安藤ゆきさんによる累計140万部の人気作『町田くんの世界』がミュージカルに。ミュージカル初主演となる少年忍者の川﨑皇輝さんが、不器用ながら人を愛し、周囲から愛される「町田くん」を演じます。開幕に先立ち、フォトコールと囲み取材、公開ゲネプロが行われました。

あなたがくれた一言が、灰色の世界を晴らすかもしれないんだ

劇場の中央には、階段やドアといった日常を彩るアイテムが積み木のように組み立てられた大きなセット。淡い色合いが作品の優しい世界観を視覚的に伝えてくれます。役者たちがセットをゆっくり回すと、セットに組み込まれたガラスがキラキラと輝き、彼らの愛おしい青春の煌めきのよう。その温かな空間と、バイオリンの音色が印象的な音楽に、ほろりと涙が込み上げてきます。

舞台袖には音楽を担当した和田俊輔さんを始めとするバンドがおり、美しく温かな音色を生演奏。カンパニーがぎゅっとシアタークリエの舞台上に揃い、一体感を持って物語を紡いでいきます。

「あなたがくれた一言が、灰色の世界を晴らすかもしれないんだ」。温かな希望に満ちたオープニングナンバーで幕を開けると、町田くんが多くの人々から愛され、また彼も周囲の人々を愛していることと、「料理は目玉焼きしか作れない」「炊飯器の目盛りは難しい。白米を炊こうとするとお粥ができてしまう」という独特で不器用なキャラクターが描かれます。

誰にでもまっすぐに向き合い、手を差し伸べ、印象的な言葉を投げかける町田くんは、クラスに馴染もうとしない孤独な猪原さんの心も溶かしていきます。川﨑皇輝さんは、人に対する温かな愛情を持ちながらも不器用さもある町田くんを好演。

川﨑さんの持つ目の輝きと、身に纏う穏やかさが町田くんの魅力を創り上げ、数々の優しいセリフを猪原さん、各キャラクター、そして客席にまでまっすぐと届けてくれます。「ありがとう。君がいてくれて本当に良かった」。その言葉にグッと惹きつけられた猪原さんには、誰もが共感するのではないでしょうか。町田くんは時にど直球に疑問を投げかけてしまったり、勘が鈍かったりするところも、愛おしく感じてしまうから不思議です。そして長澤樹さんは、力強くもどこか儚げな猪原さんを印象的に演じていきます。

町田くんを取り巻く各キャラクターも愛らしく描かれており、思わずくすりと笑えてしまうシーンも多々。クラスメイトだけでなく、家族や大人たちをも優しく包んでいく町田くんによって、世界は色鮮やかに変化していきます。そして町田くん自身も、愛する周囲の人々を見て、言葉を聞いて考え、成長していくのです。

せわしない世の中を生きる我々を優しさで包み込んでくれる

囲み取材には、川﨑皇輝さん、長澤樹さん、湖月わたるさん、吉野圭吾さんと、演出のウォーリー木下さんが登壇しました。

町田くんの魅力について、「相手の目をまっすぐ見て、自分が伝えたいことをはっきり伝えられるコミュニケーション能力の高さ」だと語った川﨑さん。「目を見てはっきり伝えると相手もしっかりと受け取らなきゃいけないなっていう気持ちにもなるんだろうなと思いますし、町田は言いたい言葉を言っているだけなんですけど、みんなが欲しい言葉をちゃんと言っている。そして周りのみんなが町田に対して伝えたいことを、本当に疑わずに、全てをまっすぐ受け取る、人を愛する力がある」ことを実際に演じてみて体感されたそう。

長澤さんは出演が決まる前から原作のファンだったそうですが、「音楽が素晴らしくて、自分の背中を押してくれるような曲で溢れているので、ミュージカルとしての『町田くんの世界』ってこういうものなんだなという新しい発見がありました」とミュージカルならではの魅力を語ります。

町田くんのお母さんを演じる湖月わたるさんは、「普段から(川﨑)皇輝くんの周りには笑顔が溢れていて、町田くんそのもの」と稽古場から感じられていたのだとか。フォトコールでオープニングナンバーを披露した際は、「始まった瞬間に、動いていくセットを見上げている皇輝くんのメガネの下から見えるキラキラなまっすぐな瞳に感動しちゃって。今から彼の眼差しに映る世界をみんなで表現していくんだなと思って、とても楽しみになりました」と裏話を語ります。

このシーンは舞台上にいるもののまだ町田くんとしての登場はしていないため、川﨑さんは「まだ町田が入っていなくて、楽しみだなと思っている川﨑皇輝8割なんです」と明かし、「舞台は始まっているのに、僕の反省点です」と謙遜。しかし「町田くんでしかなかったよ」と湖月さんが言うと、「そう言っていただけると1つ自信になります」と笑顔を覗かせました。

吉野圭吾さんからは、稽古当初にウォーリー木下さんから『町田くんの世界』の原作漫画を手渡され、適当に開いたページを演じるワークショップが行われたというエピソードが明かされました。吉野さんは「これが“町田くんの世界”か…(笑)」と慄きつつ、どんな表現をしても良いというクリエイティブなワークショップに想像力を膨らませながら楽しまれたそう。和田さんに即興で音楽を演奏してもらう箇所を必ず1つ入れるという指定もあり、「今回はセットや音楽も含めてチームワークが大切な作品なので、チームワークの第一歩になった素敵な時間だった」と川﨑さんも振り返りました。

撮影:山本春花

「せわしない世の中を生きる我々を優しさで包み込んでくれる、すごく心が温まる作品」という川﨑さんの言葉通り、今の世の中だからこそ美しさを放つ作品。演出のウォーリー木下さんは「こういうものも世の中にあっていいんじゃないかなと思って創りましたので、ぜひ新しい体験をしていただだけたら」と思いを込めました。

ミュージカル『町田くんの世界』は3月29日(金)からシアタークリエにて開幕。公式HPはこちら

Yurika

素敵な言葉の数々を飾らずに言える町田くん。こんな人がすぐそばにいてくれたら、と思ってしまうとっても魅力的なキャラクターで、作品を通して出会えたことに幸福を感じました。町田くんの兄弟たちの表現方法もとっても可愛らしく、本作の魅力となっています。