初演の配信を見て感銘を受けた舞台『千と千尋の神隠し』。これまで生の観劇は残念ながら叶いませんでしたが、今年ようやく見ることができ、その完成度の高さに胸が熱くなりました。今回の観劇レポートと合わせて、ゲネプロ写真を踏まえた公演レポートも、ぜひご覧ください。

千尋の成長を生の舞台で追体験

湯婆婆と契約し、千”となって油屋で働く千尋。
他の従業員に異物扱いされ、仕事の腕が悪いと馬鹿にされながらも懸命に働く彼女の姿は、大人から見ても勇気づけられるものがあります。

上白石萌音さんの千尋は、表情や動き、セリフの抑揚の抑え方まで千尋そのもの。
本当に10歳の少女が舞台の上にいるかのようです。
ハクのおにぎりを食べて号泣する名シーンでは、それまで千でいようと必死に頑張っていた緊張が解け、千尋に戻っていく様子が明瞭に伝わります。

千尋を支え、彼女に心を動かされる周りのキャラクター達も再現度が高く驚かされました。
増子敦貴さんのハクは神秘的な佇まいが美しく、指の先までしなやかな動きは必見です。
宝塚時代の可愛らしい印象が強かった華優希さんも、姉後肌のリンそのもの。
千尋を見つめる眼差しは、次第に温もりが増していきます。

2幕終盤は春風ひとみさん演じる銭婆の温かさに涙したのですが、強欲で恐ろしい湯婆婆と一人二役であることを思い出し、その見事な演じ分けに感動しました。

やっと会えた!トビー・オリエ作のパペットたち

八百万の神様たちをはじめとするファンタジックなキャラクターたちは、主にパペットとして登場し、俳優たちが操ることで命が宿ります。

パペットをデザインしたのが、世界的なパペットデザイナーのトビー・オリエさん。トビーさんが作り出したパペットに生で会えることも、観劇の楽しみの1つでした。(トビー・オリエさんについてはこちらの記事でも紹介しています。)

舞台『千と千尋の神隠し』では、パペットも重要な登場人物です。
大きなハク竜から小さなススワタリまで、アニメーションから飛び出してきたかのようなリアルさがあり惹きつけられます。

特にボイラー室の場面は釜爺の腕のパペット、ススワタリのパペット1体1体の動きにも生が感じられて、目が忙しく見ごたえがありました。

ロンドン公演への意気込みを感じられるブラッシュアップ

舞台『千と千尋の神隠し』が上演されるのは、今回が3度目。
筆者は配信でしか見たことがありませんが、初演時よりも人数が安定したことで舞台の進展が滑らかになったように感じられます。

また、場面の背景として表現されていたダンスと歌が際立つようになりました。
初演時に印象的だった千尋を銭婆の家まで案内するカンテラランプのダンスシーンに、今回スポットが当てられていたのが個人的に嬉しかったです。
1本足のカンテラを軽やかなバレエで演じる姿は、人力によって表現される美しさが引き立ちます。

台詞も増え、4月から始まるロンドン・ウエストエンド公演に備えたブラッシュアップがされていると感じました。
カーテンコールではハク竜のパペットが登場するようになり、幕が降りてからも夢のような光景が広がります。

さきこ

第96回アカデミー賞受賞式においてスタジオジブリの最新作『君たちはどう生きるか』が長編アニメ映画賞を受賞した3月11日に、舞台『千と千尋の神隠し』が開幕。 嬉しい出来事が重なって改めてジブリ作品の凄さを感じ、本作のロンドン公演でさらに世界的にジブリファンが増えると確信しました!