舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』で2023年8月よりハーマイオニー・グレンジャー役を務める笹本玲奈さん。ミュージカル『ピーターパン』で5代目ピーターパンを務めたのち、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『マリー・アントワネット』『ジキル&ハイド』『メリー・ポピンズ』など数々のミュージカルで活躍してきました。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の出演に「夢が叶いました」とコメントしていた笹本さん。魔法大臣になったハーマイオニーという役どころ、ロングラン公演ならではの難しさや、本作にかける思いを伺いました。

1人の人間として抱えている悩みや葛藤が凄く刺さる

−ハリー・ポッターシリーズの映画はご覧になっていましたか?
「見ていました。ちょうど1作目の公開が中学1年生の時で、登場人物たちも同世代なので、彼らと一緒に成長してきた感覚があり、親しみを感じる作品でした。自分と共に人生を歩んできた作品です」

−舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』についてはどのような印象を持たれていましたか?
「ロンドンとブロードウェイで上演されていて、すごいという噂をずっと聞いていたんですよ。本格的な演劇として楽しめると聞いていたので、もし日本で上演する機会があったらやってみたいなとずっと思っていました」

−ミュージカル女優として活躍する笹本さんが、ストレートプレイ作品にロングランで出演することへの迷いはなかったのでしょうか?
「1年と聞いた時は、やっぱりちょっと構えましたね。もちろん自分の体調面もあるのですが、今は家族がいて、子どもの体調を親として管理して生活しているので、ちゃんとできるのかなという不安がありました。ただ通常の舞台作品では稽古・本番合わせて3〜4ヶ月のスパンなので、ロングランで1年先まで大体のスケジュールがわかるのは逆に生活しやすいかもしれないと思ったんです。規則正しい生活はしやすいだろうなと思ったのが後押しになりました」

−物語についてはいかがですか?
「作品の稽古に入る前に原作も全部読んだのですが、ハリー・ポッターシリーズ全部の中でもこの『ハリー・ポッターと呪いの子』が好きでした。自分も彼らと同じように歳を重ねていて、共感できるポイントが多いんです。今まで映画を見ていると魔法使いのファンタジー的な要素を感じていたけれど、本作は1人の人間として抱えている悩みや葛藤が、同じ世代の私たちに凄く刺さる物語だなと感じました」

−ハーマイオニーというキャラクターについてはどのように捉えていますか?
「19年後、ハーマイオニーは魔法大臣として生活しているのですが、それも凄く現代的な描かれ方だなと思いましたね。主夫業をロンが担っていて、働いてお金を稼ぐのがハーマイオニーという役割分担なのも今っぽい。それから、彼女は魔法大臣としている時の自分と、家族にしか見せない顔があると思うんです。今までのシリーズでも普段彼女は優等生であまり自分の感情を出すタイプではないけれど、初めてロンに恋人ができた時に凄い嫉妬するんですよね。そのやきもちがあったから2人は結ばれるのですが、ロンに対しては女の子らしい一面が垣間見えて、そういった部分も持ったまま大人になっていると思います」

−責任感のある役職についている今は、よりロンが支えになっているように見えます。
「ロンはオープンな性格で常に色々な人を幸せにできる人ですよね。ロンの性格がそうだというのもあるし、あえてそうしている部分もあると思うんです。ハーマイオニーが抱えているものの重さをわかっているだろうから、一緒にいる時はそういうことを忘れられるような家庭づくりをしているんじゃないかなと思うと、もの凄く良い旦那さんだなと思いますね」

−ハリーが親子関係で悩む一方で、ロンとハーマイオニーはとても良いバランスの家族ですよね。
「ロンとハーマイオニーには子どもが2人いて、本作ではローズという女の子だけ出てくるのですが、ローズはハーマイオニーに似て賢い部分と、ロンに似てたくさんの人に愛される部分を持っています。彼女を見ていても、良い家族なのだなと思います。絆が築かれていて、バランスも自然に成り立っている。ロンが見えないところでそういったバランスを支えているんだなと思いますね」

−本作のハリーはどう見えていますか?
「ハリー・ロン・ハーマイオニーは死に直面する経験を一緒にしてきているので、普通の関係ではないと思うんです。恋人以上、家族以上の関係性だと思うので、全てのことをお互いに理解しあっている。本作のハリーは頑固で癖のある性格に成長している印象なんですけれど、ハーマイオニーはハリーがどこかで抱えている幼少期のトラウマとか、自分のせいで誰かが死んでしまったことが心の傷になっていることを分かっているからこそ、ハリーの表面的には意固地な態度も全て受け入れられるんだろうなと思いますね」

−作品の中で、一番好きなセリフはありますか?
「ドラコが言う、“親になるのはこの上なく難しいことだと人は言うが─それはちがう─大人になることが難しいのだ”というセリフです。初めてそのセリフを読んだ時は、泣きそうになりました。私も親として、子どもが今色々なものを吸収して成長している中で、それを後押しするのが母親の役目だと思っていたのですが、それ以上に自分たちが成長していかないと行けないのだと気づかされて。ちょうど子育てについて色々と考えている時期だったので、とても刺さるセリフでした」

−ドラコは大人になってかなり成長していますよね。
「この作品の中で、1番好きなキャラクターですね。映画のシリーズ後半でも葛藤していくのが切なかったんですけれど、意地悪な男の子だったのが、親になってこうも人は変わるのかという驚きがありますよね。彼は奥さんの死や、どこかで父親との確執を抱えながら過ごしてきた。それが成長させるきっかけになっていたのかなと思うと、とても愛おしい存在ですね」

