トニー賞とオリヴィエ賞を獲得した大作『オリバー!』が新演出版として日本に上陸。プロデュースを手掛けたのは、『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』『メリー・ポピンズ』などで知られるキャメロン・マッキントッシュ。孤児の少年オリバーやスリの魔術師フェイギンを中心に、下層階級の中で必死に生きる人々を描いています。どんな時代でも明日を信じる強さと、今を楽しむ心を持つ重要性を教えてくれる作品でした。(2021年10月・東急シアターオーブ)
貧しくてもたくましく生きる、少年たちのパワーを受け取って
物語の舞台は、ビクトリア朝時代のロンドン。救貧院で暮らす少年オリバーは、「お代わりをください」と申し出たことで追い出されることに。売りに出された葬儀屋でもひどい扱いを受けたオリバーは、ロンドンの街に逃げ出します。そして出会ったのが、少年ドジャーとスリの魔術師フェイギン。彼らの泥棒グループに加わることで、初めて“仲間”ができます。しかしオリバーには出生の秘密があり、更なる困難に巻き込まれていくことに…。
普段の食事はわずかなおかゆだけ。少年たちが大人に黙って従う中、オリバーは自分の境遇を諦めることなく、想いを大人に伝えた勇気ある少年です。葬儀屋でも、会ったことのない実の母親をけなされたことで怒り、金持ちになるべく何日も歩き続けます。オリバーを演じていた小林佑玖さん(クワトロキャスト)は、透き通った品のある歌声が特徴的。愛を求めて旅する姿に、健気さと1人の人間としての意思を感じます。
また、フェイギン率いる少年泥棒グループは、パワフルなダンスでオリバーを迎え入れます。彼らが暮らす隠れ家は、盗んだハンカチでカラフルに彩られたファンタジックな空間。そこでフェイギンと歌い踊る姿は、泥棒であることを忘れてしまうハッピーな瞬間です。どんなに貧しくても、楽しみながら生きていくたくましさを感じます。一際小さなニッパーを演じる渡邉隼人さん(Wキャスト)は、しっかりとした歌声で魅せながらも観客を虜にする可愛らしさ。1幕終演後に客席から思わず「かわいい〜!」という声が漏れるほど、みんながメロメロになっていました。カーテンコール時にみせる可愛すぎるダンスにも注目です。
愛すべき悪党?!人間らしさ満載のフェイギン
フェイギンを演じるのは、世界的プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュが直々に指名したという市村正親さん(武田真治さんとのWキャスト)。金持ちの「ポケットからチョチョイと」盗むスリ技を少年たちに教える悪党ですが、“孤独のままおじいさんになるのか?”“正しく生きるべきか?”と悩む姿は茶目っけたっぷり。また、オリバーにとっては初めて温かく接してくれた大人であったことでしょう。フェイギンも下層階級の中で必死に生きる1人。人間らしさがたっぷりと詰まったキャラクターです。
フェイギンの元教え子であるナンシーも、オリバーの運命を左右する重要な役どころ。誰もが恐れる悪党に立ち向かってでも、オリバーを必死に守ろうとするナンシーを演じるのは、ミュージカル『マリー・アントワネット』での熱演も話題となったソニンさん(濱田めぐみさんとのWキャスト)。オリバーの本当の幸せとは何なのかを考え、行動する正義感の強さが印象的でした。
下層階級=善の視点で描かれた本作は、先行き不安な今の時代にこそ、生きる強さをくれる作品です。東京公演は11月7日まで東急シアターオーブにて上演。12月には大阪公演が予定されています。チケットぴあでの購入はこちら