紀伊國屋ホール開場60周年記念公演のラストを飾る『見知らぬ女の手紙』。4度目の再演となる今回は、篠原涼子さん、首藤康之さんを迎えての上演が決定しました。今回は、この作品の魅力について語りたいと思います。
シュテファン・ツヴァイクが描く究極のラブストーリーが再び舞台へ
オーストリア・ウィーン出身の作家、シュテファン・ツヴァイクさんが書いた短編小説『見知らぬ女の手紙』を舞台化したこの作品。原作は、『アモク集 情熱小説』と名付けられた短編集に収められています。
アモクとは、フィリピン・マライ地方などで見られる風土病の一種で、この病にかかると一種の精神錯乱に陥り、時には狂暴な行為に走るといいわれています。そんな病の名前がついたこの短編小説集には、いずれも激しい情念の虜となり、一途な行動を重ねて、悲劇的な運命をたどる主人公たちが描かれています。その短編集の中の一つである今作品も、一人の男に一方的な想いを寄せる女性が破滅しゆく姿が描かれています。
一方通行の恋慕を描いた作品を、2008年に行定勲さんによる演出で日本初演されました。その後2度の再演を重ね、今回4度目の再演ではキャストを一新して上演することとなりました。
行定勲×篠原涼子×首藤康之 異色の初タッグ!
今回、翻案・演出を務めるのは、2008年の初演からこの作品に携わる行定勲さん。映画制作からキャリアをスタートされた行定さん。2001年公開の『GO』で数々の賞を受賞すると、『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』『パレード』と多くのヒット作を世に送り出し、数々の賞を受賞されてきました。
2007年からは舞台の演出も手掛けられ、この『見知らぬ女の手紙』は4度目の演出です。今回、出演する篠原さんと首藤さんについては、一度は仕事をしてみたいと思われていたそうで、「お二人がこれまでに積み重ねられた経験と表現力がぶつかり合って、どんなものが生まれるのか、このお二人とどういう風にこの官能的な作品を具現化していくのか私自身楽しみです」とコメントしています。
また、行定さん自身が長年追及されている“究極のラブストーリー”を、この舞台の中で作りたいとも語られており、初めてタッグを組むお二人とどんな作品を、どんなラブストーリーを作り上げられていくのか期待が高まります。
女を演じるのは篠原涼子さん。昨年の朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』以来の舞台出演です。舞台はさほど経験がないと話す篠原さん。なかなか舞台出演に踏み出せなかったときもあったそうですが、「いろいろな作品を観劇させていただく中で、自分だったらどういう風にやるかな?とか、素晴らしい方々の芝居を観ていくうちに自分もあそこに立ちたいという気持ちが芽生えて、もっと舞台をやっておけばよかった!と思ったので、このお話をいただいた時には即答で、「やらせてください!」とお答えしていました」とコメントしており、この舞台を通して新たな一面を観客に見せてくれるのではないかと感じさせてくれます。
著名な男を演じるのは首藤康之さん。首藤さんはバレエダンサーとして15歳の時に東京バレエ団に入団。『眠れる森の美女』で主役デビューをして以降、数々のバレエ作品で主演を務められました。2004年に退団後は、国内外の振付家やカンパニーと舞踏活動に加え、俳優としても多数の舞台に出演されるなど多岐に渡り活躍されています。
今回の作品では、著名な男を踊りを通じて演じることになる首藤さん。「僕の役割は、篠原さんが読むピアニストである“男”宛の手紙を聞きながら、彼女の苦悩や切実な思いを身体で表現できればいいなと思っています。あくまでもそれは彼女の感情であって、手紙を受け取った相手である僕=“男”自身の感情ではないので、それをどう表現するのか、行定さんや篠原さんと稽古で作っていくのが今から楽しみです」と語っており、首藤さんが培ってきたものでどのようが“男”像ができるのか楽しみです。
『見知らぬ女の手紙』は、2024年12月25日(水)〜28日(土)まで東京・紀伊國屋ホールで上演されます。2024年最後の観劇にいかがでしょうか。公式HPはこちら
行定さんの追い求めている“究極のラブストーリー”というのはどんなものなのか。この記事を書きながらそのことばかり考えてしまいました。4日間という短い期間しか上演されないこの作品を、自分の目で見て“究極のラブストーリー”を確かめることができたらなぁと思っています。