9月29日まで帝国劇場で上演中のミュージカル『モーツァルト!』。同役3シーズン目となる古川雄大さんと、本作に初登場かつ帝劇初主演となる京本大我さんが、タイトルロールであるヴォルフガング・モーツァルト役を演じています。

2人を通して見えてくる“人間モーツァルト”の姿

ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)、ミュージカルファンには言わずと知れたゴールデンコンビによる大ヒットミュージカル『モーツァルト!』。“人間モーツァルト”35年の生涯に迫った本作は、Wキャストで生まれる役へのアプローチの違いを、強く感じられる作品とも言えるかもしれません。

古川雄大さんは2018年に初めてヴォルフガング・モーツァルト役を演じ、今回で3度目。2度目に演じた際に自身としては技術的に余裕も出てきたものの、“初演の方が良かったよ”と言われ「ヴォルフガングという役は、何か足りないものを目指して追い求めている姿」が必要だと感じたと言います。

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そのため3度目の挑戦となる今回は音楽的な挑戦を多く取り入れており、1つ1つの楽曲、1音に向き合う真剣さ、緊張感が客席にも伝わってきます。一方で、現在37歳となる古川さんは、35歳で亡くなったヴォルフガングの最期の姿を思わせる成熟さを感じます。

ヴォルフガングの才能に固執し、支配しようとするコロレド大司教との対決では、相手の侮辱には応じないという、尊厳を守ろうとする強さがあり、妻となるコンスタンツェに対しては、自分を理解してくれたパートナーへの愛情深さがひしひしと伝わります。

声に哀しみが感じられる古川さんの歌声も、ヴォルフガングとしての特徴の1つ。心の底にある孤独が伝わってくるようで、父との死別後は特に、自分には音楽しかないとのめり込んでいく姿が印象的に残ります。

京本大我さん演じるヴォルフガングは対照的に、子どものような無邪気さがステージいっぱいに溢れています。コロレド大司教に対しても、あっかんべーをしてしまいそうな、ヤンチャに立ち向かっているイメージ。何にも捉われない自由な姿が、コンスタンツェも惹かれた理由なのだろうなと思わされます。

「僕こそミュージック」と堂々と言えてしまえる自信と音楽に対する絶対的な愛情。“才能の化身・アマデ”とも、自分の相棒のような、対等に接しているような姿が印象的でした。

そして2人のヴォルフガング像の違いが特に印象に残ったのは、最後にコンスタンツェが立ち去るシーン。古川さん演じるヴォルフガングはチラチラとコンスタンツェを見やり、気にしていながらも声をかけられなかったのに対して、京本さん演じるヴォルフガングは作曲に取り憑かれており、気づいた時にはコンスタンツェが立ち去ってしまった…というシーンになっていたのです。

2人が作品を通して生き抜いたヴォルフガングが最後に辿る悲劇にも、異なる印象を持つ。Wキャストとしての面白さをこんなにも感じる作品だったのだなと改めて実感したシーンでした。

ミュージカル『モーツァルト!』は9月29日まで帝国劇場で上演され、その後、大阪公演、福岡公演と11月30日まで続きます。長い公演期間の中でも、ヴォルフガングの姿はより深みを増し、変化し続けることでしょう。

Yurika

年齢や俳優としての技術、人間性など、様々なことが役柄に反映されるものなのだなと感じます。