6月4日(土)に江東区文化センターホールでプレビュー公演が、紀伊國屋ホールで6月21日(火)〜26日(日)に東京公演が行われる舞台『黄昏』。ゲネプロと取材会の様子をお届けします。
「老い」「家族の在り方」を描いた『黄昏』
舞台『黄昏』の原作はアーネスト・トンプソンによる戯曲で、1981年に映画化されました。『黄昏』はアメリカのメイン州、美しい湖畔で過ごす家族の物語。一夏を湖畔の別荘で過ごすためにやってきた老夫婦ノーマンとエセル。二人の元を長年疎遠だった娘・チェルシーが、息子と恋人と共に訪れます。「老い」と「家族の在り方」という普遍的なテーマについて描いた作品です。
文学座・鵜山仁さんによる新演出での上演は、2018年初演、2020年に再演され、今回で3度目の上演となります。キャストには、愛する夫を支える妻・エセルに2020年から引き続き高橋惠子さん、ノーマン役には高橋さんと同じく2020年から続投の文学座の石田圭祐さん。
老夫婦の娘・チェルシーにミュージカルでもストレートプレイでも高く評価されている瀬奈じゅんさん、チェルシーの恋人・ビルに俳優業だけでなく音楽活動も勢力的に行っている松村雄基さん、チェルシーの息子・ビリーには高い身体能力が魅力の林 蓮音さん(Jr.SP/ジャニーズJr.)。老夫婦の家にやってくる郵便配達員・チャーリーを、映像作品から舞台まで幅広く活躍されている文学座の石橋徹郎さんが演じます。
自然豊かな夏の湖畔での、家族の絆の物語
舞台上には、窓越しに湖が見えるログハウスの一室が構えています。湖の煌めきが照明で表されていたり、優雅な時間の流れが音楽で表現されていたりと、静かで美しいゴールデンポンドでの生活が広がっていました。
毎夏ゴールデンポンドで過ごしている二人の元を、8年ぶりに娘のチェルシーが訪ねてきます。チェルシーはノーマンとの間に確執があり、疎遠になっていましたが、エセルからの手紙を受け恋人と恋人の連れ子と共に、久しぶりに会いに来たのでした。母と二人になった時に、過去に父に認められるために頑張っていたと話すチェルシー。母には救ってほしかったと真っ直ぐに話す姿に心を動かされます。
ずっと向き合ってこなかった父との関係も、長くかかりすぎた喧嘩の仲直りをします。そして、チェルシーがビルとヨーロッパ旅行に行く1ヶ月の間、ビリーを預かることになったノーマンとエセル。それまでは自分の年齢や抗えない老いを実感してか、死を皮肉めかした冗談ばかり言っていたノーマンでしたが、ビリーに若者言葉を教わったり、逆にノーマンが釣りを教えたりすることで、活力を取り戻していきます。
物忘れに老いを実感して泣いてしまう姿や、年老いて腰が重くなり頑固な姿、孫のようなビリーとの日々に喜びを感じている姿など、ノーマンに自分の両親の姿を重ねてしまいます。
「家族について考えるきっかけになったら」カンパニー一同同じ想いで臨む公演
家族と会う機会も減っているコロナ禍を踏まえ、「直接会って確認しあったり、わだかまりを解くことはとても大事なこと。特にゴールデンポンドという自然豊かな中だからこそ実現したのかな」と作品への想いを語ったのは、主人公・エセルを演じる高橋さん。その他キャストも口々に「家族との時間を大切にしたいと感じていただけたら」、「家族について考えるきっかけになれば」と語り、カンパニー一同が同じ想いで公演に臨んでいることが分かった取材会でした。
郵便配達員のチャーリーを演じている石橋さんは、「隣にいる人にただ想いを寄せていたり、喧嘩したり、分かり合ったりと、ダイレクトに感情が動いてる。すごく素朴な、人と人との愛情が描かれていて、こんなにシンプルで美しい物語、戯曲になかなか出会えるものじゃない」と作品の美しさについて熱く語ります。
2020年から続投キャストの中、新しくカンパニーに入ったのは「ジャニーズ以外の舞台は初めて」という林蓮音さん。21歳の林さんが演じているのは、13歳の男の子・ビリー。13歳の元気で悪戯好きだった自分を思い出して役作りをしたそう。「以前は緊張しながら芝居をしていたけれど、今は先輩方のおかげで楽しく芝居が出来ている」と信頼関係の厚い稽古場での様子が伺えました。林さんの成長ぶりに石橋さんは、「感受性の細かさが精密。演じているというより、心が動いているのがすごく見えて感動」しつつ、「かわいいねぇ、かわいいねぇ」と癒されていることを明かしました。
舞台『黄昏』は、6月4日(土)に江東区文化センターホールにてプレビュー公演が上演されます。その後、大阪、兵庫、石川、愛知、長野公演を実施。東京では、紀伊國屋ホールで6月21日(火)〜26日(日)に上演予定です。また、6月21日(火)の14時公演の後には、観客を優雅な湖畔への日常へと導いてくれた藤原道山さんによる尺八の演奏と、高橋恵子さん、瀬奈じゅんさんによるトークを楽しめる「黄昏トークショー」が開催予定です。チケットの購入はこちら
物語は静かに進んでいきますが、たくさん言葉が交わされていて、相手との対話の大切さに改めて気付かされた時間でした。美しい物語で、多くの方に観て頂きたい作品です。