チャールズ・チャップリン。名前を聞けば誰もが、ちょび髭にシルクハット姿の男性を想像するのではないでしょうか。無声映画での活躍が印象的ですが、俳優だけでなく映画監督、脚本家、プロデューサー、作曲家もこなす多彩な才能の持ち主です。そんな彼の人生はドラマチックで波瀾万丈。今回はチャップリンの知られざる一面を、彼が遺した言葉と共に紐解いていきます。

人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇。

1889年イギリス。ミュージック・ホールで寄席芸人をしていた両親のもとに生まれたチャップリンは、3歳の時に父親と別居。母親や幼い兄弟と貧しい地区で暮らすことになりました。苦しい生活が続くなか、ついに母親は心を病んで入院。チャップリンは6歳にして施設に入ります。

「私にとって貧困とは、魅力的なものでも、自らを啓発してくれるものでもない」

「貧しさを魅力的なものに見せようとする態度は不愉快だ」

これは彼の自伝の一節です。決して幼い頃の苦労を美談にはしていません。

ミュージック・ホールで舞台俳優や芸人として活動し、19歳で名門のフレッド・カーノー劇団と契約、1914年には映画デビューと、成功への道を着実に真面目に歩んだ彼ですが、それでも過去の生活を懐かしんで笑うことはありませんでした。

このような言葉も綴っています。

「人は圧倒されるような失意と苦悩のどん底に突き落とされたときには、絶望するか、さもなければ、哲学かユーモアに訴える」

もちろんチャップリンの壮絶な幼少期を軽はずみに“素敵な人生”とは呼べません。しかし、彼の創作活動には、貧困の経験でさえもユーモアのエッセンスとして活かされているのかもしれません。

また、初期の監督作品『キッド』では冒頭で「笑いと、おそらくは一粒の涙の物語」という字幕が出ます。この作品は喜劇と悲劇を混ぜた長編映画で、製作を始めた当初は周りから反対の声が上がっていたそうです。

しかし結果は大成功。多くの人を笑わせ、そして泣かせました。チャップリンは今の時代では当たり前の「笑いあり、涙あり」を初めて生み出したのです。

その後の作品でも、彼はコミカルなシーンにあえて悲しさを感じるような美しい曲を合わせるのを好みました。笑いに悲しみが内包されているような不思議な世界観で、今でも人々の心を掴み続けています。

「人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇。」

チャップリンが亡くなったときに新聞の追悼記事の中で引用された言葉です。まさに彼の作品のあり方そのものであり、彼の人生そのものとも言えます。

死と同じように避けられないものがある。それは生きることだ。

チャップリン晩年の傑作映画とも言われたのが『ライムライト』です。

舞台は1914年のロンドン。落ちぶれたかつての人気芸人・カルヴェロが、人生を悲観するバレリーナ・テリーの自殺を止め、運命の歯車が回り始めます。

舞台人の儚い宿命と、残酷なまでに美しい愛の物語をノスタルジックに描いたこの映画作品。アカデミー作品賞を受賞した名曲「テリーのテーマ」(“エターナリー”)も印象的です。

もちろん本作もチャップリンが監督・脚本・製作・作曲を担当しており、作中では数々の彼らしいセリフが紡がれています。

「死と同じように避けられないものがある。それは生きることだ。」

「人生に必要なのは、勇気と、想像力と、そして、少しのお金。」

このような言葉もチャップリンの生い立ちを知ったうえで向き合うと、少し見え方が変わってくるのではないでしょうか。

そしてなんと今年8月、この『ライムライト』を原作とした音楽劇が2度目の再演中です。主演は初演と再演に引き続き石丸幹二さん。ヒロイン役には朝月希和さんを迎え、そのほか実力派の俳優陣が脇を固めます。(こちらの記事も併せてお読みください)

東京公演は当日券のご案内も出ているので、気になった方はぜひ劇場へ足を運んでみてくださいね。

音楽劇『ライムライト』は2024年8月3日(土)〜8月18日(日)東京 日比谷シアタークリエにて上演中。そして8月23日(金)〜8月25日(日)大阪 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、8月31日(土)〜9月1日(日)大分 別府国際コンベンションセンター(B-Con Plaza)にて公演予定です。公式サイトはこちら

かとうまゆ

有名になりお金を手にした後も、数々の苦労を重ねてきたチャップリン。 例えばナチスを批判した映画『独裁者』は、当時絶好調だったヒトラーの支持者から多くの反感を買っています。それでも平和を望んで作品を生み続ける姿勢、ありきたりな感想にはなりますが、とてもかっこいいと感じました。チャップリンのこと、もっと知りたい!