ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』のダーウィン・ヤング役が話題を呼び、Audience Award 2023 ネクスト俳優部門3位にランクインした渡邉蒼さん。2024年2月は音楽劇『不思議な国のエロス ~アリストパネス「女の平和」より~』に出演中。また、7月からは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でアルバス・ポッター役を演じます。今演劇界で最も熱い若手俳優の1人、渡邉蒼さんへの独占インタビューが実現しました!

「出来ない。でも出来るようになりたい」と正直に伝えます

−2018年、NHK大河ドラマ『西郷どん』で鈴木亮平さん演じる西郷隆盛の子供時代を演じたことで注目を集めた渡邉蒼さん。元々ミュージカル作品にも関心をお持ちだったのでしょうか?

「最初はマイケル・ジャクソンさんの映像を見たことをきっかけに、ダンスを始めたんです。そこから歌とダンスを学ぶようになって、歌やダンスでもっと表現力をつけるために始めたのが、お芝居でした。演技のレッスンを受けていたら、オーディションも受けてみないかと事務所の方に声をかけて頂いて。だから俳優の仕事は自分の未来の想像の中には全くないものでした。でもやり続けているうちに、あれお芝居楽しいぞ、と」

−『西郷どん』に続いて連続テレビ小説『なつぞら』出演と、活躍が続きましたよね。それから2020年には韓国留学もされていらっしゃいます。

「韓国では歌とダンス、韓国語を学びました。やはり今K-POPの熱が凄くて音楽の本場という印象があったので、ずっと行ってみたかったんです。なかなか行く機会もなかった中でチャンスを頂いたので、ぜひお願いしますと、留学に行かせていただきました」

−そして2022年にはミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』にバット役で出演されました。いきなり超話題作への出演でしたが、いかがでしたか?

「まずオーディションのお話が来た時、僕よりも父が驚いていましたね。“絶対受かれよ!”と言われて、原作がいかに人気かを実感しました。ミュージカルへの参加は初めてでしたが、演出の石丸さち子さんが何よりも人間の熱を求めてくださったので、自分という人間が全力で生きる機会を与えてもらっているような感覚でした。そういった経験ができたからこそ、次の『ダーウィン・ヤング 悪の起源』でもどう上手く歌うか、どう上手くお芝居するかより、しっかりと生きようという価値観を大切にできたと思います。そういった価値観を最初の作品でもらえたのは、本当に幸せでした」

−これまで歌やダンスはやられてきた中で、ミュージカルの表現はまた異なる点もあると思いますが、戸惑いはありませんでしたか?

「そうですね、最初は言葉を音として捉えているよ、と自分が意識していなかったご指摘を頂くことも多かったです。でもとにかく僕が気をつけていたのは、先輩方とお話しすること。“やったことがなくて、出来ないんです。でも出来るようになりたいです”というのを正直にお伝えするようにしていました。変に小さい頃から歌をやっているというプライドを持っていると、もらえるご指摘ももらえなくなるなと思ったんです」

−特にどんな先輩方からアドバイスを受けましたか。

「『フィスト・オブ・ノーススター 〜北斗の拳〜』では、小野田龍之介さんや川口竜也さんからたくさんのことを教えていただきました。音楽劇『不思議な国のエロス ~アリストパネス「女の平和」より~』(2月16日から新国立劇場小劇場で上演中)では、高橋ひろしさんと内海啓貴さんに、“お前真面目だろ。でも真面目って面白いんだぞ”と言って頂いたんです。自分が真面目で型破りな演技が出来ないことに悩んでいた時に言われたので、真面目をどうにか変えるのではなく、真面目に振り切ってみようと思えるようになりました。毎回の現場で、素晴らしい先輩方に素敵な言葉を頂いて、成長できるなんて超幸せですよね」

初めてのミュージカル主演、通し稽古でぶつかった壁

−Audience Award 2023 ネクスト俳優部門では、ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』のダーウィン・ヤング役について読者の方々から「ダーウィンヤングでの心の葛藤を上手く演じていた」「主演として、歌、ダンス、演技が、既に高レベルな上、これからの進化への期待も感じる」など多くの声が寄せられました。

「ランクインしたことをご連絡頂いて最初に感じたのが、ちゃんと皆さんにお礼を言わないとな、ということでした。投票してくださった方はもちろん、カンパニーの皆さんにも。僕は舞台に上がった時にとても自然体でいられたんです。ダーウィンとしてというより、父親役の矢崎広さんに普段からたくさんご相談をさせて頂いていて、大好きな方だったので、矢崎さんに“自分は殺人犯だったんだ”と言われたら僕は壊れるだろうなと。祖父であるラナー・ヤング役の石川禅さんも、親友であるレオ・マーシャル役の内海啓貴さんも稽古場から可愛がって頂いて大好きだったので、本当に素直な気持ちで演じさせて頂いていました。心の葛藤を表現する歌もセリフもあって、舞台セットや照明もあって、本当に僕はそこに身を置いただけ。そういう環境を作って頂いたことにものすごく感謝しています」

−ミュージカル初主演ということにはプレッシャーはなかったですか?

