2024年3月に日生劇場で幕を開けるミュージカル『カム フロム アウェイ』。2017年にトニー賞7部門にノミネート、ミュージカル演出賞を受賞しました。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ発生時にカナダのニューファンドランド島にある小さな町ガンダーで起こった実話をもとに、人々の温かい交流を描いた100分間のノンストップミュージカルです。本作に出演する安蘭けいさん、咲妃みゆさんに作品の魅力と初共演に向けた思いを伺いました。
この仕事を続けさせていただくと、こんな素敵なことが起きるんだと思いました
−2013年に初演を迎え、2017年からブロードウェイで上演されたミュージカル『カム フロム アウェイ』。今回日本初上陸となりますが、作品をご覧になったことはありましたか?
安蘭「私は2018年にブロードウェイで観劇して、大変感動しました。100分間であっという間に終わっちゃって、凄いスピードで進んでいくことに圧倒されましたし、役者が椅子などのセットを動かしながら、複数の役柄を演じていくので、役者は大変だなと思いながら見ていましたね。まさか自分が演じることになるとは思いませんでした。題材も実在の話を、しかも重い題材になりそうな作品なのにコミカルさもあって、ああいったことに屈しないぞという意思を感じましたね」
咲妃「私は実際に拝見したことがないのですが、ブロードウェイで観劇した友人たちが口を揃えて、滞在中に観た数々のミュージカル作品の中で一番心に響いたということを話してくれました。そんな作品に携われるんだと思うと、とても嬉しいです」
−それぞれがメインで演じる役柄について教えてください。
安蘭「私はダイアンというテキサス州に住む保守的な女性を演じます。石川禅さん演じるニックと恋仲になる役柄で、禅さんとは何作品かご一緒している中で初めて恋仲の関係性を演じるので、とても楽しみです。題材がシビアな中でお客様がきゅんとできるような、ほっこりする瞬間を作り出す役割だと思いますので、その役割をしっかり果たしたいですね」
咲妃「お二人のデュエットがものすごく楽しみです。美声と美声が重なって、もうどうなるのか…」
安蘭「ハードル上げられてる(笑)。頑張ります」
咲妃「私が演じるジャニスは島の新人リポーターで、急遽、島に降り立つことになってしまった方たちをサポートする役どころです。日常が一変してしまう中で、奔走する新人リポーターの姿を、スピード感のある作品の中でどう届けられるか、模索したいと思います」
安蘭「でもぴったりだよね。みゆちゃんは出演者の中でも一番若いし、大御所なメンバーの中に囲まれてあわあわ奮闘している姿が想像できる」
咲妃「とはいえ私も32歳ですから、しっかりと食らいついていきたいと思います!こんな素晴らしい方々とご一緒する機会をいただけるなんて、大袈裟でなく、この仕事を続けさせていただくと、こんな素敵なことが起きるんだと思いました。ありがたいですし、たくさん勉強させていただきたいけど、ただぶら下がってばかりではいけないと思います」
安蘭「大丈夫、みんなみゆちゃんにすぐぶら下がってくるよ(笑)。既に楽曲のお稽古の時に私はみゆちゃんの歌声を聞きながら歌っているし」
咲妃「瞳子さん(安蘭さんの愛称)とは楽曲の中で同じ旋律を担当させていただくこともあるんですよね。私も瞳子さんのお声を聞きながらやっております…!」
−作品の音楽についてはいかがですか?
安蘭「難しいですね。出演者12人全員で歌う楽曲が多いので、パートも細かいですし、リズムも難しいです。みんなで1曲を創っていく難しさを感じているところです」
咲妃「楽曲の中でセリフを言う機会も多くて、セリフを決められた時間の中で言うのも大変です」
−作品の中で好きなシーンや楽曲があれば教えてください。
咲妃「乗客たちが旅立つ時に歌う「Somewhere in the Middle of Nowhere」はグッとくると思います。5日間、たくさんの経験をした乗客たちが飛び立っていく姿はきっと込み上げるものがあるのではと、楽しみです」
安蘭「乗客と島民はまた思いが違うだろうね。飛び立つ側は先を見ながら歌うだろうけれど、島民たちはそれまでの記憶を辿るような歌い方になるだろうなと思う。やっぱりどんなシチュエーションでも残される側は辛いだろうし、受け取る気持ちが違うだろうね。私は禅さん演じるニックと夕陽を見ながら2人で歌う「Stop the World」を大切に歌いたいと思います」
“可愛い妹たち”との共演が楽しみです
−お二人は初共演となりますが、お互いの印象は?
