アガリスクエンターテイメントの冨坂友さんが脚本・演出を務め、鈴木保奈美さんがコメディ初主演となる舞台『逃奔政走 -嘘つきは政治家のはじまり?-』。2人の出会いから7年、鈴木保奈美さんのラブコールがついに実現した作品です。本作に出演する相島一之さんに、本作の前日譚となった生ドラや冨坂さんの印象、また演劇についての想いまでたっぷりとお話を伺いました。

緻密なチームワークで創られた『生ドラ!東京は24時 -Starting Over-』

−2024年3月にフジテレビで放送された『生ドラ!東京は24時 -Starting Over-』では、本作の前日譚となるエピソードが描かれましたね。
「生ドラは、元々はフジテレビのバラエティーとドラマのチームが、部署の垣根を取っ払って面白いことができないかと企画したことが始まりです。2022年12月に放送された『生ドラ!東京は24時 -シンガロング!-』では鈴木保奈美さんと藤原丈一郎さん(なにわ男子)が主演、冨坂友さんが監督・脚本を手がけられました。そのタッグが再び実現したのが、『生ドラ!東京は24時 -Starting Over-』となっています」

−どのような経緯で舞台に繋がったのでしょうか?
「実は舞台が先に決まっていて、後から生ドラが決まりました。だから、舞台の壮大な宣伝だったんです。あのドラマを観て気になって舞台を観にきてくれる人が少しでもいてくれたら嬉しいですし、やった甲斐がありますね」

−生のドラマとは思えない緻密な作品でしたよね。裏側は大変だったのではないでしょうか。
「ワンカメで生ドラマということだったので、カメラマンや技術の方々と息を合わせないといけません。カメラが少し動くと何かが見切れるとか、芝居が見えなくなるとか、細かいミーティングをしながらリハーサルを重ねる必要がありました。ただ出演者の皆さんお忙しいので、全部のリハーサルに全員で出席できないことも多くて、そういう時はアガリスクエンターテイメントの劇団員たちが代役を務めながら調整をしていきました。だから本当にチームプレーでしたね」

−鈴木保奈美さんのセリフ量も圧巻でした。
「作品にかける意気込みが本当に凄い方だと思います。今回の舞台に出演するまでも、保奈美さんは7年の時間をかけられています。映像のトップランナーで、スターとして走り続けられてきた中で、演劇は舞台に立つためのトレーニングをしないと出来ないとご存知だった。だから演劇に対する準備期間を作られたんだと思うんです。その中でアガリスクエンターテイメントの冨坂さんとお知り合いになって、一緒に努力をされてきたのだと思うので、もう同じチームとして関係性が出来上がっているのだと思います」

相島一之から見た冨坂作品の魅力

−冨坂さんの舞台作品に相島さんが出演するのは初めてですね。冨坂さんの印象はいかがでしょうか。
「冨坂さんはコロナ禍に『12人の優しい日本人』をリモートで配信した際に演出をお願いし、生ドラでもお世話になりましたが、舞台は初めてです。冨坂さんは笑いの技術をたくさん持っていらっしゃるので、それを一つ一つ拾っていきたいですね。スピード感を大事にしているのも魅力なんだろうと思います。あとは、アガリスクエンターテイメントが劇団公演をやるのと、保奈美さん主演・三越劇場でやるのとでは観に来るお客さんに若干違いがあると思うので、どう伝えていくのか、そこは僕らの役目なんだろうなと思っています」

−冨坂友さんは“ポスト・三谷幸喜”とも言われていますが、相島さんから見ていかがでしょうか。
「そうなって欲しいですね。でも三谷は相当でかい山だからなぁ(笑)。冨坂さんは本当に技術も才能もある人で、そして若さがある。だからこれからどんどん進化していくんだろうなと思います。それが何より楽しみです。面白いコメディを作って欲しい」

