耳に残るメロディと印象的な歌詞、そして呼び起こされる、劇場での高揚感-。ミュージカルの楽曲には、何層にも重なる魅力が詰まっています。とりわけデュエットは、ハーモニーや掛け合いの美しさ、役の関係性など、味わいポイントが多いもの。今回は、ヒマさえあればミュージカルのサウンドトラックを聞いている筆者が、数々の楽曲から「これぞミュージカル史に残る名デュエットナンバーだ!」と思う曲をピックアップしてご紹介します!

世界で不動の人気を誇る名作のデュエットは、ラブソングが定番

もはや現代ミュージカルの礎とも言える、1950年代から80年代に初演された名作の数々。それらの作品で歌われるデュエットナンバーは、ロマンチックなラブソングがお決まりです。

「トゥナイト」 『ウェスト・サイド・ストーリー』より
「ミュージカル史に残る」と言い切るには最もふさわしい名曲。出会ったその夜に愛を告白するトニーとマリアの名シーンで歌われます。原作であるシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』で象徴的なバルコニーシーンが、『ウェスト・サイド・ストーリー』ではニューヨークの下町アパートの非常階段の場面に。その階段を昇って降りて、まるで芽生えた恋心が夜空へ昇っていくかのようなメロディ展開が美しいデュエットです。

「Sixteen Going on Seventeen(もうすぐ17歳)」 『サウンド・オブ・ミュージック』より
このナンバーは、『サウンド・オブ・ミュージック』の主人公が家庭教師を務めることになったフォントラップ家の長女で16歳のリーズルと、そのボーイフレンドで17歳のロルフが歌う、なんとも甘酸っぱいデュエットです。お互いのことだけを見つめている若き恋人たち。その無垢なふたりの心は、戦争の影によって作中で大きく変化することになります。

「All I Ask Of You(オール・アイ・アスク・オブ・ユー)」 『オペラ座の怪人』より
アンドリュー・ロイド・ウェバーの名舞台からは、1幕ラストを飾るこの曲を。執拗な怪人にすっかり怯えてしまった歌姫クリスティーヌを安心させようと、幼なじみのラウルが歌いかけて始まるこの曲は、安心感を見出したいという根源的な欲求をまっすぐに伝え合う、究極のラブソング。ぬくもりを感じるメロディも大変美しく、作中の様々な(そしてかなり重要な)場面で繰り返されるので、印象に残ります。「オペラ座の怪人」や「ザ・ポイント・オブ・ノーリターン」といった、重厚で官能的なデュエットナンバーも魅力的ですが、ラブソングという点では迷いなくこの曲一択です。

ミュージカル映画の楽曲として大ヒット!舞台化でさらに存在感を増した名曲たち

映画としてヒットしたミュージカル作品の名曲も多数。ディズニー映画はその筆頭です。そのなかでも、舞台化でさらなるアップデートがなされ、楽曲のパワーを観客に印象づけた名デュエットがこちら。

「ア・ホール・ニュー・ワールド」 『アラジン』より
魔法の絨毯に乗って世界の夜空を駆けめぐるアニメーションでお馴染みのこの楽曲は、ティム・ライス作詞、アラン・メンケン作曲のディズニー黄金期を代表するラブバラード。空飛ぶ疾走感と二声の掛け合いが美しいこの大ヒット曲は、音楽番組のディズニー企画でもよく取り上げられています。絨毯が飛ぶ様子を見事に再現したミュージカル版では、きらめきを感じるオーケストレーションでさらにロマンチックなデュエットナンバーになりました。

「愛を感じて」 『ライオンキング』より
こちらもディズニーの名曲で、作詞ティム・ライス、作曲エルトン・ジョンの大ヒットバラード。大人になって再会した幼なじみに恋心が芽生えるシーンで歌われ、頬を撫でる風のような甘いメロディと、草葉のささやきのようなズールー語のコーラスが美しいハーモニーを奏でます。愛をあらゆる生命の調和として讃える歌詞が普遍性を拡げ、唯一無二の魅力を放つラブソングです。映画版では挿入歌的な印象ですが、ミュージカル版ではデュエットナンバーとして再構成されました。

「Your Song」「Come What May」 『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』
2023年に日本の話題をさらった絢爛豪華なジューク・ボックス・ミュージカルから、この2曲は歴史に残るデュエットと言っても良いのではないでしょうか。バズ・ラーマン監督の大ヒット映画からさらにパワーアップし、70以上のポップソングから構成される舞台版の楽曲たち。これほどまでに音楽が氾濫する作品にも関わらず、愛し合うふたりを象徴するこの2曲はやはり強烈に印象に残ります。エルトン・ジョンの名バラード「Your Song」は歌詞からクリスチャンの純真な想いがまっすぐに届き、その想いにサティーンが情熱的に応えるデュエット仕様の編曲が舞台版ならでは。唯一のオリジナルソングである「Come What May」も重要なシーンで登場し、物語を代表する名デュエットとなりました。

