ミュージカル作品では、『エリザベート』、『ミス・サイゴン』など、主にヨーロッパ発祥の海外作品が上演されることが多い中、近年では韓国発のミュージカル作品が多く上演されるようになりました。一体何がミュージカルファンの心をひきつけるのか、ひも解いていきます。

独自のミュージカル作品が発展している国・韓国

韓国では、日本同様に海外作品が上演されることも多々あるのですが、その中でもオリジナル作品も多数生まれています。日本では「下北沢」が演劇の街、ミュージカルであれば日比谷・池袋などに劇場が集結していますが、韓国には「大学路(テハンノ)」と呼ばれる演劇の街があり、ここから多くの作品が羽ばたいています。

「大学路」にはおよそ100以上の劇場がひしめき合い、日々新たな作品が上演されています。また、街のいたるところにチケットボックスと呼ばれる券売所が存在しており、気軽に演劇に触れ合うことが可能。

さらに、韓国内外のミュージカル作品と俳優が一堂に会する「大邱(テグ)国際ミュージカルフェスティバル」も行われています。

複雑な人間関係と奥深いストーリーが圧倒的魅力

韓国ミュージカルでは、一筋縄ではいかないような人間関係を描いた作品が多いのも特徴の1つ。男性同士のいがみ合いや駆け引きなど、ドロドロとまではいかないまでも、スカッとした関係性ではないものが多く見られます。また、ストーリーについても深く考えさせられるものや考察がはかどるような奥深いストーリーの作品が多く見られます。

最近では『フィーダシュント』、『ルードヴィヒ〜Beethoven The Piano〜』が話題を呼びました。『フィーダシュント』は、1930年代のドイツでフェンシングに打ち込む少年たちが、学校に隠された秘密を知ったことから波乱と権力にもまれていくストーリー。

『ルードヴィヒ〜Beethoven The Piano〜』は、晩年の作曲家ベートーヴェン(役名:ルードヴィヒ)が突然現われた一人の女性との出会いをきっかけに、新たな世界を見出すのですが、そこからさらなる悲劇へと追い込まれていきます。

また、ノーベル賞を2度受賞した「キュリー夫人」の生涯を元に制作された『マリー・キュリー』も高い評価を得ています。事実をベースにフィクションも織り交ぜた「ファクション・ミュージカル」というスタイルを取っており、夫婦同時受賞の快挙、マリーたち夫婦が発見した元素「ラジウム」が巻き起こす騒動などが描かれています。

過去には、「盗作」から一躍有名作家になってしまった青年とその小説を書いた隣人の老人の攻防と協力、そして破壊を描いた『アンクル・トム』。「ある事件」に巻き込まれた兄弟が、事件から12年後に集結、真相を突き止めていく中で自身と家族に隠された秘密を知り、恐怖と絶望へと突き落とされる『ブラック メリーポピンズ』などが上演されています。

2021年に上演された『ジャック・ザ・リッパー』も話題になりました。19世紀末のロンドンに実在した「ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)」を元にチェコ共和国で制作されたミュージカルを原作とした作品。極秘でジャックを追う刑事が、「ジャックと会った」という外科医と遭遇したことから「ジャック・ザ・リッパー」の正体に迫っていくストーリーです。

いずれも複雑に絡み合う人間関係と引き込まれるようなストーリーが特徴。特に『アンクル・トム』については明らかにされない部分が多く、公演中にはネットに多く考察が流れ、何度もリピートする人が続出しました。このように、考察しがいのあるストーリーと、熱く濃い人間ドラマが人気の理由といえるかもしれません。

日本上演時の出演者も多種多様

日本版『フィーダシュント』は、若手俳優の糸川耀士郎さんやTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEのRIKUさんらが出演。『ルードヴィヒ〜Beethoven The Piano〜』では中村倫也さんが主演を務め、『マリー・キュリー』では元宝塚歌劇団月組トップ娘役の愛希れいかさん、多数のミュージカルに出演している上山竜治さんが出演するなどジャンルも生い立ちも多種多様。先述した『ジャック・ザ・リッパー』には加藤和樹さんのほか、声優の小野賢章さんらが出演しています。

また、6月から7月にかけて上演予定のゲーテの『ファウスト』を題材にしたロックミュージカル『DEVIL』では、中川晃教さんのほかオリジナルキャストのマイケル・K・リーらが出演するとあって話題を呼んでいます。

さらに、2018年の日本初演から再演を重ね、「愛煙家」と呼ばれるリピーターを増やし続けている、実在の詩人李白(イ・サン)の生涯と詩を元にした『SMOKE』は、オリジナル版の演出家チュ・ジョンファによるオールキャストオーディションを開催し、2024年1月から3月にかけてのロングラン公演が予定されています。

筆者も何度か韓国ミュージカルを拝見しているのですが、他者への濃密な感情の投げあいが韓国ミュージカルの醍醐味だと思っています。ストーリーが難解なものもありますが、かめばかむほど味がする「するめ」のような魅力が韓国ミュージカルには詰まっていると思います。