2月26日、サンシャイン劇場にて開幕したNAPPOS PRODUCE 舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。東野圭吾さんの同名小説(2012年出版)を原作に、2013年に劇団キャラメルボックスで成井豊さんが舞台化しました。今回は3度目、新キャストにて上演が実現。令和版『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の観劇リポートをお届けします。(2022年2月・サンシャイン劇場)
東野圭吾原作のタイムトラベル・ファンタジー
2012年3月に角川書店から出版された小説「ナミヤ雑貨店の奇蹟」。世界累計1,000万部を超えるベストセラー小説です。2017年には山田涼介さん(Hey! Say! JUMP)主演で映画化され、第41回日本アカデミー賞 優秀助演男優賞を西田敏行さんが、優秀助演女優賞を尾野真知子さんが受賞するなど大きな話題となりました。キャラメルボックスは2013年に本作を舞台化。2009年に『容疑者χの献身』も舞台化しており、脚本・演出家の成井豊さんはかねてより東野圭吾さんのファンであることを公言しています。今回は3度目の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』舞台化。新たなキャストを迎え、令和版『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を創り出します。
同じ養護施設で育った淳也・翔太・幸平(猪野広樹さん、松本幸大さん、安保卓城さん)。ある家にコソ泥に入り、逃亡する途中で逃げ込んだ廃屋がナミヤ雑貨店でした。夜明けを待っていると、誰かがシャッターの郵便口から封筒を入れた音が。中身の便箋を見ると、悩み事の相談が書かれています。雑貨店の店主が生きていた頃、“ナヤミ”相談を受けていたのです。3人が試しに返事を書き牛乳箱に入れてみると、なぜかその返事が即座に届きます。しかも差出人はどうやら、数十年前の人間のよう…。
不思議な現象を訝しみながらも、3人は次第に差出人との手紙のやり取りにのめり込んでいきます。雑貨店に寄せられる、誰にも相談できない悩みの数々。“家業を継ぐべきか、ミュージシャンとしての夢を追いかけるべきか”、“父親のいない子供を産むべきか”など様々な難題に向き合う青年たち。時には乱暴な言葉を投げかけるものの、その素直さが相手を思わぬ形で動かすことも。最終的な答えを出すのは手紙を出した張本人だとしても、誰かと言葉を交わすことで新たな視点を得たり、自分でも気が付かなかった自分の想いに気づけなかったりするものなのでしょう。だからこそ、人は悩みを、時に顔も知らない誰かに、打ち明けたくなるものなのかもしれません。
成井豊らしさ満載の演出で“エモさ”倍増の作品に
成井豊さんの脚本・演出と言えば、コミカルさや愛らしさたっぷりのキャラクター像や、劇中でJ-POP音楽を使用するなど、温かな体温を感じる演出が特徴的です。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』でも成井さんらしい演出がたっぷりと詰め込まれており、登場する手紙主の中には癖強めなキャラクターも。少し照れくさい台詞や演技も、彼らが演じるとなんだか受け入れられてしまうのが不思議です。
また、劇中歌やナミヤ雑貨店を再現したセットはもちろん、ダンスや映像などを使用して、どこか懐かしく、ポップス感のある作品の世界観を作り上げます。時代を行ったり来たりする複雑な構造の作品のため、セットの転換や映像での年代表示が作品への理解速度を上げさせてくれるのも嬉しいポイント。令和版『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、照れくさくなるほど温かな空気に包まれたエモさ倍増の観劇体験でした。
NAPPOS PRODUCE 舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は3月6日までサンシャイン劇場にて上演予定。詳細は公式HPをご確認ください。
ナミヤ雑貨店に寄せられた最後の手紙への回答に、想像力を豊かに働かせて言葉を紡げる人間になりたいと強く感じました。1年に1度は成井さんの作品を観たい、と思い見つけた本作。期待以上に、成井さん作品の温かさが詰まっていて大満足でした。