2020年7月に上演予定だったミュージカル『四月は君の嘘』。公演中止を乗り越え、ついに幕が開きました。木村達成さん・生田絵梨花さん・唯月ふうかさん・寺西拓人さん出演回の観劇リポートをお届けします。(2022年5月・日生劇場)作品詳細はこちら
“きみは、忘れられるの?”
自らの奏でるピアノの音が聞こえなくなった青年・有馬公生が出会ったのは、同級生のヴァイオリニスト・宮園かをり。自由に音楽を楽しむ彼女の生き方とまっすぐな言葉たちが、公生のモノクロだった人生を色鮮やかに染めていきます。
原作漫画・アニメ・映画が存在するという、演じる側にとってプレッシャーも大きい本作。しかし生田絵梨花さんは、かをりを完璧に再現し、劇場に立たせることに成功させました。“まるで映画の主人公”のような美しさ、眩さを持ちながら、時折儚げな表情を見せるかをり。歌の1つ1つに華やかさがあり、生田絵梨花さんにはやはりこういったヒロイン役がぴったりだと、改めて感じさせられます。更に、2021年にミュージカル『レ・ミゼラブル』でエポニーヌ役を演じたことで演技と歌唱力の幅が広がった生田さん。歌詞が明確に聞こえ、力強く言葉が胸に入ってくることで、かをりの生命力が伝わってきます。
木村達成さん演じる公生は、なかなかトラウマから出てこられない姿がリアル。かをりに惹かれながらも、彼女は“映画の主人公”で、自分は“友人A”。とひねくれ、なかなかかをりの世界に飛び込めません。それでも2人で音楽を奏で、その光景を“きみは、忘れられるの?”というかをりのまっすぐな問いかけに引っ張られ、自分自身の気持ちに向き合えるように。公生の人生が変わっていく様子を丁寧に表現しているのが印象的でした。
ミュージカル作品として、『四月は君の嘘』をどう活かすか?
ワイルドホーンが手がけた音楽は、キャッチーで心躍る楽曲ばかり。公生とかをりの心の内を描いたデュエット曲や、青春の煌めきを感じさせる「Speed Of Sound~カラフルに輝きながら~」は作品に爽やかさを加えます。
一方で、これまで漫画・アニメ・映画と様々な媒体で描かれてきた作品だからこそ、ミュージカルならではのオリジナリティ・芸術性がもう少し欲しかったというのも正直な印象です。例えば、公生のモノクロだった毎日が、かをりとの出会いでカラフルに色づいていくシーンや、2人で共に音楽を奏でることで世界が開けていくシーン。公生の人生が色鮮やかに変化していく様子をもっとダンスや美術で表現できると、ミュージカル作品としての意味を深められるのではと思わされました。
また、公生はピアノの才能があったが故に、音楽を譜面通り弾くことが評価されるコンクール仕様の弾き方ばかりに縛られ、音楽を楽しむことや、演奏家として“表現する”ことを忘れています。それを気づかせてくれるのが、かをりの存在であり、彼女の演奏。この“芸術を心の赴くままに楽しむ”というのは、日本人にとっても重要なテーマであるように思います。本作を日本で世界初演するからこそ、このテーマをもう少し打ち出しても良いように感じました。作品詳細・チケット購入はこちら
命の限り、音を奏で、誰かの心に残る自分であろうとする。美しく力強いかをりの生き様に強く胸を打たれる作品です。