亡くなった親友を生き返らせようと、天才科学者が生み出したのは怪物だった―。200年ほど前に書かれたゴシック小説を大胆な解釈でアレンジし、華麗な音楽で彩るミュージカル『フランケンシュタイン』が、2025年4月、東京・東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で上演されます。初演から出演を続ける中川晃教さんと加藤和樹さん、新キャストの小林亮太さんと島太星さんらが製作発表に臨み、舞台に懸ける意気込みを語りました。
「初演の時からずっとこの中に怪物はいた」
原作はイギリス女性作家メアリー・シェリーが1818年に発表した同名小説。韓国発ミュージカルとして2014年に初演されました。日本版『フランケンシュタイン』は2017年初演、20年に再演され、いずれも熱狂的な支持を集めてきました。今回は5年ぶり3度目の上演。音楽=ブランドン・リーさん、脚本/歌詞=ワン・ヨンボムさん、潤色/演出=板垣恭一さん、訳詞:森 雪之丞さんが手掛けます。
メインキャストが1幕と2幕で違う人物を演じる「1人2役」が、この作品の特徴の一つ。正邪で割り切れない人間世界の奥深さを象徴します。天才科学者ビクター・フランケンシュタインと、ギャンブル闘技場を営むジャックの2役を演じるのは、初演から続投の中川晃教さん。そして今回新たに出演するのは、舞台『鬼滅の刃』に主演した小林亮太さんです。
非業の最期を遂げるビクターの親友アンリ・デュプレと、ビクターによって生み出された怪物を演じるのは、初演から続投の加藤和樹さん。また新キャストとして、ミュージカル『GIRLFRIEND』主演の島太星さんが挑みます。
作品は19世紀の欧州が舞台。科学者ビクター・フランケンシュタインは戦場で医師アンリ・デュプレを救い、2人は親友同士となります。命を生み出す神になろうと、生命創造に執念を燃やすビクターに心打たれたアンリは、研究を手伝いますが、殺人事件に巻き込まれたビクターの代わりに死刑となり、命を失います。ビクターはアンリをよみがえらせようとして、怪物を生み出します。しかし、その怪物はアンリの記憶を失っており、自らの醜い姿に絶望し、ビクターに復讐を誓い…。
製作発表では、まず約80秒のプロモーションビデオが映し出されました。鮮烈な音楽に乗って、赤と青が印象的なビジュアルが現れ、キャストらが次々紹介されました。
会場のムードが高まったところへ、新キャストコンビの小林亮太さんと島太星さんが現れ、劇中歌【ただ一つの未来】を歌唱。フレッシュなハーモニーを響かせました。
続けて加藤和樹さんが情感豊かに【俺は怪物】を歌いあげた後、最後に中川晃教さんが壮大な世界観へ一気に引き込む熱唱で【偉大な生命創造の歴史が始まる】を披露しました。
興奮冷めやらぬ中、中川さん、小林さん、加藤さん、島さん、それに演出家の板垣恭一さんが登壇しました。日本版の再再演にあたり、「新しい『フランケンシュタイン』を生み出せたら」とあいさつした板垣さんは、オリジナル版の著作権者の許可を得た上で、「ビクターとアンリがなぜ惹かれ合い、アンリは身を捧げてまで…という流れについて、ちょっと台本を書き足しています」と明かしました。生命創造に執着するビクターの心理描写をきめ細かく出すため、演出の一部の変更する考えも示しました。
中川さんは、2020年再演のコロナ禍を経たこの4年の間に、新たに芽生えた思いについて語りました。想像力や実感、作品から与えられる翼のようなものを自由に羽ばたかせて届けていく。そんな役作りのイメージに、「地中に根を張る」感覚が加わったそうです。本作では、「ビクターは、なぜ死んだ人間をよみがえらせるという発想をしたのか。そこに悲哀を込められたらいいなと思っています」。
同じく初演から出演している加藤さんは、「自分の中でずっと大切に思ってきた作品。再再演というよりは新作をやる気持ちで挑もうと思います。初演の時からずっとこの(体の)中にアンリと怪物はいた。ようやく彼らが外に出られる瞬間を一緒に喜びたい」と、静かな口調で語りました。
