劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんが、主宰劇団「ナイロン100℃」以外の演劇活動の場として2001年にスタートした「KERA・MAP」。KERA・MAPとしては約3年ぶりの公演となる第10回公演『しびれ雲』が下北沢・本田劇場で開幕します。※最新の上演スケジュールは公式HPをご確認ください
井上芳雄、初の本多劇場へ! 共演にはKERA作品常連俳優たちも
KERA・MAP#010『しびれ雲』はKERAさん50代最後の戯曲、最後の公演になります。前作『キネマの恋人』の舞台でもある、架空の「梟島(ふくろうじま)」を舞台に、全く異なるトーンの作品を描きます。KERAさんは「小さな、喜び、悲しみ、驚き、嫉妬、幸せ、不幸、ぼんやりした時間を描きたい」とコメントしています。
出演者には、KERAさんと3度目のタッグとなる井上芳雄さん。井上さんは会場となる本多劇場に立つのは初。自身が活躍するミュージカルで立つ帝国劇場などの大劇場とは観客の層も変わってきます。井上さんの出演によって、日比谷でミュージカルを観劇する機会の多い方、下北沢などで小劇場の舞台を観劇する機会の多い方が、それぞれ行き来するきっかけ作りになるのではないでしょうか。
そして、KERA・MAP #009『キネマの恋人』に出演していた緒川たまきさん、ともさかりえさん、三上市朗さんが本作も引き続き出演。
また、個性派俳優として親しまれドラマ『最高の離婚』や、NHK連続テレビ小説『てっぱん』、映画『シン・ゴジラ』など多数の作品に出演する松尾諭さん。ナイロン100℃の主要メンバーである三宅弘城さん、日本アカデミー賞優秀助演男優賞の受賞経験のある萩原聖人さんら、多方面で活躍する幅の広い俳優陣が集結しました。
ポスタービジュアルは、昭和の香りが漂うもの。
前作『キネマの恋人』は1930年代の日本が物語の舞台でした。政治・経済・文化のどの領域でも、世界恐慌の煽りを受けていた激動の時代。今作も、同年代の梟島が舞台となるのか。「全く異なるトーン」ということなので、もしかしたら年代も変わっているのかもしれません。
また、『キネマの恋人』では架空の方言が使用されていました。今回も架空の方言は使われるのでしょうか。
『しびれ雲』執筆にあたり参考にされる3名の映画監督・劇作家の存在
KERAさんは今回、小津安二郎さんや岸田國士さん、アキ・カウリスマキさんの諸作品を参考に脚本を執筆することも明らかにしています。
小津安二郎さんは、日本映画を代表する監督のひとり。代表作に、原節子さん主演の『晩春』、『麦秋』、『東京物語』などがあります。通常のカメラポジションよりもかなり低い位置から撮影する“ロー・ポジション”や厳密な構図が特徴的で「小津調」と呼ばれる独特の世界。親子関係や家族の解体をテーマとする作品を撮り続けたことで知られ、国際的に高く評価されています。
岸田國士さんは、その名前の付いた 岸田国士戯曲賞で知られる劇作家、評論家、小説家。1919年に渡仏してフランスで演劇研究に没頭。1923年に帰国すると、1924年には戯曲『古い玩具』、『チロルの秋』を発表。聡明で繊細なニュアンスの会話が注目され、日本の新劇界に新風を巻き起こしました。
また、戯曲の価値や演劇における文学性を重視した演劇理論を確立。雑誌『劇作』を中心に、後進の指導にあたりました。 1932年に発足した築地座の指導を担当。1937年には文学座を結成し、新劇の中心的存在にまでなるなど、演劇界に大きな影響を及ぼした人物です。没後、岸田演劇賞 (現岸田国士戯曲賞 ) が設けられました。“演劇界の芥川賞”と呼ばれ、現在では新人劇作家の登竜門となっています。
アキ・カウリスマキさんは、フィンランドの映画監督・脚本家。1990年の『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』が世界中でヒットし、日本でも名が知られるようになりました。2002年『過去のない男』で第55回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。2017年『希望のかなた』では第67回ベルリン国際映画祭の監督賞を受賞し、カウリスマキ監督はこの作品で監督を引退すると宣言しました。
自身が郵便配達、皿洗い、煉瓦工、タブロイド紙記者などの職を経験したこともあってか、作品では、労働者や失業者を主人公に描いています。フィンランドの庶民的な風俗・風景が用いられ、モノクロまたは彩度を抑えた無機的な色彩、カメラの動きの少ない撮影が特徴です。
3名の作風を考えると、KERAさんの「小さな、喜び、悲しみ、驚き、嫉妬、幸せ、不幸、ぼんやりした時間を描きたい」とのコメントの通り、島でのゆったりとした時間の中で暮らす、人々の暮らしや感情の機微が繊細に描かれる作品になるのではないでしょうか。
KERA・MAP #010『しびれ雲』は、東京・本多劇場にて上演予定。その後、兵庫、北九州、新潟での上演が決定しています。詳しくはこちら。※最新の上演スケジュールは公式HPをご確認ください
稽古しながら脚本ができていくことが多いというKERA作品。小津映画のような、昭和の古き良き日本が体感できる作品となっているのか、一体どのような作品に仕上がったのか、劇場で観るのが楽しみになりますね。