「クリエで主演というオーディションのお話が来たこと自体、まずよく分からなかったですね。僕がやってもお客さんは入らないよ?って(笑)。でも素晴らしい先輩方に囲まれて、たくさんの方が観にきてくれて嬉しかったです。印象に残っているのは、初めての通し稽古。初めてシーン毎ではなく、彼の人生を通して生きてみたので、全ての情報が初めて知るような感覚になって、感情が入り過ぎてしまったんです。あと2曲くらい歌わなきゃいけなかったのに喉が完全に閉まってしまって、高音が出なくなってしまって。お芝居で届けなければいけないのに自分が泣くことに満足しているということが、もう死ぬほど悔しくて、稽古後も小学生みたいに泣きじゃくっちゃったんです。主演が最後のナンバーを歌えないなんてありえないと思って」

−そこから立ち直れた理由は何だったのでしょう。

「石川禅さんが20分くらいずっとハグしてくださっていたんです。それで、“お前は何で泣いているんだ”って聞かれて、“悔しいからです”と答えたら、“なんだお前、自分が上手いと思ってたのか”と。それは下手だと言っているわけではなく、“自分がもっと出来ると思っているから上手く出来なかった時に悔しいと思うんだよ。若いんだから、下手なりにやってみますという姿勢でやってみれば良いだろう”と言ってくださいました。その時、この言葉は自分の性格的にもたぶん一生付き合っていくテーマなんだろうなと感じて。それからは下手だからこそ、上手な先輩方をよく見てみよう、先輩方の言葉を聞いてみよう、下手でも迷わずぶつけてみよう、とやれるようになって、そうしたら全力で通し稽古をしても感情の整理が自然とついていくようになりました」

演じるキャラクターと“出来ないこと”を共有する

−現在出演中の音楽劇『不思議な国のエロス ~アリストパネス「女の平和」より~』についても教えてください。

「アリストパネスは実際に戦争の時代を生きていた方だからこそ、それぞれのキャラクターが生き生きと描かれているんです。戦争に向かう男たちの血生臭さ、戦争こそ男の生きがいだと本気で思っている思考や、男たちを待っている女性たちの感情がものすごく文面に現れています。それを寺山修司さんがさらにユニークに、各キャラクターを個性豊かに描いています」

−渡邉さんの演じるアイアスはどのような役柄ですか?

「アイアスはアテネの偉い武将の息子なのに、戦争が嫌いなんです。仕事も出来ないへっぽこで、ただ恋人のクローエを愛している。戦地から逃げ出したり、当時の時代からするととんでもないキャラクターですが、今この作品を観劇するお客様には、1番共感していただきやすいキャラクターだと思います。クローエと会えない時間に思いを吐露する場面があるのですが、お客様が“何で会えないんだろうね、一緒に考えてあげようか”と思ってもらえるような、令和の男の子っぽさも残しながら、たくさんの方に愛してもらえるキャラクターになったら良いですね」

−どんな役柄も自然体で演じられる渡邉さんですが、役作りはどのようにされていますか。

「キャラクターのバックボーンを書き出してみる、いわゆる役作りのノートを作ったりするんですけれど、舞台の上に立つと、“渡邉蒼だね”と言っていただくことが多くて。演じるにあたって、無理をしない、そのままでやってみようというのが今の僕のやり方かもしれません。俳優として自分とは全くかけ離れた役柄を演じられるようにならなきゃいけないという思いもあるのですが、今は自分のまま臨んでいますね」

−演じるキャラクターへの共感度が高いのかなと感じました。

「そうですね、演じるキャラクターと、“出来ないこと”を共有するということはやっているかもしれません。“出来ること”は、どうしても共有できないことがあるじゃないですか。例えば僕はアイアスのように“戦地に行くこと”は出来ないし、“ギリシャに住むこと”も出来ない。でも、“自分の感情を言葉にすること抑えられない”とか、“誰かの言葉が理解できない”とか、そういった“出来ないこと”はキャラクターと共有できる気がするんです。そういったキャラクターの弱みのような部分を出来るだけ僕自身が共感して、みんなに愛される形に昇華していく、ということは考えるようにしています」

撮影:山本春花

−7月からは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でアルバス・ポッター役を演じられるなど、益々活躍されていく渡邉さん。今後どのような俳優になっていきたいと思っていらっしゃいますか?

「演技も歌もダンスも、僕より上手い人はたくさんいて、自分は全然ダメだなと思うことも多いです。でも演技や歌やダンスがあったからこそ、生きてこられたというものでもあるんですよね。自分にとってのエンターテイメントがそうであるように、いつかは誰かにとって自分もそうならなきゃいけないと思っています。凄く辛いことがあっても、この人の舞台・映画があるなら行ってみるか、と信頼を置いてもらえるような俳優になりたい。舞台は特に、間違いなく同じ空間に生きて、同じ空気を共有できますよね。だから、劇場に来てもらえる俳優になりたいです。もし辛いことがあるなら、その顔を僕ら役者に見せてほしい。そうしたら絶対に元気にする、という自信を持てるように、芝居を磨いていきたい。演劇が人を救うことが出来るということを、今よりももっと証明できる俳優になっていきたいです」

音楽劇『不思議な国のエロス ~アリストパネス「女の平和」より~』の公演情報はこちら。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の公演情報はこちら

Yurika

Audienceでは「生きてて、よかった。そう思える瞬間が、演劇にはある」という言葉を掲げていますが、役者として舞台に立つ渡邉さんからも「もし辛いことがあるなら、その顔を僕ら役者に見せてほしい。そうしたら絶対に元気にする」というお言葉が出たことにとても感動しました。渡邉さん演じるアルバス・ポッターも楽しみです。