−共演の佐藤B作さんとは、舞台共演は約30年ぶりになるそうですね。
「ご一緒できるのは本当に感激です。僕らが東京サンシャインボーイズとしてまだまだ無名の頃、『ショウ・マスト・ゴー・オン』の再演に出たいと言って出演してくれました。宇沢萬という座長俳優の役で、舞台袖で喋るシーンが多いのですが、そこは録音を流しても成立するのに“俺はやる”と仰って毎公演演じてくださって、かっこよかったですね。劇団が休団した時は、個人的にどの事務所に行くべきかの相談にも乗っていただきました。B作さんご自身のお話を色々としてくださった後に、“大きい事務所だろうが、小さい事務所だろうが関係ない。面白い役者は必ず出てくる”と言われて。その言葉を胸にずっとやってきました。劇団にとっても僕にとっても、かけがえのない先輩です」

−寺西拓人さんの印象はいかがですか?
「根性があって、ちゃんとしている人。絶大な信頼を置いています。『マイ・フェア・レディ』で共に困難を乗り越えた仲間なので、人としても俳優としても信頼していますね」

役者が命をかけたくなる台詞とは

−相島さんが俳優として、この脚本は面白いと感じるのはどのような瞬間でしょうか。
「台本で何度も棒線を引きたくなるような、良いセリフだなと感動できる時というのはあるんですよね。一度読んだだけでは分からなくて、やっていくうちに見事だなと思う決め台詞みたいなものがあったりするんです。

例えば『ショウ・マスト・ゴー・オン』では、八代平次という俳優が作品を降板させられて、客席から作品を観ていたんですけれど、舞台上にいる座長に注射をしなきゃいけないことになって呼ばれるんですよね。それでいざ出ようとした時に結局出番がなくなって、やっぱりお前は出なくて良いと言われてしまう。その時、シェイクスピアの『マクベス』を演じていた座長が“天は我を見放した”と言うんです。B作さんはこの台詞に命をかけていたと仰っていました。影で言う台詞なので姿は見えないんですよ。でもそれに命をかけていた。そういう台詞を、役者は発見していくんだと思います」

−様々な舞台作品に出演されてこられた相島さんですが、コメディ作品ならではの難しさはありますか?
「僕は東京03さんと舞台でご一緒したことがあるのですが、東京03さんのコントはもう格闘技に近いというか、笑ってもらわないと駄目なんですよね。だから笑いを取りに行くわけですけれど、コメディの演劇というのは笑かしに行こうとすると難しかったりする。井上ひさしさんの作品はコメディという様式を借りて大事なメッセージを伝えようとしているし、でも三谷は中身のない、2時間笑って、終わったら何も残らないような演劇をやりたいと言っている時期もありました。一概にどうとは言えないですけれど、やっぱり目の前にいるお客さんに笑って帰っていただきたい、という思いはいつもありますね」

−本作をどのような方に観にきてもらいたいでしょうか。
「いつも思うのは、演劇の裾野が少しでも広がっていってほしいということ。これをきっかけにお芝居って面白いな、また劇場に行ってみたいなと思う人を一人でも増やすということが、一番大事なことだと思っています。井上ひさしさんの作品の台詞の中にも、“どんな晩でも少なくとも一人、生まれて初めて芝居というものを観て、そのために人生に対して新しい考えを持つようになる人が、劇場のどこかに座っている”という言葉がありますが、いつもそれは思っています。初めて観た人がまた観たいと思えるようなものを、僕らは提供できるのか。僕らはそれをやり続けないといけないと思います」

ヘアメイク:国府田雅子(バレル)、スタイリスト:中川原有(CaNN)、撮影:鈴木文彦

舞台『逃奔政走 -嘘つきは政治家のはじまり?-』は7月5日(金)から16日(火)まで三越劇場、7月20日(土)から21日(日)まで京都劇場にて上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

役者が命をかけようと思えるセリフが、きっと本作にも生まれるはずです。1つ1つのセリフに改めて注目して観劇したいですね。