「普通の隣でいい」。望海風斗らが家族の崩壊と再生を描くミュージカル『next to normal』ゲネプロリポート

12月6日(金)よりシアタークリエにて開幕するミュージカル『next to normal』。望海風斗さん、甲斐翔真さん、渡辺大輔さん、小向なるさん、吉高志音さん、中河内雅貴さんが出演し、日本独自の演出・デザインでの再演が行われます。開幕を前に行われたゲネプロの様子をお届けします。

家族が向き合う「喪失」、闇の向こうにあるものとは

音楽：トム・キット、脚本・歌詞：ブライアン・ヨーキーのコンビによるミュージカル『next to normal』。双極性障害を患った女性と家族の物語をロックミュージックと共に描いた作品で、2009年にトニー賞11部門ノミネート、主演女優賞・楽曲賞・編曲賞の3部門を受賞、2010年には「ミュージカルの題材の幅を広げた」としてピューリッツァー賞(戯曲部門)を受賞しました。

日本では2013 年にシアタークリエにて初演を迎え、2022年には演出：上田一豪さんのもと、日本独自の演出・デザインで上演が行われました。2024年も2022年の上演スタイルを引き継ぎ、望海風斗さん、甲斐翔真さん、渡辺大輔さん、小向なるさん、吉高志音さん、中河内雅貴さんが出演します。

母ダイアナ、夫ダン、息子ゲイブ、娘ナタリーの4人の家族と、ナタリーのクラスメートのヘンリー、主治医ドクター・マッデンの6人で展開するミュージカルとなっています。

普通に見える4人家族の朝の風景。しかしダイアナは徐々に興奮状態に陥り、夫のダンが優しく宥めます。ダイアナは長年、双極性障害を患っていたのです。繰り返される「綱渡りのような毎日」に不安を覚えるダン。

そんな家庭にうんざりしたナタリーは、学校の練習室でピアノに打ち込み、現実を忘れようとします。ナタリーの元に突如として現れたクラスメイトのヘンリー。彼のアプローチにナタリーは少しずつ心を溶かされ、家庭の悩みを打ち明けるようになります。

症状が悪化するダイアナのため、ダンは評判の良いドクター・マッデンに主治医を替え、催眠療法など新たな治療を進めていきますが…。

2022年の上演に引き続き、過去に大きな喪失を経験し、双極性障害を患うという難役に挑む望海風斗さん。ジェットコースターのような感情の波を全身で表現しながらも、妻として、母として、1人の女性として等身大な姿が共感を呼ぶはずです。鬱や精神疾患の経験はなくとも、ダイアナの「闇に堕ちていく」感覚は理解できる人が多いのではないでしょうか。『ムーラン・ルージュ！ザ・ミュージカル』などで共演してきた甲斐翔真さんとは阿吽の呼吸で、母と息子の独特の絆を描いていきます。

ミュージカル界での躍進が続く甲斐翔真さんは、時に愛らしく、時に恐怖を感じさせるような謎めいた息子ゲイブを好演。ダイナミックにセットを動き回り、「I’m Alive」などロックナンバーを力強く歌い上げます。

渡辺大輔さんはダイアナに寄り添い続けるダンを愛情一杯に表現。どんなにダイアナが取り乱しても支え続ける懐の深さの中に、終わりのない闘いへの疲労や不安、葛藤も見え隠れします。ダンは、衣装の変化にハッとさせられる登場人物でもあります。

ナタリーを演じるのは、ミュージカル『この世界の片隅に』ではすずの妹すみ役を務めた小向なるさん。すず役の昆夏美さんも2022年にナタリーを演じています。小向さん演じるナタリーは母ダイアナにうんざりし、自身も双極性障害を遺伝的に受け継ぐ恐怖を繊細に表現しながらも、母への愛をしっかりと感じさせます。娘として自分を見て欲しい。力強さの中に祈りが込められた歌声は必聴です。

ナタリーの孤独に寄り添うヘンリーを演じる吉高志音さん。ミュージカル『GIRLFRIEND』でも注目を集めた伸びやかな歌声を響かせ、ナタリーと出会う時の少し頼りない青年から、ナタリーを理解し支える頼もしい青年への変化が印象的です。ナタリーにとってパーフェクトな存在になると誓う「Perfect for You」、1幕と2幕のリプライズとでは大きく印象が変わります。

主治医ドクター・マッデンを演じる中河内雅貴さんは、優しい医師としての姿と、“ロックスター”かのように豹変するコミカルな姿を演じ分けます。「完璧ではない」医学、それでもダイアナを救うべく、根気強く治療を続ける彼の姿からも懐の深い優しさが感じられます。

2階建てのセットでは登場人物たちが交錯し、それぞれの心情を生き生きと描いていきます。照明や、衣装の色使いによって、精神状態の変化を現しているのも本作の大きな特徴です。

現代社会では最早、うつ病や精神疾患を「自分とは全く関係のないもの」と捉える人は少ないでしょう。多くの人が現実を投影しながら観る作品となっているはずです。しかしロックでキャッチーな音楽と、コミカルなシーンを織り交ぜた本作は、苦しいだけの作品ではありません。そして登場人物たちは皆、愛に満ち溢れていることにも救われます。