誰もが一度は耳にしたことがあるであろう言葉「奈落」。でも実は詳しく知らない方も多いと思います。今回は、奈落の語源や奈落を用いた舞台作品をご紹介していきます。
そもそも奈落って何?
奈落の語源は、古代インドの言語であるサンスクリット語〈naraka〉の音写だと言われています。音写とは「ある言語の語音を、他の言語の文字を用いて書き写すこと」で、お経では音写が数多く使用されています。また、仏教で奈落は、「地獄」や「一度落ちたら二度と浮かび上がることのできない場所」を指すそうです。
さらに、独立行政法人日本芸術文化振興会が運営するサイト「文化デジタルライブラリー」によると、舞台用語としての奈落は舞台や花道の地下を指します。主に、演出のための機材の操作や、舞台装置の昇降、出演者の移動などに使用されます。ホールによってはミュージシャンが演奏するオーケストラピットも兼ねる装置を奈落と呼称する例もあるようです。
こうした空間が奈落と呼ばれるようになった理由は諸説あります。一般的には暗くて深い場所に位置するからとされていますが、他にも、華やかな演劇舞台の陰に嫉妬や怨念が潜んでおり、この場所では霊的な現象などを含め、事故など様々な事象が起こることがあるからとも言われているそうですよ。
奈落のある有名劇場をご紹介!
「奈落のある劇場」と聞いて私が真っ先に思い浮かべたのは、福岡県飯塚市にある芝居小屋「嘉穂劇場」。1931年に開館された建物は登録有形文化財(2006年)で、近代化産業遺産(2007年)にも認定されています。
ただ、嘉穂劇場は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で経営が困難となり、2021年に運営母体が解散し、飯塚市に譲渡されました。さらに建物の老朽化のため、現在は休館中で、飯塚市が設置した委員会が、施設の改修や今後の運営方針について検討を進めています。
時代の変遷を数多く目撃してきた歴史ある嘉穂劇場では長年、「奈落見学」が名物となっていました。特に、江戸時代から残る、人力で操作する直径16メートルの回り舞台やセリなどの舞台機構が大人気で、地元ニュースでもよく目にしたものです。「嘉穂劇場」と検索するとたくさんの写真がヒットするので、ぜひ見てみてください。「こんなに大きな仕掛けを江戸時代に作ったのか…!」ときっと驚くはずです!
奈落を活かした舞台作品
奈落を用いた舞台と言えば、有名な名作舞台があります。そう、堂本光一さん主演『Endless SHOCK』シリーズです。『Endless SHOCK』シリーズは2000年に公演が開始されて以降、2024年のラストイヤーまで、前人未到の2018回という上演記録を重ねてきた、帝国劇場の名物作品です。(関連記事:堂本光一が25年、命懸けで挑み続ける『Endless SHOCK』ラストイヤー開幕へ。開幕記念会見・ゲネプロリポート)
本作では大奈落やフライングなど帝国劇場の機構を活かし、壮大なスケールで物語が展開していきます。
他にも、奈落に関連する作品として『オペラ座の怪人』が挙げられます。パリ・オペラ座を舞台に、コーラスガールのクリスティーヌ・ダーエ、彼女に恋心を抱くラウル・シャニュイ子爵、そしてクリスティーヌを愛する「オペラ座の怪人」を描く名作です。劇団四季の公演を観たことがある方もいることと思います。
『オペラ座の怪人』では、劇場を混乱させるために怪人がシャンデリアを落とす場面が有名ですが、この後、怪人はクリスティーヌをさらって奈落から地下の隠れ家へ脱出します。劇場をテーマにした作品ならではの演出ですよね。映画版もありますので、気になる方は一度観てみてくださいね。