咲妃「私は宝塚歌劇団時代のご出演作品から一方的に拝見していて、本当に素敵な方だなと思っていました。特に『ビリー・エリオット』は大好きで、ツンツンした中にもちゃんと愛情を感じる演技が求められるウィルキンソン先生は難しいと思うんです。セリフだけじゃなく立ち姿からも過去に背負ってきたものや、自分が体験した辛い思いも全部伝わってくるから不思議で、そういったバックボーンまでちゃんとお客さんに伝えられる役者さんってなかなかいらっしゃらないので、印象に残っています」
安蘭「そうやって受け取っていただいて嬉しいです。私はみゆちゃんの出演作品って全然見られてなくって、でも評判はよく聞きます。『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』や『千と千尋の神隠し』とか、見たくても見られなかった作品に出ているから、再演がある時は絶対見に行きたいなと思っています」
−共演にあたって楽しみにされていることはありますか?
咲妃「瞳子さんが猫好きなことをSNSで知ってから勝手に親近感を持っています。お稽古場でそういうお話もしたいです。ご一緒することが決まる前から、瞳子さんのお人柄について、とても素敵な方だよと周囲の方々から伺っていました。何より、安蘭けいさんと遠野あすかさんのトップコンビのファンだったので…お二人のお話にきゅんきゅんしたりしていて。同じ劇団に在籍していた身でファンを名乗って良いのかなと思うんですけれど…でもファンです!」
安蘭「嬉しいな。私も共演は本当に楽しみです。やっぱり同じ宝塚歌劇団出身の方とは絆を感じることが多くて、稽古場での過ごし方や作品の作り方も劇団で教わったことが染み付いているんです。それはみゆちゃんも、ちえ(柚希礼音さんの愛称)もそうだと思う。以前、麻実れいさんが宝塚の後輩たちのことを“妹たち”と呼ばれていて、そのお言葉を借りると、“私の可愛い妹たち”との共演を楽しみにしています」
咲妃「嬉しいです…口角があがっちゃいます…!!」
傷つけるのも、希望を届けるのも、人が巻き起こしたこと
−日本初演にあたって、本作を日本で演じる意義をどのように捉えていますか?
安蘭「どんなに風化しないようにと思ってもその時の記憶というのは薄まっていくもので、そういう意味でもこの作品は生まれたのかなと思います。でも同時多発テロの衝撃的な映像ではなく、その裏にあった温かい人間の物語をミュージカルとして残すというのが、アメリカはああいった暴力に屈しないという気持ちがこもっていると感じます。私は事件当時既に仕事をしていた年齢でしたが、みゆちゃんはまだ子どもだったし、当時の自分たちの記憶はそれぞれ違いますよね。お客様の層によって見え方が変わってくるとも思うので、色々な世代の方に見ていただきたいです。当時をよく知らない若い方にも」
咲妃「人が人を傷つけ、人が人に希望を届ける。どちらも人が巻き起こしたことで、誰しも他人事ではない出来事というのが、大きなテーマなんじゃないかなと私は思っています。
作品の中で、飛行機には様々な人種の乗客がいらっしゃって、どういう人かわからないので最初はみんな外見だけで判断しそうになるんです。あの人危ないんじゃないかと噂したりとか、距離を取ろうとしたり。それは日常どこでもありえることですが、そこをひとつ乗り越えた事実が確かにある、というところを大切にしたいです。争いが絶えない世の中で、日本でもたくさんの国籍の方が出入りするようになっている今、はっと気づいていただけるようなことがあるのかなと、そこに期待をしたいなと思います」
−本作の一番の魅力を教えてください。
咲妃「100分間のノンストップミュージカルということで、キャスト・スタッフにとっても、ご覧になるお客様にとっても、きっと新しい経験が待ち受けていると思うんです。東京のみならず各地で上演させていただくことになっていますが、1公演たりとも同じ作品にならない気がしていて、そのときに生まれた空気やエネルギーを、そのままお客様にお届けできる、熱い時間になるんじゃないかなと思います。客席にお座りになっている皆さんもいち乗客で、いち島民でいらっしゃるお気持ちで、一緒にこの物語を体験していただけたらなと思います」
安蘭「私はこの12人のキャストですね。それぞれが一役じゃなく、いろんな役を演じて、100人弱の登場人物を演じるのかと思うと不安もあるのですが、それが完成した時、作中にもあるようにみんなで乾杯したくなるような達成感があると思います。それを我々が感じて、そのままそういった空気感をお客様にも届けられたらと思っています」
ミュージカル『カム フロム アウェイ』は2024年3月7日(木)から29日(金)まで日生劇場にて上演後、4月4日(木)から14日(日)まで大阪・SkyシアターMBS、4月19日(金)から21日(日)まで愛知・愛知県芸術劇場 大ホール、4月26日(金)から28日(日)まで福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホールにて上演が行われます。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
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