日本には、古事記や日本書紀をはじめ、太古の昔のことを今に伝えるものが数多く残っています。その中から、とある木簡に注目し、新たな舞台作品を作り上げたユニークな劇団があります。その名は「カムカムミニキーナ」。今回は、カムカムミニキーナの第74回公演『鶴人(つるじん)』をご紹介します。
「演劇らしからぬ壮大さ」×「演劇ならではの演出」
1990年、早稲田大学演劇サークル「演劇倶楽部」のメンバーだった松村武さんら5名によって、カムカムミニキーナは旗揚げされました。映像作品でも活躍する八嶋智人さんや山崎樹範さんといった個性的な役者が揃う劇団でもあります。
旗揚げ当時は小劇場で活動していましたが、1993年『越前牛乳』『大江戸コブラ』がメディアに取り上げられて人気劇団への階段を駆け上がります。次第に動員数を増やし、1997年『鈴木の大地』では、1日1話完結、1ヶ月全24話の大河ドラマを上演し、2000年大晦日には年越し6時間バージョンで上演という新たな試みに挑戦しました。
その後、2003年に4都市ツアー、2005年には5都市ツアーを実施。結成から30年以上経った現在でも、本公演と企画公演、小劇場での実験公演など、年に2~3本をコンスタントに上演しています。
そんなカムカムミニキーナの特徴は、何といっても「壮大なストーリー」と「ダイナミックな演出」。日本の歴史や古事記・日本書紀を題材に、ハイテンションかつテンポのよい笑いで観客を独自の世界観へ巻き込みます。また、演劇ならではの表現にこだわり、狭い劇場空間を縦横無尽に使った演出も魅力です。
では、今回上演される『鶴人』はどんな作品なのでしょうか?
史実から生まれるありえない大河ドラマ
『鶴人』の公式サイトには、何やら不思議な文章が掲載されています。
寧楽のみやこの裏話
女帝が玉座にあり続けた煌びやかな時代
その秘密こそ千年長寿の鶴の血にある
鶴と男に翻弄されて 女らの一念岩をも通す
行き着く先は大仏開眼 明日を見据えて昨日を知る
今日は何処に これぞ鶴人千里眼
どうやら、奈良時代に屋敷の庭で鶴を飼っていたと言われている長屋王がモチーフのよう。これは遺跡から出土した木簡に書かれていた史実だそうです。このように史実の細部から大きく想像を広げ、ありえない大河ドラマを紡ぐというスタイルも、カムカムミニキーナの特徴的な側面といえます。
この鶴の正体は、髪の長い美女。大王に見初められて皇太子を生み、やがてその子は即位します。しかし、大王の母が鶴だったために、多くの人々が権力闘争の犠牲となります。その状況に大王は悩み苦しみ、祈りと懺悔を込めて巨大な仏像「ダイブツル」建立を決意するー。そんな内容となっています。
カムカムミニキーナでしか実現できない唯一無二の世界観を、ぜひ劇場で楽しんでみませんか?
独自の世界観を彩る23名のキャスト
作・演出は、これまでの全作品を手掛けてきた主宰の松村さんが担当されます。松村さんは、青山円形劇場で上演された『叔母との旅』(2010年)で新たな演劇的表現を開拓し、読売演劇大賞の優秀作品賞に選ばれる等、4部門にノミネートされた実績もお持ちです。
さらに、劇団EXILEの『レッドクリフ-愛-』の脚本(2011年)、NEWSの小山慶一郎さん主演『グレートネイチャー』の作・演出(2015年)、高橋留美子さん原作『犬夜叉』脚本(2017年)、乃木坂46の3期生による『見殺し姫』の作・演出(2018年)など、活動の幅は多岐にわたっています。
キャスト陣の皆さんも要チェックです。劇団員である八嶋智人さんや山崎樹範さんに加え、映画『火花』(2017年)、『今夜、ロマンス劇場で』(2018年)などに出演された久保田武人さんらも名を連ねます。
出演者(敬称略)
赤名萌 秋山遊楽 荒谷清水 えびねひさよ 久保田武人
曽田昇吾 髙木友葉 千代田信一 夏目れみ 蜂谷眞未 茂手木桜子
梶野春菜 亀岡孝洋 スガ・オロペサ・チヅル 田原靖子 長谷部洋子
福久聡吾 藤田記子 松村武 八嶋智人 柳瀬めいみ 山崎樹範
私が特に注目しているのは、客演のえびねひさよさん。劇団1980や新宿梁山泊を中心に活動し、Bunkamura30周年記念で上演されたシアターコクーン・オンレパートリー 唐版『風の又三郎』(2019年)などにも出演されています。彼女の凜とした雰囲気と舞台に映える声が、『鶴人』の独自の世界観を彩ることがとても楽しみです。
舞台『鶴人』は、2024年12月5日(木)から15日(日)まで、東京の座・高円寺1で上演されます。また、12月21日(土)・22日(日)には、大阪の近鉄アート館でもツアー公演がおこなわれます。さらに、『鶴人』をより楽しむためのビフォアトークイベントを、全ステージの開演45分前から開演30分前の約15分間で実施します。詳しい情報は公式サイトをご覧ください。
ドラマ『ラジエーションハウス』でファンになった八嶋智人さんが在籍されているとのことで、個人的に注目しているカムカムミニキーナ。普段は歴史をモチーフにした作品に対してハードルを感じているのですが、演劇らしからぬ壮大さと演劇らしい演出を掛け合わせた舞台に、すっかり好奇心を刺激されました。