ミュージカルでは、ひとつの曲を別のシーンでも使うことがよくあります。この「リプライズ」という手法は、さまざまな作品で取り入れられているんです。一体なぜ同じ曲を繰り返すのか、リプライズの役割や効果について解説します。

ミュージカルにおける「リプライズ」の意味

そもそもリプライズとは、「反復」や「繰り返し」を意味する言葉です。音楽用語としては、曲の中で同じフレーズやテーマを繰り返したり、曲自体を別バージョンにアレンジしたりすることを指します。後者なら、アーティストのアルバムに原曲とリプライズ版が収録されているのをイメージすると、わかりやすいのではないでしょうか。

ミュージカルにおけるリプライズも、楽曲を反復するという点では同じ。しかし、特定の曲をそのまま何度も流すわけではありません。むしろ元の曲とリプライズでは、歌詞や曲調、歌い手など、さまざまな違いがあります。そのため、ベースとなるメロディこそ同じでも全体の印象は変わるところが、ミュージカルにおけるリプライズの大きな特徴です。

ミュージカル作品にとって大切な「リプライズ」

では、リプライズはミュージカルでどのような役割を果たしているのでしょうか。

ひとつは、音楽によって、1人の登場人物を象徴すること。リプライズで同じメロディを繰り返せば、観客に登場人物のテーマ曲として印象付けられます。また、歌詞や曲調、テンポを変えることで、心の細やかな動きも伝わってくるでしょう。

例えばミュージカル『エリザベート』では、エリザベートの「私だけに」をリプライズし、「自分の人生を生きたい」という彼女の願いがより強くなる様子を表しています。また、『オペラ座の怪人』のメインテーマ「オペラ座の怪人」を聞けば、あのマスクの怪人を思い浮かべる方が多いはず。実際に、作中では怪人が出てくるシーンはもちろん、その存在をほのめかすシーンでもこのメロディが流れます。リプライズが、登場人物に対するイメージを作るカギとなっているんですね。

2つ目に、人間関係や状況の変化を表現する役割が挙げられます。先述の『エリザベート』で、結婚前のエリザベートとフランツが歌う「あなたが側にいれば」。終盤、「夜のボート」というデュエット曲でも、同じメロディが使われています。しかし、初々しい恋人同士から一転して、晩年の2人はすれ違いばかり。変わってしまった関係性への悲しみが、リプライズによって強調されています。

3つ目の役割が、作品と観客をつなぐこと。リプライズに使用されるのは、作品の表題曲やメインテーマが多いです。何度もメロディが繰り返されるうちに、自然と歌詞も観客の耳に残り、物語を通じて伝えたいことや登場人物の心情への理解が深まるでしょう。また、リプライズは、ストーリーで重要なシーンや転換点、クライマックスでもよく登場します。ここぞという場面でリプライズが観客をぐっと引き込み、舞台との一体感を高めてくれます。

「リプライズ」に込められたメッセージを読み解いて

とはいえ、「同じ曲ばかりだと観客も飽きてしまうのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、ミュージカルのリプライズでは、ハーモニーやテンポなど楽曲の構成を変えたり、歌詞を書き換えたりします。

また、ダンスの振り付けや照明といった演出面もリプライズに合わせて変化。さらに、別の役者が歌ったり人数が増えたりすることもあります。そのため、最初のバージョンとはまた違った曲のように、新鮮に感じられるでしょう。

そして何より、「どの曲がどのシーンでリプライズされているのか」を考えると、単なる繰り返しではないことに気付くはず。

大ヒットミュージカル『レ・ミゼラブル』は、リプライズを多用している作品としても知られています。その一例が、エポニーヌが歌う「オン・マイ・オウン」。自らの恋を歌ったメロディは、コゼットの母・ファンテーヌと主人公・バルジャンが亡くなる場面での楽曲にも使われています。このリプライズによって、それぞれ別のシーンでありながら、好きな相手や子どもへの“愛情”というテーマが共通しているとわかるんです。

皆さんもミュージカルのリプライズに注目して、音楽に込められたメッセージを読み解いてみてくださいね。

もこ

リプライズには、登場人物にもっと共感したり、物語の展開にどきどきしたりとミュージカルの面白さが増す効果ばかり。筆者も、今まで何となく「同じメロディかな?」と感じていたミュージカルの曲について見直したくなりました!