日本のイマーシブシアターを牽引するdaisydoze(デイジードーズ)の新作公演『Anima』。東宝演劇部が初めてイマーシブシアターの制作協力を行ったことでも話題となり、これまでダンスを中心としてきた作品に芝居や歌の要素を加え、ジャンルの垣根を超えた作品となっています。本作が上演されるのは、全客室がアート作品になっているホテルBnA_WALL。ロビーで渡された部屋番号のカードを元に、観客たちはそれぞれの部屋へと誘われていきます。

ユングは夢から覚めることが出来るのか?

宿泊者の「夢」が現れて浮かぶホテルでは、心理学者のユングや助手が滞在しており、ホテルのマネージャー、学芸員、リネンの女、薬草師らが、宿泊者が深い眠りにつけるよう安眠酒を提供しています。

Photo by Momoko Maruyama

ユングは妻と幸せなひとときを感じるダンスを踊っていますが、研究に没頭していく彼の姿に、妻は悲しげに去っていきます。そして妻は安眠酒を飲んで眠りにつくと、眠りから覚めなくなってしまったようです。

助手の妹である記者も、取材のためにホテルに訪れ、眠りから覚めなくなった様子。観客たちはマネージャーや学芸員、リネンの女、薬草師らに誘われ、各部屋で様々なキャラクターたちの眠りから覚めないようになってしまった姿や、妻を失った後悔の中で夢から覚める方法を探すユングの姿を追いかけていきます。

Photo by Momoko Maruyama

本作は観客が自由に歩き回る自由回遊型ではなく、キャストの誘導によって移動しながら体験する誘導型。イマーシブシアター初心者は、どこの部屋に行けば良いか分からず結局ずっと同じ場所にいた…といったこともありますが、本作ではキャストがしっかりと誘導してくれ、安心して物語に身を委ねることができます。特にマネージャーや学芸員、リネンの女はセリフがあり、ストーリーテラー的な役割も果たしてくれるため、その芝居を通して各部屋で見たこと・感じたことを繋ぎ合わせていくことができます。

Photo by Momoko Maruyama

1つの部屋に誘われるのは3〜4人と少人数のことが多く、時に別の観客たちと合流し、また別の部屋に3~4人で移動していくので、どの部屋に行くことになるのかはその時次第。部屋には少人数しかいないため、キャストより観客の動きが気になってしまうといったこともなく、物語との距離が近いのが特徴です。

全客室がアート作品になっているホテルBnA_WALLの部屋自体を活かした演出も印象的。中には壁一面に大きなオセロが設置されている遊び心溢れる部屋もあり、部屋に入るたび、テーマパークに来たようなワクワク感があったり、幻想的な空間にうっとりしたり。

Photo by Momoko Maruyama

そしてキャストたちのダンスは体が触れてしまうほど至近距離で繰り広げられ、圧巻の表現力と臨場感に惹き込まれます。舞台と客席のある作品ではあり得ない超至近距離は少し緊張してしまいますが、1つ1つの動きの細やかさや迫力を堪能できるのはイマーシブシアターならでは。キャストらに誘われて長い階段を降りていくと、登場人物たちと共に深層心理に潜っていくようです。

「夢」という題材と、アートをコンセプトにしているホテルという舞台によって幻想的な空間に包まれる本作。また東宝演劇部による制作協力によって実現した歌や芝居の要素が加わることで、より作品に入り込みやすく、気づけばあっという間に約90分が終わっていました。一度の観劇で全てのキャラクターを追うことはできず、だからこそ想像力を働かせ、自分なりの解釈をすることのできる『Anima』。そこには新たな演劇体験が待っています。

イマーシブシアター『Anima』は2023年12月9日(土)、10日(日)、16日(土)、17日(日)の4日間、BnA_WALLにて全16回上演。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。

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Yurika

演劇・ミュージカルを見慣れている私にとってダンスが中心のイマーシブシアターは解釈が難しいと感じることが多かったのですが、本作では藤岡義樹さん演じるマネージャーや、中村翼さん演じる学芸員、大塚瑞希さん演じるリネンの女などがセリフと共に物語を深めてくれるため、楽しく作品に没入していくことができました。