今春に開館した東京のMoN Takanawa:The Museum of Narrativesにて、バレエ『アレコ』が2026年5月から6月にかけて上演されます。かつて画家のシャガールが作品のために描いた背景画が巨大LEDによって舞台上に蘇り、幻想的な芸術の共演を届けます。

ロシアの芸術が結集したバレエ『アレコ』

バレエ『アレコ』は、ロシアを代表する詩人・作家のアレクサンドル・プーシキンの叙事詩『ジプシー』を基にした作品です。物語では、自由を求めるロシアの貴族の青年・アレコがロマの娘・ゼンフィラと恋に落ちるも、彼女が別の若者に心変わりしてしまったために悲劇へと向かっていく様子が描かれます。

音楽にはロシアの音楽家として名高いチャイコフスキーの「ピアノ三重奏曲イ短調」をオーケストラ用に編曲したものが用いられ、振付は同じくロシア出身のダンサーであるレオニード・マシーンが手掛けました。

そして、本作の演出を語るにあたって欠かせない人物が、画家のマルク・シャガールです。帝政ロシア、現在のベラルーシ共和国にあたる町に生まれたシャガールは、フランス・パリで画家として活躍。しかし、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの迫害から逃れるため、アメリカへの亡命を余儀なくされます。この頃にバレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)から依頼を受け、「バレエ『アレコ』のための背景画」4点を制作しました。1点の大きさは縦が約9メートル、横は約15メートルにも及び、鮮やかな色を巧みに使って幻想的な世界観を浮かび上がらせるシャガールの持ち味が画面いっぱいに発揮されています。1942年にバレエの初演がメキシコで成功を収めると、アメリカやヨーロッパにも巡演。以来、1960年代後半まで、再演のたびにシャガールの背景画も舞台に登場しました。1977年に製作依頼元であったバレエ・シアターが手放した後は、日本の青森県美術館が4点のうち3点を収集。さらにアメリカのフィラデルフィア美術館が収蔵する残り1点も借用し、現在は4点すべてを青森県立美術館で鑑賞することができます。

シャガールの舞台背景画とバレエが日本で再会

日本で美術作品として展示されるようになったシャガールの舞台背景画。そうしたなか、2024年にバレエダンサー・振付家の宝満直也さんによる新演出で青森県立美術館版バレエ『アレコ』が上演され、50年以上の時を経て舞台美術として復活しました。

そして今回、現代の技術を活用し、青森県立美術館から離れた東京の地でシャガールの背景画とともにバレエ『アレコ』が上演されます。

会場は、2026年3月28日に東京のTAKANAWA GATEWAY CITY内にオープンしたばかりのMoN Takanawa:The Museum of Narratives(モン タカナワ:ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)です。最新テクノロジーを備えた施設のひとつであるBox1000にて、ステージ全面に設置された巨大LEDスクリーンにシャガールの背景画を原寸大で投影。物語の進行にあわせて背景画の映像を切り替えることで場面転換を行い、舞台上のダンサーの身体表現とリンクさせます。時を越えて、シャガールの絵画とバレエ作品の共演が再び叶う瞬間をお見逃しなく。

撮影:西川幸治

多彩な活躍を見せるダンサー兼振付家による振付・演出

本作の振付・演出を手掛けるのは、2024年の青森県立美術館版にも携わった宝満直也さんです。宝満さんは幼少期よりクラシックバレエを始め、2010年に新国立劇場バレエ団に入団。古典作品への出演に留まらず、コンテンポラリー作品にもソリストとして抜擢され、重要なパートを務めました。

一方で在団中から振付活動にも注力し、振付家育成プロジェクト「NBJ Choreographic Group」で生まれた選りすぐりの作品を上演する企画「DANCE to the Future」にて多数の作品を発表。2016年には、オン★ステージ新聞2016年新人振付家ベスト1に選出されました。

2017年に同団を退いた後、埼玉県唯一のバレエ団であるNBAバレエ団に加入。2018年のバレエ『海賊』全幕や2019年の『白鳥の湖』全幕では、芸術監督の久保綋一さんとともに振り付けを担当し、世界初演の実現に貢献しました。また、2020年には大和シティー・バレエにてオリジナルの全幕バレエ『美女と野獣』を世界初演し、好評を得ました。さらに、2022年に放送されたMBS/TBS系TVアニメ「ダンス・ダンス・ダンスール」ではキャラクターの振付を担当するなど、多岐にわたって活動。

フリーとなった現在も研鑽を重ね、2025年3月から9か月間にわたって令和6年度文化庁新進芸術家海外研修制度によるドイツ・ベルリンでの研修に参加しました。2026年7月には、新国立劇場バレエ団が二本立てで上演するオリジナル作品のうちの1作として、振付を担う新作『String SAGA』の公演が控えています。新進気鋭の振付家として躍進する宝満さんが、シャガールの絵画を背景にどのように振り付け、物語を表現するのか注目です。

国内外で活躍するバレエダンサーたちがキャスティング

MoN Takanawaでの公演には、青森県立美術館版『アレコ』に出演した大川航矢さんと勅使河原綾乃さん、北爪弘史さんの3名が同じ役で続投。さらに新たなダンサーを迎え、AキャストとBキャストによるダブルキャストで臨みます。

