2025年4月10日(木)から東京建物 Brillia HALLにて上演されるミュージカル『フランケンシュタイン』。大胆なストーリー解釈と流麗かつメロディアスな音楽によって韓国でミュージカル化された本作は、日本でも熱狂的な支持を受けています。2017年の日本初演からアンリ・デュプレ/怪物役を演じ、本作に「強すぎる」思い入れを持つという加藤和樹さんに作品の魅力を伺いました。
暗闇の中に見える1つの光が眩しくて美しい
−加藤さんが『フランケンシュタイン』に強く惹かれる理由を教えてください。
「暗い作品ですが、絶望した暗闇の中に見える1つの光が凄く眩しくて美しいんです。人間の愚かな部分も、希望も夢も、色々な要素が詰まった作品だと感じています。そして男性同士の友情を描いており、友情をも超えたアンリの自己犠牲、新たな生命を創造していくビクターの意志の強さと覚悟、生命を生み出してしまったが故の後悔。喜びや怒り、悲しみだけでなく、人間の感情という感情が詰め込まれた作品であるからこそ、人を惹きつける魅力があると思います」
−音楽についてはいかがでしょうか。
「ブランドン・リーさんが手がける音楽は本当に美しくて難しいです。1つの楽曲の中で高低差が激しく、変拍子もあり、一筋縄ではいかない楽曲ばかりです。でもこれにお芝居がついてくるとそこにちゃんと感情が乗るように作られているんです。歌うだけだと難しいけれど、芝居の流れで歌うと音楽が寄り添ってくれる感覚がある。稽古でお芝居を重ねて、やっと完成する楽曲だと思います。ダイナミックな楽曲が多いですが、その奥に繊細さのある楽曲ですね」
−日本版はオリジナルカンパニーの許可を得て、演出の板垣恭一さんによって潤色(台本の書き足し)が行われています。2025年版でも台詞の微調整や演出の一部変更が行われるそうですね。
「韓国のオリジナル版は芝居で描かれている部分が実は少ないのですが、日本のミュージカルファンはより繊細な芝居を観る方が多いので、台詞が書き足されています。板垣さんの芝居を大事に思う気持ちが素晴らしいなと思いますし、言い回しや問いかけの文言が少し変わるだけでも芝居の印象は大きく変わるので、役として演じた時にどんな変化が起こるのか楽しみです」
自問自答を抱える怪物の姿は、役者としての自分に重なる
−怪物役に3度目の挑戦となりますが、どのように役に挑もうと思われていますか。
「今までのものはベースにしつつ、新たな気持ちでトライしたいと思っています。2024年の夏に韓国で上演されていた『フランケンシュタイン』を全キャスト観たのですが、役者さんそれぞれによって“こういう表現の仕方もあるのか”という発見があったんです。それを取り入れながら、ビクター役の中川晃教さんから受ける印象、小林亮太くんから受ける印象を合わせて芝居を作っていけたらなと思っています」
−同じアンリ・怪物を演じる新キャストの島太星さんについてはいかがでしょうか。
「演出の板垣さんが彼は憑依型だと言っていたので自分とも通ずるものが何かあるのかなと思っていて、早く彼のお芝居を見たいですね。一緒に韓国で作品を観ましたし、先日彼の出演作も観に行ったのですが、確かに普段と舞台上で全く印象が変わるので、お客様も驚くのではないでしょうか。自分にとってそうだったように、『フランケンシュタイン』が彼のミュージカルの代表作になったら僕も嬉しいです」
−怪物役はなかなか手がかりのない役柄のように感じるのですが、役作りの難しさはありますか?
「彼は何者でもないというのがミソだと思います。ビクターが着せてくれたコートの中に実験日誌が入っていて、それがたった1つ彼を導くものとなり、自分が何者なのかを紐解いていく。彼を突き動かしているのは復讐心だけでなく、自分が何者なのかという自問自答があると思います。自問自答を抱えている姿というのは、何もないところから役を作っていく自分自身と重なるので、実はそこまで大変だと感じないです。もちろんハードな役ですが、僕自身としては役が自然と作られていく感覚があります」
−怪物は、“人間こそが怪物なのではないか”という強いメッセージを持ったキャラクターですよね。
「ある意味、彼は純粋なんですよね。自分の欲求に素直で、動物的なところがある。でも人間がみんな自分の感情にだけ素直になっていたら、世界は破綻してしまう。怪物が人間たちにどういった感情をもたらし、世界を創造していくにあたってどんな役割を担うのか、注目していただけたらと思います。例えば人間が新たにAIを生み出したことを、人間が後悔しないようにはどうするべきか。もちろん世の中を良くするために生み出された素晴らしいものではあるけれど、それに支配される未来が来てしまうかもしれない。そういった世の中に重なるメッセージが込められていると思います」
アッキーさんは「孤高の天才」でありビクターそのもの
−アンリとビクターの友情、共鳴は本作の大きな鍵を握りますが、なぜ2人は、アンリは自己犠牲を払ってまで、深い関係性を築いたと思われますか。
「運命です。“これは運命であり奇跡だ”という歌詞もありますが、やはり2人は出会うべくして出会った2人だと思います。アンリの視点から考えると、人生に絶望していた中で出会ったビクターは一際光り輝いている存在です。同じ志を持っていて、“この人のためなら死ねる”と思えるほどの器がある。だからこそ死んでも後悔しない程の相手なのだと思います」
−初演からビクターを演じ、共に作品を創ってきた中川晃教さんはどういった存在ですか?
「アッキーさんは僕の中では、孤高の天才です。ですから、ビクターに対する思いは最初から出来ていました。それに天才と一言で言っても、努力を積み重ねた上での天才なので、そこもビクターと重なります。そういった点では役作りにも苦労しなかったです」
−日本でもファンの多い作品ですが、作品の反響を感じる瞬間はありますか?
「再演を発表した時の反応というのは届いていましたし、中川さんとよくコンサートで『フランケンシュタイン』の楽曲を歌わせて頂く時にもお客様からの人気の高さを感じます。作品に対して思い入れを持ってくださる方が多いのだなと感じますし、僕もその1人です」
−5年ぶりの上演ということで、新たに作品に触れる観客もいるかと思います。どのような体験をしてもらいたいですか。
「僕が初めて韓国で『フランケンシュタイン』を観た時、今までにない衝撃を受け、作品に飲み込まれていくような感覚に陥りました。皆さんにもぜひ劇場で衝撃体験を味わってもらえたら嬉しいです」
ミュージカル『フランケンシュタイン』は2025年4月10日(木)から30日(水)まで東京建物 Brillia HALLにて上演。5月には愛知・茨城・兵庫での全国公演が行われます。公式HPはこちら
加藤さんの本作への熱い想いをひしひしと感じるインタビューでした。怪物の存在や、彼が人間に訴えるメッセージは、様々な現実と重ね合わせることができます。