2022年2月25日から東京宝塚劇場で公演されているのは、宝塚歌劇団月組による『今夜、ロマンス劇場で/FULL SWING!』。1幕は邦画『今夜、ロマンス劇場で』を初舞台化したラブロマンスミュージカル、2幕は粋なジャズのリズムに心が踊るショーが楽しめます。1度の公演でお芝居とショーの両方を観られる2本立ては、宝塚作品の特徴のひとつ。今回の公演は両作のギャップが激しく、どちらも魅力的で、2本立ての醍醐味をひしひしと感じながら鑑賞しました。(2022年3月 東京宝塚劇場・阪急電鉄貸切公演)

ミュージカル・キネマ『今夜、ロマンス劇場で』

映画監督を夢見る青年・健司の前に、モノクロ映画に登場するお姫様・美雪が現われるというファンタジックなラブストーリー。健司を月城かなとさん、美雪を海乃美月さんの新トップコンビが演じます。

2018年に公開された原作映画はモノクロ映画の世界と現実世界の色の使い分けが見どころでしたが、舞台でもそれが巧みに表現されていました。モノクロ映画の世界は舞台セットと衣装が白・黒・灰色で統一された何か物足りない色彩で、現実世界はカラフルで古き良き昭和の温かみを感じさせる色彩。スクリーンの中にいた美雪が、外の世界に憧れたというのも無理はありません。

これまで芝居に強いトップを輩出してきたことから、「芝居の月組」とも言われている月組。新トップが率いる今回の公演でも、豊かな芝居で原作映画の魅力的な登場人物を見事に再現しています。優しくて純粋な健司、お転婆な美雪、ハンサムガイこと映画スターの俊藤など、まさに映画のキャラクターが現実に飛び出してきたような舞台でした。

物語は健司の半生を現在、過去、未来の順に辿っていくのですが、圧倒的な演技力で、作中の時の流れにも見事に順応しています。特筆すべきは、舞台オリジナルのキャラクターとして美雪がいた映画『お転婆姫と三獣士』の登場人物が追加されたこと。美雪の婚約者だという隣国の王子・大蛇丸は、怪しくもどこかユニークで忘れられないインパクトを残していきました。

原作でも印象的だった場面や台詞はそのまま使われており、健司と美雪の連想ゲームのシーンは甘く美しいデュエットナンバーになっています。彩に満ちた2人の恋模様は、カラフルで甘酸っぱいドロップのようでした。

ジャズ・オマージュ『FULL SWING!』

お芝居にうっとりと見惚れたあとは、2幕のショー『FULL SWING!』。クラシカルでロマンチックな1幕とは雰囲気がガラリと変わって、こちらはムーディーで小粋なジャズミュージックをテーマにしています。

冒頭、レモンイエローに輝く月の光に照らされて登場した月城さんは、さきほどまで健司を演じていた人物とは思えないほどクールでセクシー。戦場帰りの軍人や怪しい取引を行うアウトローなど、冷静沈着で色気の漂うキャラクターを見事に演じ分けていました。

お姫様役がチャーミングだった海乃さんも、ショーでは妖艶で美しい大人の女性に大変身。月城さんの恋人役から彼を誘惑して騙す美女役まで、表情をくるくると変えながら歌い踊る姿には惹きつけられます。

クラブやバーをイメージした舞台セットが、大人なジャズの世界へ誘う今回のショー。軽快なジャズのリズムに、手拍子する客席の温度も熱くなっているように感じました。

生演奏に乗せて「My WAy」や「Night And Day」といった名曲が聴けるので、音楽に関してもかなり贅沢です。トップさん達をはじめ、難しいリズムの曲を器用に歌いこなす月組の高い歌唱技術に脱帽しました。頭の中だけに留めておきましたが、一緒に身体を揺らしてスウィングしたくなるほど夢中になれるショーです。

さきこ

東京宝塚劇場で公演中の月組公演『今夜、ロマンス劇場で/FULL SWING!』は、クラシカルなラブロマンスのお芝居とアダルティーなジャズのショーが1度に楽しめる作品。両作のギャップは、満ち欠けによって形を変える月のようです。3月27日の千秋楽の様子はライブビューイングと配信コンテンツで生中継されるので、ぜひ映画やご自宅でも楽しんでみてはいかがでしょうか?LIVE配信の詳細はこちら