主人公のアレコ役を務めるのは、大川航矢さんとアレクサンドル・トルーシュさんです。

Aキャストの大川さんは、モスクワ国立舞踊アカデミーを首席で卒業。その後、ウクライナ国立オデッサ歌劇場やロシア国立カザン歌劇場、ロシア国立ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場で主役を含めさまざまな役を踊り、才能に一層磨きをかけました。2017年にモスクワ国際バレエコンクールのシニア部門男性の部で金賞を受賞。また、世界各国の公演ツアーやガラコンサートにも参加した実績があります。2022年より日本に拠点を移し、現在は牧阿佐美バレヱ団のプリンシパルとして活躍中です。

Bキャストのアレクサンドル・トルーシュさんは、ウクライナ出身のダンサー。もともとフォークダンスを学んでおり、12歳の時にドイツに移住してハンブルク・バレエ学校に入学しました。2007年にハンブルク・バレエ団に入ると、2014年にはプリンシパルダンサーに昇格。『椿姫』『白鳥の湖』『ジゼル』『ニジンスキー』といった名作で主要な役を任され、世界に向けて実力を示してきました。2025年よりハンブルク・バレエ団の客員プリンシパルに就任。日本にも度々公演で訪れていて、直近では2025年12月から2026年1月に開催されたウクライナ国立バレエの来日公演にゲスト出演しました。

ヒロインのゼンフィラ役は、勅使河原綾乃さんと山田佳歩さん。

Aキャストの勅使河原さんは3歳よりクラシックバレエを始め、2年間ドイツに留学した後、2015年よりNBAバレエ団に所属。2023年にプリンシパルへ昇格し、古典からコンテンポラリーに至るまで幅広いジャンルで重要な役を踊る次世代のホープです。過去には、2020年のNBAバレエ団公演『ホラーナイト』にて宝満さんが振付を担当した『狼男』に出演しています。

Bキャストの山田さんがバレエを始めたのは4歳。フランス・リヨン国立高等音楽・舞踊学校に首席で飛び入学し、卒業後の2021年にNBAバレエ団に入団しました。2023年にプリンシパルとなり、現在に至ります。若手バレエダンサーの登竜門として知られるYouth America Grand Prix(YAGP)の日本予選クラシックシニア部門第1位など、多数の受賞歴を誇ります。

そして、ゼンフィラの新しい恋人となるロマの若者役には、宮内浩之さんと北爪弘史さんがキャスティング。

宮内さんは、本公演から加わる新しいメンバーとしてAキャストに名を連ねます。2007年からボストンバレエ団に留学し、帰国後は牧阿佐美バレヱ団を経て、2014年にNBAバレエ団へ。2018年にはプリンシパルに昇格し、『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』『真夏の夜の夢』など数々の作品で主演。2016年のバレエ団主催アトリエ公演にて振付・演出を担当したこともあります。

反対に、北爪さんは、Bキャストの中では青森県立美術館版に出演した唯一のメンバー。バレエ歴は8歳から始まり、イギリスに留学したのちにアメリカやチェコのバレエ団で経験を積みました。2022年にNBAバレエ団に入団し、2024年にファーストソリストに昇格しています。

このほかNBAバレエ団からは、プリンシパルの新井悠汰さんをはじめとして、北爪弘史さん、米津美千花さん、渡辺栞菜さん、市原晴菜さん、井手累滋さん、岩田雅女さん、大島沙彩さん、須谷まきこさん、福田真帆さん、栁島皇瑶さん、中山諒さん、安中勝勇さん、獺越界斗さん、竹中朋宏さんが出演します。

また外部から参加する2名のうち、1人は2011年から2018年までNBAバレエ団にて活躍し、現在は東京シティ・バレエ団のソリストを務める土橋冬夢さん。もう1人は、2014年から2020年までNBAバレエ団に所属し、勅使河原さんとともに宝満さん振付の『狼男』にも出演した森田維央さんです。

バレエ『アレコ』は2026年5月29日(金)から6月7日(日)まで、MoN Takanawa:The Museum of NarrativesのBox1000にて上演。なお6月1日(月)から6月3日(水)までは休演日となります。また、公演期間中の5月30日(土)・31日(日)、6月6日(土)にはアフタートークが実施される予定です。

連動企画として、4月28日(火)から6月7日(日)まで、MoN Takanawa施設内にて高級磁器ブランド「BERNARDAUD」によるマルク・シャガール・コレクション磁器のインスタレーション展示が行われます。さらに13時と17時の回のみ販売されるプレミアム席チケットには特典もあり。購入者は観劇当日の朝にバレエクラスを見学できるうえに、昼公演と夜公演の合間にダンサー・演出家とのティータイムが設けられます。公演に関する詳細は公式HPをご確認ください。

今は青森県で展示されているシャガールの舞台背景画をLEDに投影し、東京の劇場での演出に活かすという試みに感動!デジタル技術の発展で、舞台芸術の可能性がもっと広がるのではとワクワクします。