わたしたちにとって身近な韓国では、ミュージカルが文化として根づき、日常的な娯楽として楽しまれていることを知っていますか?韓国と言えばK-POPや韓流ドラマを思い浮かべる方が多いと思いますが、舞台の世界も活気にあふれているんです!そこで今回は、そんなエンタメ大国・韓国発の注目作品、ミュージカル『ワイルド・グレイ』の魅力をご紹介していきたいと思います。

時代の波を読んでエンタメ大国へと急成長

まず簡単に、韓国におけるエンタメ文化の歴史を見ていきましょう。

国際社会文化学者でタレントのカン・ハンナさんは、今日まで続く韓国コンテンツ史の起点は1990年代だと話します。当時は、世界中で「グローバルコンテンツ」(ここでは自国以外で制作された映画や音楽を指します)が注目され始めた時期だったそうです。

この流れを読んだ韓国の大手製糖会社「CJグループ」は、1995年、アメリカの映画会社「ドリームワークス」に3億ドルを出資しました。それ以前のエンタメ業界はどの国も国内産業で、韓国も例外ではありませんでしたが、この出資によって韓国のエンタメ業界が海外に目を向けることになります。

そのままグローバルコンテンツへの注目度は世界的に高まっていきましたが、当時のアジア市場における需要に応えられる質のコンテンツと言えば、日本のドラマや香港映画に限定されていたのだとか。しかし、日本のコンテンツは二次利用料が高く、ライセンス関係の取り扱いが厳しいという壁がありました。

そこで韓国のエンタメ業界が動きます。コンテンツをパッケージ化し、コンテンツ需要が高まっていた中華圏への輸出を開始したのです。1993年に『嫉妬』、1997年には『愛が何だって』という韓国ドラマが中国で大ヒットを記録したことをきっかけに、韓国はエンタメ大国として芽吹くことになりました。

その後、2018年に、K-POP男性グループ「BTS(防弾少年団)」が、韓国アーティストとして初めてアメリカの「ビルボード200(アルバムヒットチャート)」で1位を獲得。2020年には映画『パラサイト』がアカデミー作品賞を受賞するなど、韓国エンタメは世界的に高く評価される地位を築いています。

また、韓国ではミュージカルが文化として根付いています。若者が賑わう街・テハンノ(大学路)では小劇場が100以上あり、創作ミュージカルも多数上演されています。近年では、『愛の不時着』や『マリー・キュリー』『ファンレター』など、韓国ミュージカルの日本上演も増えているんです。では、そんな韓国発の注目作品、ミュージカル『ワイルド・グレイ』とは、どんな作品なのでしょうか?

男たちの芸術と愛を描く衝撃作

ミュージカル『ワイルド・グレイ』は、2021年に韓国で開幕し、新型コロナウイルス感染症の只中でありながらヒットを記録した作品です。韓国では2023年に早く再演が実現し、これまでに多くの観客を魅了し続けてきました。

この作品では、アイルランド出身の詩人・作家・劇作家であるオスカー・ワイルドが執筆した、唯一の長編小説『ドリアン・グレイの肖像』を軸に、男たちの芸術と愛が描かれています。あらすじは次の通りです。

<あらすじ>
慣習と規範に縛られた19世紀末、ロンドン。
文学界の異端児オスカー・ワイルドは小説「ドリアン・グレイの肖像」を連載するが、美と若さのために魂を売り渡す青年ドリアン・グレイの物語は、時代に合わない破格的なテーマと内容で英国社会に衝撃を与える。議論と批判は収まらず、結局主人公のドリアンが死を迎えるという望まない結末で小説を出版する。そんなワイルドを支え続けるのは、友人であり支持者であるロバート・ロスだった。二人が望んでいた自由が芸術の中でさえ挫折したその時、ドリアン・グレイにそっくりな青年アルフレッド・ダグラスが現れる。

舞台上には3人の俳優だけ。流れるのは、ピアノ、チェロ、バイオリンの美しい旋律。しかし意外にも、このミュージカルは「韓国発の衝撃作」と呼ばれています。観た人しか得られない心震える体験に、期待が高まりますね。

異才と個性豊かなキャストが織りなす世界観

ミュージカル『ワイルド・グレイ』の演出を手掛けるのは、異才・根本宗子さん。演劇界最高の栄誉である「岸田國士戯曲賞」の最終候補に4回選出された彼女は、演出家16年目を迎える今、オリジナルのミュージカルに挑戦することを決断したそうです。また、翻訳と演出は日本版ということで、異才のフルパワーを感じられる舞台になること間違いなしです!

そして最後に、大事なキャストの方々をご紹介します。今回はチーム固定のダブルキャストとなっていて、福士誠治さん(ロバート・ロス役)、立石俊樹さん(オスカー・ワイルド役)、後藤大さん(アルフレッド・ダグラス役)/平間壮一さん(ロバート・ロス役)、廣瀬友祐さん(オスカー・ワイルド役)、福山康平さん(アルフレッド・ダグラス役)が出演されます。

とあるインタビューで福士さんは、演者が3人なのは「過酷」だと表現されています。そんな過酷さをベースに、異才と個性豊かなキャスト陣は「創作と孤独」の物語をどのように織りなすのでしょうか。

ミュージカル『ワイルド・グレイ』は、2025年1月8日(水)から26日(日)まで、新国立劇場 小劇場で上演される予定です。また、2月8日(土)はウインクあいち 大ホール、2025年2月14日(金)から16日(日)は森ノ宮ピロティホール、2月22日(土)は高崎芸術劇場 スタジオシアターでの公演が予定されています。詳しい情報は、公式ホームページをご確認ください。

さよ

今回初めて韓国エンタメについて詳しく調べたのですが、変遷も含めて興味深く、もっと知りたくなりました。また、インタビューで福士さんが、ご自身の演じるロバート・ロスにかけて「常に支えられる男になっていきたい」と仰っていたのがチャーミングで、「この方のシリアスな演技を拝見してみたいな」と感じました。