2020年から、舞台に関わる資料の収集・デジタルアーカイブ化やそれらの利活用のサポートを行なってきた一般社団法人EPAD。開催中の「東京芸術祭2023」の企画として、10月11日(水)より、舞台映像で「劇場空間」の再現に主眼を置いた上映会「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」を行います。
五感がはたらく「観劇体験」の保存と再現に挑戦
最近では、直接劇場に足を運ばなくとも、舞台作品を楽しめる方法が増えてきました。DVD・Blu-rayの販売はもちろん、配信サービス、収録映像の映画館上映、上演をリアルタイムで自宅や映画館に届けるライブ配信など、時空を超えて作品に触れる機会は豊かになる一方です。
劇場、という限定的な場所で即時消費されていく舞台芸術は、古代からの人間の営みでありながら、かたちに残すことが難しい文化でもありました。その体験を、未来に残していく。技術が発達した現在では、作品保存の目的はもちろん、より没入感と再現性を追求することもできるようになっています。
その最先端を行くイベントが、10月11日(水)から10月22日(日)まで、東京芸術劇場シアターウエストで開催される「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」です。
2020年から舞台芸術のデジタルアーカイブ化に取り組んできた主催団体のEPADが、最新技術を使用して記録に残してきた舞台作品。それらを劇場で上映し、最先端技術は劇場での生の観劇体験をどこまで再現しうるのかを検証します。
俳優や観客の息づかい、光のまぶしさ、劇場の匂い、舞台と客席が作る静寂…観劇体験で得られる感覚はなかなか記録にとどめることは難しそうです。それでも、よりリアルに鮮明に記録し、再現性を高めるべく、EPADでは様々な技術で舞台作品を記録しています。
超高精細な8Kで収録した舞台全景の映像を上映し、客席からのリアルな視点をそのままの形で残すことができるか検証する「8K定点上映」。複数の高精細カメラで収録した映像を映画のように編集し、生の観劇以上に作品を体感させる「多カメラ」。収録音に前後と高さを加え、立体的に表現することで、公演時の「劇場空間」を再現する「イマーシブサウンド」。こうした技術を組み合わせ、五感を刺激する劇場での時間の再現を目指します。
EPADの上映会は、今年の7月にも渋谷・PARCO劇場にて実施。三谷幸喜さんやいのうえひでのりさん、野田秀樹さんの近年の話題作を大スクリーンで上映し、好評を博しました。
今の舞台作品を100年後の未来に残す- EPADの使命
EPADとは、一般社団法人EPADが文化庁や広く舞台芸術界と連携して進める、舞台芸術アーカイブとデジタルシアター化支援事業(Eternal Performing Arts Archives and Digital Theatre)の略称です。
舞台芸術を100年後の未来と世界に伝えるために、舞台映像、戯曲、美術、ポスターその他資料のデジタルアーカイブ化を進めています。保存した舞台映像の可能性を探る上映会の開催など、記録された作品の利活用を行う他、上映会会場においてバリアフリーな劇場体験を目指す「THEATRE for ALL」や様々な人に対応した鑑賞サポートといった舞台芸術のユニバーサル化にも力を入れています。
EPADの事業内容について、詳しくはこちらから。
多彩な全8作の上映ラインナップを、お手頃価格で。
東京芸術祭2023内「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」にて上映される作品は全8作。ストレートプレイから漫画原作の2.5次元舞台、バレエ、とバリエーション豊かなラインナップです。作品によって、「8K定点上映」や「多カメラ」など映像の切り取り方が異なるため、作品そのものを楽しみつつ、記録の残し方の違いにも味わいを感じられるかもしれません。
上映ラインナップ:
■イキウメ『人魂を届けに』 2023年上演 映像:8K定点
東京と大阪で上演された、人生と魂にまつわる物語。作・演出はイキウメ主宰の前川知大さん。出演は、浜田信也さん、安井順平さん、盛隆二さん、森下創さん、大窪人衛さん、藤原季節さん、篠井英介さん。上映時間は1時間50分。
■舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1 2023年上演 映像:8K定点
「週刊少年チャンピオン」連載の渡辺航さんの『弱虫ペダル』が原作。自宅のある千葉から秋葉原まで、往復90㎞の距離を毎週ママチャリで通うほどのオタク少年だった小野田坂道が、ひょんなことから自転車競技部へ入部します。自転車を通じて出会った仲間や先輩達と共にインターハイ優勝を目指す物語。出演は島村龍乃介さん他。上映時間は2時間10分。
■た組『綿子はもつれる』 2023年上演
映像:4K多カメラ 音声:イマーシブサウンド 鑑賞サポートあり
加藤拓也さん作・演出、安達祐実さん主演。夫婦関係が破綻していた綿子と悟ですが、綿子と不倫相手のある出来事によって、夫婦関係の再構築を始めます。上映時間は1時間40分。
■東京芸術劇場『気づかいルーシー』 2022年上演
映像:8K定点 音声:イマーシブサウンド
松尾スズキさんの絵本を原作にした、歌と踊り満載のオリジナル音楽劇。「忖度」を、ブームになる以前に描き出していた鋭い視点の秀作。作・演出はノゾエ征爾さん、出演は岸井ゆきのさん、栗原類さん他。上映時間は1時間35分。
■マームとジプシー『cocoon』 2022年上演
映像:8K定点 音声:イマーシブサウンド 鑑賞サポートあり
漫画家・今日マチ子さんの「cocoon」を原作に、作・演出を藤田貴大さん、音楽を原田郁子さんが手掛けた作品。主人公の少女・サンは同級生たちとともに沖縄戦に看護隊として動員されます。戦況の悪化により、死と隣り合わせの日々へと変化していく様子を描いた物語。上映時間は2時間30分。
■公益財団法人スターダンサーズ・バレエ団『くるみ割り人形』 2022年上演
映像:8K定点 音声:イマーシブサウンド
バレエになじみがなくても楽しめる演目の代表格。クリスマスシーズンの恒例となっている、神奈川県川崎市のテアトロ・ジーリオ・ショウワでの2022年上演を8K定点で収録。クララ役を塩谷綾菜さん、王子役を林田翔平さんが踊ります。ドイツのとある街のクリスマス。少女クララが人形の世界に迷い込み、家族の愛と温かさに気づく物語。上映時間は2時間5分(休憩あり)。
■蜷川幸雄七回忌追悼公演『ムサシ』 2021年上演
映像:8K定点 音声:イマーシブサウンド 鑑賞サポートあり
蜷川幸雄さんの代表作を、吉田鋼太郎さん演出で上演した2021年公演。出演は藤原竜也さん、溝端淳平さん、鈴木杏さん、塚本幸男さん、吉田鋼太郎さん、白石加代子さんら、重厚なメンバーが揃います。「巌流島の決闘」と呼ばれる宮本武蔵と佐々木小次郎の世紀の大一番と、その6年後の再対決を描いた作品。上映時間は3時間(休憩あり)。
■維新派『トワイライト』2015年上演
映像:HD他カメラ 音声:イマーシブサウンド
奈良県と三重県の境に位置する自然豊かな宇陀郡曽爾村(うだぐんそにむら)にある、広大なグラウンドで上演された作品。この土地を舞台に、少年ワタルの成長を描く物語です。空の色も、遠くの山々も、見える自然全てが舞台背景。自然を取り入れるからこそ、作られた瞬間を消費するという、演劇の即時性を体感できます。上映時間は2時間2分。
「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」期間は2023年10月11日(水)から10月22日(日)まで、東京芸術劇場 シアターウエストにて開催されます。チケット(自由席・入場整理番号付)は一般1,500円(税込)、 25歳以下の方は1,000円(税込)と、気軽に観られる価格設定も魅力的。観劇体験はどこまで追体験できるのか、足を運んでご自身で体感してみてはいかがでしょうか。詳細はこちらの公式ホームページをご覧ください。
同時代を生きる者同士の感覚共有ができる場所としての劇場が大好きなので、そこでの体験そのものを保存することがどこまでできるのか、今回の企画にはとても興味をそそられました。そしてその作品たちが、未来の人間にどう受け取られ、活用されていくのか、これからもEPADの取り組みに注目して行きたいと思います。