日本大通り駅と元町・中華街駅の間に位置するKAAT神奈川芸術劇場。劇場周辺には野毛、福富町、曙町が広がります。『虹む街』のテーマは、そんな昔ながらの横浜の街と、そこに暮らす人々。作・演出は独自の演劇表現が世界的にも評価される、庭劇団ペニノ主宰・タニノクロウさんです。(2021年6月・KAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>)
街の一角が、劇場の中に
劇場に入った瞬間に息を呑んだのが、舞台美術の驚異的なクオリティ。中央にあるコインランドリーをはじめ、喫茶店、中華料理屋、フィリピンパブなどが軒を連ね、ネオンサインが妖しく輝く。それぞれの店には母国語の看板や異文化の小物が揃い、映画『ブレードランナー』の冒頭、屋台が建ち並ぶシーンのような、郷愁と多国籍が入り混じった雰囲気に一気に引き込まれました。
物語は、街で唯一のコインランドリーの営業最終日。梅雨の雨音が静かに流れる中、別れを惜しむさまざまな住人たちが洗濯に訪れる、最後の1日が寡黙に描かれます。
言葉は違えど変わらない、街への愛
多国籍な住人たちは、本当にその街に暮らしているかのように語らい、食事し、何気ない1日を過ごします。しかし必ずコインランドリーを訪れ、思い思いに最後の洗濯を行います。
舞台上では何度も歌を歌い、母国の歌から、童謡、替え歌と、さまざまな歌声が雨音をBGMに奏でられ、まるで長年お世話になったコインランドリーへの感謝と別れを告げているようでした。
国籍が異なろうと、街を愛する気持ちは変わらない。多様性の中に通奏低音のように流れる街への愛惜が、寡黙な住人たちの行為を通じて伝わってくる。気軽に街に出られないこの時期だからこそ、街という存在の懐の深さ、愛おしさを強く感じる舞台でした。
劇場を出ると、さっきまで歩いていた街が、とてもユニークで身近なものに感じられました。これもまた、演劇の魅力なのだなとあらためて感じられた、素晴らしい体験でした。