ラブソングだけじゃない!さまざまな「絆」を表現した名デュエット

ミュージカルのデュエットナンバーで表現されてきた役の関係性はさまざまです。ぶつかり合ったり、思いやったり。ふたりの心情を音楽で表現するデュエットの奥深さが味わえる名曲は数え切れません。

「The Confrontation(対決)」 『レ・ミゼラブル』より
ジャン・バルジャンとジャベール警部という、この作品の永遠のライバルであるふたりが、決して交わることのないそれぞれの信念をぶつけ合うシーンで歌われるナンバー。声量の迫力に圧倒される名デュエットです。窃盗・脱獄で服役していたが改心し、今では善良な市長にまで這い上がったバルジャンと、彼を逮捕したい一心のジャベール。生涯続くこのいびつな関係性は『レ・ミゼラブル』の根幹であり、このデュエットシーンは隠れたミュージカル史上の名場面とも言えます。

「For Good(あなたを忘れない)」 『ウィキッド』より
友情をテーマにした楽曲部門があれば、第一位に挙げたい名曲。正反対の性格で、目指す理想の違いから対立もする悪い魔女エルファバと良い魔女グリンダが、永遠の別れを前に歌う、美しいデュエットです。優しいメロディはもちろん、作品の文脈から切り離しても友情を描く一曲として成立する歌詞が秀逸。人生を変えてくれた友人への感謝の賛歌であり、出会えたことをどこまでも前向きに綴る言葉が胸に響きます。

「Dear Theodosia」 『Hamilton』より
リン=マニュエル・ミランダが書いたこの楽曲は、ふたりの父親がそれぞれの子どもに向けて歌う子守歌です。日頃は激しく対立するハミルトンと政敵のバー。この曲の中で我が子に対面し、子どもたちの世界をより良くするために戦うことを宣言します。ライバル同士にも共通点があるのだとそっと気づかせる、人間性を印象的に描き出すあたたかなデュエットです。他の作品ではあまり見かけないコンセプトや、ナンバーの持つ意味合いからもミュージカル史に名を刻む一曲として挙げました。

日本ミュージカル界と言えばやっぱりこのデュエット

世界でも稀有なシステムで興行を行う宝塚歌劇団や劇団四季を擁する日本。そのミュージカル文化を語るうえで外せない、人気のデュエットナンバーはこちら!

「ミー&マイガール」 『ミー&マイガール』より
1937年にロンドンで初演されたコメディミュージカル。日本では87年に宝塚歌劇月組で初演されて以来、宝塚と東宝で何度も再演が重ねられています。軽快なメロディとリズムの「ミー&マイガール」は聴くだけでハッピーな気分になれます。ロンドンの下町育ちから名門貴族の仲間入りをする青年ビルと恋人サリーの可愛らしいデュエットは、ダンスも含めて不動の人気を誇ります。

「闇が広がる」 『エリザベート』より
オーストリア皇后の幼少期から晩年までの生涯を物語にしたグランドミュージカル『エリザベート』。宝塚歌劇団と東宝で上演機会がありますが、人気の高い演目です。ひときわ低く重たいイントロダクションから始まる「闇が広がる」は黄泉の国でエリザベートを待ち続けるトート(黄泉の帝王)が彼女の息子ルドルフを意中に引きずり込んでいく楽曲。ドラマチックな曲展開で、二声が合わさるサビがなんとも重厚で異様な雰囲気を醸し出します。

「ふたりの世界」 『夢から醒めた夢』より
劇団四季のオリジナルミュージカルから。好奇心旺盛な少女ピコが死後の世界を冒険する物語の最後を締めくくる楽曲です。交通事故で亡くなった少女マコの魂と出会い、悲しむお母さんを励ますために身体を貸して欲しいという願いを聞き入れるピコ。少女たちの相手を疑わないやさしさと思いやりをかんたんな言葉で描ききる歌詞と三木たかしさんのシンプルであたたかいメロディが素晴らしく、子供も親しみやすい名曲です。

Sasha

みなさまが思い浮かべる名曲はありましたでしょうか。独断につき、ご異論は承知のうえでございます。皆様のお好きなデュエット、「これぞ名曲」と思われるデュエットをご紹介できていましたら幸いです。