舞台上で演技をするのは、人間だけではありません。『ロボット・イン・ザ・ガーデン』や『千と千尋の神隠し Spirited Away』のように、近頃の演劇・ミュージカル作品ではパペットが役者のようにユニークな演技を披露しています。パペットが登場する作品でよく目にする名前が、トビー・オリエ。
演劇・ミュージカルファンの間では「トビーさんのパペットはまるで生きているようだ」と好評ですが、トビーさんとは一体どのような人物なのでしょうか?彼の経歴と、彼が生み出してきたパペットたちの魅力を探りました。
パペットといえばトビー・オリエ
トビー・オリエさんは、ロンドンを拠点に活動するディレクター、デザイナー、パペティア(人形遣い)です。彼はイギリスの人形学校で人形劇を学び、在学中にロンドンのナショナル・シアター・オブ・グレイト・ブリテンで初演された舞台『ウォー・ホース〜戦火の馬〜』に出演。馬のジョーイを操るパペティアの1人として活躍し、演出補佐も務めました。
2014年には「Gyre & Gimble」という人形劇のパペットを制作する会社を設立し、パペットを中心とした舞台作品の演出とパペットデザインを手掛けています。演劇・ミュージカル・バレエ界では「パペットといえばトビー・オリエ」と認知されているほど、パペットが登場する舞台には欠かせない人物です。
役者の一員であるユニークなパペットたち
トビーさんのパペットが日本でも親しまれるようになったのは、劇団四季の『リトルマーメイド』が始まりなのではないでしょうか。名曲『アンダー・ザ・シー』で登場する海中生物のパペットは、すべてトビーさんがデザインしたもの。細かい関節や鱗の光具合まで、リアルに再現されています。海の魔女・アースラのタコの触手もトビーさんが手掛けました。演技・歌唱役1名とパペティア6名の計7名で演じるアースラは、トビーさんが演技指導の際に足の1本1本に性格をつけて豊かな感情を表したそうです。
同じ劇団四季の作品で愛されているパペットのキャラクターといえば、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』のタング。身の回りのもので作られたというロボットのタングは、瞳がカメラのレンズでできていたり、口はビデオデッキの挿入口だったり、トビーさんのアイデアが炸裂しています。タングの演出では、人間と同じように首や目を動かして喜怒哀楽を表現する愛らしさが追究されました。
2022年4月から大阪で公演が始まる舞台『千と千尋の神隠し Spirited Away』も、トビーさんがパペットデザインとディレクションを担当。カオナシ、蛙、ススワタリといった非現実的なキャラクターをパペットで表現し、映画の世界さながらの存在感が話題を呼んでいます。そのなかでも釜爺は6本の手で感情を表しますが、こちらもアースラと同様に複数の役者が手のパペットを動かすことでアニメのキャラクター像をリアルに再現しました。
トビーさんは、2022年4月30日に開幕する劇団四季の最新ミュージカル『バケモノの子』でもパペットデザインとディレクションに携わっています。『バケモノの子』は、トビーさんと劇団四季との協業の3作品目。劇団四季の公式Twitterでは迫力のあるバケモノたちのパペットの一部が公開されており、期待が膨らみます。
トビーさんが手掛けるユニークなパペットは、今後も日本の演劇・ミュージカル界で欠かせない存在となるでしょう。