大臣としての威厳と、家族やハリーとの温かい関係を身体で表現

−『ハリー・ポッターと呪いの子』は俳優の身体表現も魅力となっています。これまでメリー・ポピンズなどでも佇まいの美しさが光った笹本さんが、ハーマイオニーを演じる上で心掛けていることはありますか?
「大臣としている時の立ち姿と、友達や家族といて気が緩んでいる時の姿を身体的に表してほしいと常々言われています。ハーマイオニーは魔法大臣ですし、ハリー・ロン・ハーマイオニーは凄く有名人ですから、色々なところで注目されてしまう存在なんですよね。彼女もどこかでそのイメージを壊してはいけない、大臣としての威厳を保たなければいけないというのが身に染みてしまっている。それをちゃんと体で表せるように気をつけています」

−演出家から言われて印象に残っていることはありますか?
「彼女は家族といる時と仕事のモードをすぐに切り替えられる人だということですね。仕事を家庭に持ち込まない。仕事場にロンが来てキスをするシーンがあるのですが、みんなが現れるとすぐに切り替えます。頭の良さ、回転の速さが彼女らしさだから、それを深めてほしいと言われています。また、ハリーに対しての懐の広さ、温かい関係性を出してほしいと言われたのも印象的です。20年以上の長い友達で、死ぬか生きるかを乗り越えてきた深い絆もある。特別な関係であることを大切にしています」

−本作は魔法が見どころの1つですが、魔法をかける側になってみていかがですか?
「ハーマイオニーはあまり魔法を使うシーンが多くないので、もっと魔法をかけたかったですね(笑)。よくハーマイオニーやジニー役のキャストと、ハリーとドラコが羨ましいと言っています。私は本作を日本初演の日に初めて観劇して、あの魔法はどうなっているんだろう?と思ったことがいまだに解決していないシーンもあります。裏側を聞いてしまうと勿体無いと思って舞台稽古でも袖でずっと見ていたのですが、袖から見ていてもどうなっているのか分からないシーンがあって、本当に魅力的な魔法だなと感じています」

−途中からロングランのチームに加わることは初めてだと思います。普段の舞台作品との違いは感じられますか?
「感じますね。2年目で新しく加わるキャストは、普段は稽古場で稽古をしているのですが、本番が1回公演の日は公演後にTBS赤坂ACTシアターで稽古をやらせてもらっています。既に舞台に出ているキャストたちと一緒に演じてみると皆さんのエネルギーに負けてしまいそうになって、最初は凄く戸惑いました。魔法大臣として誰よりも偉い立場にいないといけないのに、他のキャラクターたちに圧倒されてしまうと思って。本番でお客様の前でやっている方のエネルギーはもの凄いし、既に450回以上公演をしているので、そのエネルギーに追いつかないといけないプレッシャーは凄くあります」

−1年間ハーマイオニーを演じ続けるという経験で、どんなものを得たいと考えていますか?
「女優としては毎日同じことを1年間やるというのは初めてのことなので、精神的に鍛えられると思うんですよね。同じことを同じ風にやっていたらいつか飽きてしまう時が来るだろうし、同じ作品を違う新鮮な気持ちで挑めるようにちょっとずつ自分で見直していきながら挑んでいくことで、表現の幅が広がってくるんじゃないかと思っていて。こういうセリフの言い方があったんだ、こういう風に感じることもあるんだ、と毎日ちゃんと発見して行けたら良いですね。そしたらきっと1つのセリフでも100通り、200通りの言い方に出会えると思う。これはロングランだからこそ出来ることで、そういったことを見つけられる場だと思って挑戦していきたいです」

−本作で、観客にはどのようなことを体験してほしいと思われますか?
「まずは魔法の凄さを体験してもらいたいです。1番好きなシーンは、1幕の最後がすごく印象的で。怖さもあるけれど、音楽も照明も衣装も含めてものすごく忠実に再現されていて、最初に観た時にかっこよくて胸が躍った記憶があるんですね。この作品は息を吐く暇もないくらい、とてもスピーディに進んでいくので、ジェットコースターに乗ってあっという間に帰ってくるような爽快感を感じてもらえればと思います。

また、本作は胸打たれるセリフも数多く登場します。台本も発売されているので、ぜひ読んでいただきたいです。元々2部作だったものをまとめていてカットになっているシーンもあるので、それも読んでみるとまた世界が広がるんですよ。J.K.ローリングさんが書かれた本がすごく面白いので、舞台を観た後にまた読んでいただきたいです」

−演劇は時代を映す鏡とも言われます。本作をこの時代に上演する意義をどう感じられていますか?
「作者が書いたのは2015年くらいだと思うんですけれど、今の時代が抱えている問題が凄く反映されている作品です。分かりやすく描かれているわけではないけれど、ハーマイオニーが大臣になることも含めて、ジェンダーも凄くこの作品と関わりがあるなと感じています。きっと今を生きる人たちに何かしらのヒントになることが、人それぞれあると思う。私自身もこの作品を見て、子どもとの向き合い方について学ぶことが多いんですよね。観る人が何かしらを受け取って帰れる作品だと思います」

撮影:木南清香

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアターにて上演中。笹本玲奈さんは8月4日からハーマイオニー・グレンジャー役を務めます。作品の公式HPはこちら

Yurika

美しさ、繊細さ、力強さを兼ね備えた笹本玲奈さんはハーマイオニーにぴったり!ロンに見せる可愛らしい一面も見逃せません。ミュージカルファンに向けて、「今はハリー・ポッターに集中したいなと思っていますが、もちろんミュージカル女優なので、歌う機会は絶対今後もありますよ」と仰ってくれました!