3月より渋谷・PARCO劇場にて開幕した『粛々と運針』。主演に加藤シゲアキさんを迎え、脚本・横山拓也さん×演出・ウォーリー木下さんが率いる実力派カンパニーが生み出す本作の魅力をレポートします!(2022年3月・PARCO劇場)※本作のあらすじや、舞台上の写真はゲネプロレポートをご覧ください。

異なる家族の話が繋がるとき、きっとあなたも考えさせられる

舞台が暗転すると、幻想的なセットにオーストラリア先住民族の伝統楽器ディジュリドゥの奏者GOMAさんと、パーカッション奏者(観劇した日は辻コースケさんが担当)が現れ、演奏が始まります。それぞれに演奏されていた音が複雑に絡み合っていき、舞台上に現れた演者や、照らしだされる光や映像とともに広がっていきます。

演奏が止むと、田熊家の沙都子(さとこ・徳永えりさん)と應助(おうすけ・前野朋哉さん)の話が始まります。課長補佐として自身のキャリアを突き進む沙都子と、バイトから正社員に昇格し今も店舗で働く應助。子どもを持たない約束で結婚した二人ですが、沙都子が妊娠したかもしれず、他愛のない夫婦の話は思いがけない方向へ。軽快な関西弁で繰り広げられる二人の会話のテンポ感に思わず引き込まれていきます。

一方、築野家の一(はじめ・加藤シゲアキさん)と弟の紘(つなぐ・須賀健太さん)の兄弟は、お互いの近況を交えつつ、ガンを告知された母の今後と、父の死後に母が親しくしている男性・金沢さんについて話しあう二人。ダメダメな兄としっかり者の弟が久しぶりに再会し、最初はお互いの距離感を計りながら、親の今後や、親の死後を話し合う様子は、家族だからこそ相談しづらい独特の空気感が漂います。

一体どうやってこの二つの話が繋がるのかと思っていると、家族の話とは異なる会話が進行していきます。築野家から切り替わり、何やら布のようなものを一生懸命に縫っている、少女・糸と老人・結の会話へ。桜の話題が中心となり、築野家と田熊家を見守るように二人の会話が展開していきます。

会話劇の概念が変わる「演出」と、あなたも直面するかもしれない劇中の「言葉」

ディジュリドゥの音やパーカッションのグルーヴ、加えて光と映像が場面の変化を印象的に演出。各ペアの会話の様子を他のペアがふと見ていたり、主軸で話しているペアの動きに合わせて、他のペアが舞台上の椅子や机を動かす…というなんとも不思議な空間。

会話劇でありながら、視覚的・聴覚的にも刺激を受けることができる新たな表現を体感することができました。

また、二つの家族が直面するのは大切な人の死と、生まれてくるかもしれない新しい命。そして、今生きている者の人生。会話の中で交わされる言葉は、他人事とは思えない内容ばかり。この作品を観終わった後、いつかは自分の家族と話し合わないといけないと考えさせられました。

おむ

横山拓也さんが主宰する演劇ユニットiakuのオンラインストアでは、『粛々と運針』の映像の他、上演台本が販売されています。この世界を追体験されたい方はぜひ検討されてはいかがでしょうか。 iaku オンラインストアはこちら