9月に開幕を迎えるDaiwa House presentsミュージカル『生きる』。主人公の渡辺勘治役に市村正親さん・鹿賀丈史さんを迎え、3度目の上演となります。2023年版キャストとして本作に新たに加わる小説家役の上原理生さんと、組長役の福井晶一さん。ミュージカル『レ・ミゼラブル』『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』と共演の続くお二人に、本作での役柄や魅力についてたっぷりと伺いました!

市村正親・鹿賀丈史の勘治から伝わる言葉の真実味

−ミュージカル『生きる』は3度目の上演となりますが、過去の公演を拝見されたことは?
上原「あります。素直に感動しましたね。映画のテイストをそのまま3次元にしたような、時代の土くささみたいなものが表現されていて、オリジナルで凄くクオリティの高い作品であることに感動しました」

福井「僕は映画を見る前に舞台を観たのですが、黒澤明監督の作品なのでシリアスなのかなと思っていたら、結構コメディタッチなんですよね。だからミュージカルに合う題材なのだなと感じました。主人公の勘治が歌う「二度目の誕生日」に凄く感動したのですが、後から映画も見たら同じシーンがあって驚いたり。あと、勘治が息子のことを愛しているのに上手く気持ちを伝えられない様子は、自分の父親と重ね合わせて感動しましたね」

上原「映画だと勘治は多くを語らないじゃないですか。目線や表情でこちら側が想像する余白が大きかったのが、ミュージカルでは歌が入ってきても、勘治の世界観やキャラクターを邪魔していないというのも、凄く良く出来ている舞台版だなと思いました」

−稽古に入ってみていかがでしょうか?
福井「とにかく主演のお二人(市村正親さん・鹿賀丈史さん)が凄いよね。同じ現場にいることで、それを肌で感じています。頑張らなきゃなという気持ちにさせられる」

上原「そうですね。主演のお二人が真正面から役と作品に向き合っているので、僕たちも頑張らなきゃいけないですよね」

福井「お二人は三度目の上演で、僕たちは初めて参加させてもらうので、追いつくことはできないかもしれないけれど、少しでも近づかなきゃなと思います」

−市村正親さん・鹿賀丈史さんの凄さというのはどういった部分に感じられますか?
福井「言葉でいうのも烏滸がましいほどなんですが…勘治そのもので、役を生きてるよね。言葉に真実味があるというか」

上原「そうですね。だから言葉が凄い響くんですよね。僕が演じるのは小説家なので、勘治と一緒に芝居する場面が多いのですが、余命宣告をされた時の“死に向かっていっている勘治さん”は死んだ目をしていて。でも公園を作るという夢を見つけた後は、目の力が全然違うんです。その変化に自分自身も小説家としてもびっくりするし、投げかけてくるものを凄く感じます」

福井「本当に役が染み込んでいる印象がありますね。あと僕自身は劇団四季の大先輩なので、最初はものすごい緊張して、“とにかく失礼のないように…”という思いはありました(笑)。僕の役は組長なので、勘治さんを翻弄しなきゃいけないんですけど、ちょっと丁寧に接しちゃって…そしたらお二人から“もっとやっていいんだよ”と言っていただきました」

上原「僕も“福井さん、大先輩をいたぶってどういう気持ちなんだろう”とは思ってました(笑)」

福井「どれくらいの力で触っていいかとか戸惑っちゃった(笑)。劇団のレジェンドで伝説もたくさん聞いていて、今回初めてお芝居させていただくので、ど緊張ですよ。でもお二人は今回の公演で新しく参加するメンバーに対して温かく迎えてくださって、やりやすい環境を作っていただきました」

小説家と組長、裏では繋がっている…?

−上原さんが演じる小説家、福井さんが演じる組長の人物像を聞かせてください。
上原「小説家の台詞に“大衆は高尚な文学を喜ばない。しがない三文小説を俺は書いている”というのがあって、純粋に文学作家になりたかった人だと思うんです。太宰治とか坂口安吾のようなちゃんとした作家になりたかったんだけど、認められなくて、食わなきゃいけないから、お金になる三文小説を書いている。それが売れちゃっているもんだから、“なんだかなあ”という劣等感ですよね。コンプレックスによって斜に構えて世の中を見ているわけですが、元々は純粋な思いがある人なので、勘治さんが変わっていく姿を見て自分も感化されてしまう。何の得にもならないのに命懸けで組長と戦うんです。でも手助けの仕方は少し機転が効いていて、ブラックジャックぽいなと思っています。知性のある人ですね」

福井「僕はなぜ組長にキャスティングしていただいたのかなと思って、演出の宮本亞門さんに質問したんです。そうしたら『レ・ミゼラブル』を見ていたようで、“ああいう繊細な役を演じられる福井さんだったら、色々な役ができるんじゃないか。人間の怖さ、狂気を持つ福井さんも見てみたい”と言っていただきました。そのお話もふまえて、組長はいわゆる悪役というよりも、その時代に生きた人であることを大事にしようと思って。時代の中で、闇の世界で這い上がっていくしか道がなかった人だと捉えています。金に対する執着が強いのも、幼少期に金がなくて辛い経験をしたとか、そういうバックボーンを大事にしながら舞台上に存在したい。そういった厚みのある人物にしていくことで、怖さを自分から出すのではなく、自然に滲み出ていくと良いなと思います」

