2024年5月、彩の国さいたま芸術劇場にて待望の【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】が始動。吉田鋼太郎さんの「50年近くシェイクスピア作品をやってきている中で1番好きな芝居で、どうしても自分でも納得がいくように演出したい」という強い思いを胸に、『ハムレット』が上演されます。本作の製作発表記者会見に、演出・上演台本を手がけ、ハムレットの叔父クローディアスも演じる吉田鋼太郎さんと、ハムレット役を務める柿澤勇人さん、オフィーリア役を務める北香那さんが登場しました。

「必要を論ずるな」。蜷川イズムを継承し、playを追求し続ける

蜷川幸雄さんのもとでシェイクスピアの全37戯曲を完全上演することを目指し、1998年に始まった彩の国シェイクスピア・シリーズ。完成間際、5作を残してこの世を去った蜷川さん亡き後は吉田鋼太郎さんが意思を引き継ぎ、2023年2月に『ジョン王』をもってシリーズを完結させました。

シリーズ完結後、彩の国さいたま芸術劇場にはシェイクスピア作品の上演継続、また吉田さんの演出を望む多くの声が寄せられたと言います。そして1年半の大規模改修工事を経てリニューアルオープン&開館30周年イヤーを迎える彩の国さいたま芸術劇場にて、2024年、吉田鋼太郎さんによる【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】が始動します。

本シリーズでは全戯曲の上演を目指すのではなく、吉田鋼太郎さんが選んだ、その時代に届けたい作品を上演していく予定とのこと。記念すべき第一作はシェイクスピア四大悲劇の1つで、日本でも数多くの上演がされてきた『ハムレット』。そして2025年には『マクベス』、2026年には『リア王』の上演が決定しています。

吉田鋼太郎さんは蜷川幸雄さんからシェイクスピア・シリーズを引き継いだことについて、「幸か不幸か…不幸なんです」と会場を笑わせながらも、「蜷川イズム、蜷川さんが彩の国シェイクスピア・シリーズでやってきたこと、その魂だけは受け継ぐ」という強い意思の元、上演してきたことを語ります。中でも最後の『ジョン王』は日本ではもちろん英国でも上演の少ない作品であり、戯曲としての完成度も高くないため、様々な演出要素を組み込んだのだそう。

その演出意図には、「蜷川さんの一つのポリシーとして、シェイクスピアは大衆演劇だからと。要するに学者たちが語るものではないし、自分たちだけが満足してシェイクスピアの世界に酔いしれるものではない。とにかく一般大衆の方々が、子どもからおじいちゃんまで、全ての人たちが喜んでくれるものにしなければいけない。そのために、ありとあらゆる凄まじい工夫努力をして作ってきた。その最たる例が『ジョン王』だった」と蜷川さんの教えがあったことを明かします。

そして大衆演劇を実現させるためには、西洋人ではなく、1600年代の人間でもない役者がシェイクスピア作品を演じるにあたり、「お客様との架け橋にならなきゃいけない」。そこで蜷川さんはよく、役者が最初に舞台の一番前まで出てきて並び、挨拶をしてから戯曲を始めることで、観客との繋がり・架け橋を作ってきたと言います。

それに倣い、『ジョン王』では「(上演された)シアターコクーンの渋谷の街から、紛れ込んできた現代の青年(小栗旬さん)が舞台に上がったら芝居が始まる、といういわゆる入れ子構造、枠を作ったんです。そうしたらある劇評で“シェイクスピアに枠は必要ない”と書かれた。未だに芝居に何が必要で、何が必要じゃないってことを言う人がいるわけです。でも芝居は“play”(遊び)で、何をやってもいいんです。それでお客様を楽しませられるかは勝負だけれど、賛否両論あっても好きにやる。蜷川さんから学んできたものは、絶対に崩すまい」と熱い想いを語りました。

そして『リア王』の「必要を論ずるな」という名台詞を引用し、「どんな小さなものにも、どんなに貧しいものにも、キラリと光る何かがある。シェイクスピアご自身がそうおっしゃっている。何が必要かは関係ない」とシェイクスピア作品に向き合う覚悟が語られました。

また『ハムレット』については、芝居に関わる人々から「演劇の最高峰」と称されることに触れ、製作発表に抽選で当選した一般オーディエンスの皆さんに「どんなストーリーかご存知ですか?」と直接質問。「一見すると、そんな大したストーリーには思えないんですよ。でもなぜ世界最高峰の戯曲だと言われるのか。それを探し続けていて、僕、分かっちゃったんです。でもそれを今は言いません、見ていただければ分かると思います」と吉田鋼太郎さん節で本作をアピールしました。

“お前、ハムレット見えたわこれ”

ハムレット役を演じる柿澤勇人さんは、二人芝居 舞台『スルース~探偵~』で吉田鋼太郎さんと共演。「2人で話しまくり、騙し合い、罵り合い、掴み合い、罵倒し合うような濃厚な芝居でした。大千穐楽が名古屋だったのですが、終演後にご挨拶に行ったら鋼太郎さんが、“お前、ハムレット見えたわこれ”とおっしゃったんです。僕はもう鮮明に覚えています」と本作出演の経緯を明かします。

そして「役者なら誰もがいつかは挑戦したい役」に挑める喜びを表しつつも、「僕の役者人生で後にも先にも1番の台詞量だと思いますし、自分の持っているものを全部さらけ出しても追いつかないんじゃないかという不安もあるんですけれど、鋼太郎さんを信じて何とか良い舞台にしたい」と真摯に語りました。

オフィーリア役を務める北香那さんは「私がオフィーリアを演じるということがまだずっと新鮮なまま嬉しくて、少し夢見心地なところがあるんです」と笑顔で本作出演の喜びを語ります。また「この作品をやっていく中で、“こんなお芝居する自分っていたんだ”という初めての出会いがあるような気がしていて、それが私は今すごくワクワクしているし、楽しみです」と意気込みました。

彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』は5月7日(火)から26日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて上演。その後、宮城・愛知・福岡・大阪公演が行われます。公式HPはこちら

撮影:山本春花
Yurika

「シェイクスピアはいまだに日本に浸透していない。浸透してほしいと思うけど、無理なのかもしれない。でもやり続けます。だってシェイクスピアは面白いからね」という吉田さんの言葉が印象的でした。