実感しました。世の中的なジェンダー・ギャップはあるかもしれませんが、受け取ってくださる観客の皆さんがいる、いう事実に励まされます」

男性の変化や成長も描く『レッドブック〜私は私を語るひと〜』

−『キンキーブーツ』や『マリーキュリー』などを通して、作品によって観客が育てられたとも言えると思います。多くの観客に作品を知ってもらうために、意識されていることはありますか。
「舞台というのは一度観ていただけたら、強い力を受け取れる場所だと信じています。なので一度まず経験していただくというのが大事だと思いますし、そこでつまらないと思ったら二度と来ていただけないかもしれないと思うと、もちろん広げるための努力と施策はやっていきたいのですが、チケット代を払って足を運んでくださった方ががっかりしない作品を作ることをまずは真摯にやっていきたいと思っています。また観たいと思ってくださった先に、伝えられるメッセージがあるんじゃないかと思います」

−5月16日からは『レッドブック〜私は私を語るひと〜』が開幕しますね。
「この作品が愛され続ける理由について先日も小林香さんとお話ししていたのですが、この作品は女性だけでなく、男性の変化や成長も丁寧に描いています。小関裕太が演じるブラウンという役は、19世紀ヴィクトリア朝時代のイギリスにおいて、“紳士”であることを強く求められ、人生の視野が狭まっていたことをアンナとの出会いによって気がついていきます。男性の変化も描いていることが、多くの人に愛される作品になった理由の1つなんじゃないかと思うんです。女性のエンパワーメントというメッセージが強い作品だけれども、お客様を限定しない、バランスの取れた魅力的な作品だと思っているので、色々な方に観ていただきたいと思っています。
ビジュアルを可愛らしく作ったのも、メッセージがとてもはっきりしている部分と、可愛さに惹かれた方も楽しさを持続したまま観ていただける部分とが両立できている作品だからこそ、と担当プロデューサーがプランニングしていました」

−今後やっていきたいと思われていることはありますか。
「エンターテイメントが社会を映す鏡であると考えた時、社会と切り離されるべきものではないと思っています。2025年のミュージカル『キンキーブーツ』ではグッズとしてチャリティ缶バッチを販売し、認定特定非営利活動法人ReBitへの寄付を通じてLGBTQユースへの支援を実施しました。エンタメとして作品を楽しく観ていただくことが一番ですが、チャリティグッズという形で自分たちのスタンスを明確にお伝えできたことは、自分の中でも大きな分岐点だったと思います。そういうことは今後も考え続けていきたいです」

Yurika

演劇は社会を映す鏡であり、社会と深く繋がっています。それをいつも感じる一方で、日本では分けて考えられがちであることを実感する瞬間も多く、今回こういったインタビューを企画させていただきました。深い懐と情熱を持ってお受けしてくださったアミューズさん、小見さんに改めて感謝の気持ちでいっぱいです。特に、ジェンダーギャップは日本において大きな社会課題と言えると思います。エンターテイメントは、誰かを責めるのではなく、ポジティブな気持ちで課題に立ち向かう勇気をくれます。その力がきっと社会を変えていくと信じて。私たちも使命感を持って、「伝える」という役割を果たしていきたいです。