一方、新キャストの2人は、初々しさいっぱい。小林さんは、「ようやくスタートラインに立たせていただいた感じ。先輩方に喰らいついていけるよう、全身全霊で取り組んでいきたいです」とあいさつ。出演のオファーを受けた時は、マネジャーに「間違いじゃないですか!?」と聞いたほど、半信半疑だったそうです。渡された楽譜は、稽古などがないときも、毎日かばんに入れていて「表紙がもうボロボロです」と明かし、意気込みを示しました。
島さんは、「出演のお話をいただいた時は、何かもう、驚きが強すぎて震えてしまいました」。当時を思い出したのか、少し震えた声で、「不安を抱きながらここへ来て、ああ、これで本番までいけそうだ(と思って)すごく鼓動が鳴り響いています」と続けて、会場の笑いを誘いました。「本当に生きるか死ぬかでチャレンジさせていただいてよろしいでしょうか」。その問いかけに対して、隣の加藤さんはすかさず「生きていてもらわないと困るんだけど」と突っ込み。島さんは「ハイ、もう精いっぱい頑張ります!」と元気よく答えていました。
「お気に入りのせりふやフレーズは?」という質問に対する答えは、キャスト4人の個性が光りました。
島さんは劇中歌【ただ一つの未来】の歌詞「生かすための科学」を挙げました。ガザやウクライナにおける戦禍や過去の戦争を念頭に、「人を生かすための科学という気持ちを、みんなが持っていれば、世界は平和だったのかもしれない」と語りました。
小林さんが挙げたのは、二幕に出てくるせりふ「お前ら人間こそが怪物だ」。「これこそが物語の核なのかなと思っています。現代でも自分が正義を貫いているつもりでも、相手側からみれば恐ろしい考えかもしれない。そういう現代とリンクするところが好きですね」。
「暗闇の中に小さな小さな光たちが各シーンに散りばめられている」と語る加藤さんは、アンリがビクターに向かって言うせりふ「笑ってよ」を選びました。「物語への思い入れが強すぎて、この一言だけで泣きそうになります」と絞り出すように話しました。
中川さんの好きな歌詞は、「俺はフランケンシュタイン」。意外にも初演、再演のときは抵抗があったそうです。「言い切っている。パワーワードだなと今さらながらに思いますね。すべてを背負っている言葉で、すごく好きですね」。
キャスト4人の魅力や期待について尋ねられた板垣さんは、中川さんを「青白い炎」とする一方、小林さんを「赤い炎」と評しました。会見でほのぼのとしたコメントを連発する島さんについては、「ハマると人格が一変する。ぼくはそれを信用しているし、今回はより飛び出してほしい」と期待。島さんは歌唱指導の先生からも「憑依系」と名づけられたそうです。加藤さんについては「(加藤さんご自身が)秘めている熱い思いを、役柄にブレンドできたら」と意欲を語りました。
最後に、それぞれの見せ場や見どころについて答えてくれました。中川さんの注目ポイントは、男同士の友情シーン。加藤さん演じるアンリの胸にもたれかかるシーンでは、謝罪や懇願などのいろいろな感情が渦巻いて「バーンとぶつかるけど、(加藤)和樹さんは体幹が素晴らしくて」とユーモラスに語りました。
加藤さんは、怪物を演じる時の細やかな動きを見てほしいとのこと。「生み出されたものは何なんだと思わせたい。人の形をしてはいるけれど、それとは違う何かが生まれたと身体で表現するところを見てほしい」。特に足の角度は必見ということです。
小林さんは「芝居としても歌としても今まで挑戦したことがない域にいかないといけない。芝居と歌の融合という壁をしっかりと超えていきたい」と、難役に挑む覚悟をにじませました。
島さんは「お互いの思想をぶつけ合う大好きなナンバーです」と、会見の冒頭で披露した【ただ一つの未来】を挙げつつも、「全ナンバーに集中してほしいですね」と笑顔で語りました。
ミュージカル『フランケンシュタイン』は2025年4月10日(木)から東京・東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演。その後、愛知、茨城、兵庫で公演。公式HPはこちら
歌の中にドラマがある。冒頭の歌唱披露で心をつかまれました。笑いの中にも、登壇した皆さんの並々ならぬ覚悟が垣間見えた会見でした。