上原「福井さん楽しそうですよね。組長は“金は力”と言っていて、『北斗の拳』のラオウの“力こそが全て”という台詞と似ているなと思って(笑)」

福井「楽しいですね(笑)。政治と金だとか、裏社会と繋がっているだとか、現代にも共通する話題も多いです。それらを皮肉っている一面もあるからこそ、今の時代にも響く作品だと思います」

−お互いの役に対する印象はいかがですか?
上原「小説家と組長はツーカーなのかなとは思っていて。顔馴染みだと分かるシーンもあるし、組長の下っ端から“先生!”と声をかけられる場面もあるので、一目置かれているのかなと考えています」

福井「そうだね。小説家が勘治さんに夜の街での遊びを見せていますが、あれはおそらく組長の島なので、小説家のことはお世話しているんだろうなと思います。小説家という人物を面白がっているのかなと。ただ組長は何かあったら敵になる怖さはあります。理生は小説家にぴったりですよ。楽屋でも浴衣だし(笑)、凄い時代にマッチしてるよね」

物質的に豊かな現代に、本当の幸せは何なのか

撮影:竹下力

−作品の中で印象に残っている台詞はありますか?
上原「1番最後に歌われる“生きることは ただそれだけで なんて美しい”という歌詞は、凄いシンプルな言葉なのにとっても深いなと刺さりました。死に向かっていた人が小さな夢を見つけて、自分の体が蝕まれている中でも懸命に生きていく姿を象徴しています。今は混迷としている世の中で、どう生きていけば良いのかという課題が日々出てくることが多いと思うんですけれども、“生きていることはただそれだけで素晴らしいんだよ”というストレートなメッセージを受けて、自分たちはどう生きるのかを考えさせられるので、とても好きな言葉です」

福井「僕も一緒ですね。そこに尽きると思います。重みのある言葉ですね」

上原「今、生きることだけで大変だと思うんです。戦争が起きたり、物価が高かったり、これからどうなっていくんだろう?という思いが毎日あると思うので。その中で、“生きることは ただそれだけで なんて美しい”と、自分も死ぬ時にそう思えたら良いなと感じますし、そう思える世の中になったら良いなと思いますよね」

−演出の宮本亞門さんの印象、印象に残っている言葉は?
上原「最初の本読みの時にお話しされていたのが、作品を創る上で大切にしているのが“人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇である”というチャップリンの言葉なのだと。この言葉は、黒澤明監督も大事にされていたそうです。それを無くしてしまうと、ただ余命宣告をされた男の暗い話になってしまう。だからこそよく見るとコメディ要素が散りばめられていて、映画もそういうシーンがたくさんあります。あらすじだけ聞くと重く捉えてしまう方もいるかもしれませんが、喜劇でもあることをお客様にも頭の片隅に置いて見ていただけると、よりこの作品を、考える余白を持って見てもらえるのではないかと、そういったことを言われました」

−本作は今の時代と重なる部分が多いですが、本作を今の時代に届ける意義をどのように感じられていますか?
福井「今、生きづらさを感じている方も増えてきているので、この作品の“生きる”という普遍的なテーマや、“人生は何度でもやり直せる”ということが響くと思います。タイトルだけ聞くと重く捉える方もいるかもしれませんが、幅広い世代の方に届いてほしいメッセージがたくさん詰まっています。親子の愛についても描かれているので、ぜひ親子で来ていただけると嬉しいですね」

上原「本作は戦後7年という時代設定で、光男と一枝というこれからの時代を生きる若者たちが描かれています。戦争で全てを失った後に、物質的に豊かになっていこうという1つの目標に向かっていった時代だったと思うんです。電気洗濯機・電気冷蔵庫・白黒テレビの“三種の神器”もどんどん導入されていくような時代背景の中で、光男と一枝はこれからを生きていく人々。

一方で、勘治さんは戦争も経験している世代で、家の建て替えの話で“母さんと一緒に過ごした家だぞ”と言うシーンもあるように、思い出とか、人と人との繋がりとか、精神的なことを重んじる世代だったと思うんです。そこですれ違っていく親子の姿というのは、物質的に豊かな現代に、本当の幸せは何なのかということも投げかけているように思います。勘治さんが子どもたちのために公園を作りたいと思って行動するように、誰かのためを思うことが減ってはいないだろうかと。今の時代だからこそ、誰かを思うことの大事さが伝わったら良いですね」

Daiwa House presentsミュージカル『生きる』は9月7日(木)から24日(日)まで新国立劇場 中劇場にて上演されます。上演時間は約2時間25分予定。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。

Yurika

震災やコロナ禍、戦争など未来への不安を抱くことも多い今の時代に、どう「生きる」ことと向き合うのか。深く重いテーマにも思えますが、コミカルなシーンや美しい音楽と共に考えることができるというのは、ミュージカルがこの世界に必要とされる大きな役割であるように感じます。日本が生み出したオリジナルミュージカル『生きる』、多くの人が自分の人生を重ね合わせることができるのではないでしょうか。