俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。今月からは小野田さんがジャベール役でご出演中の『レ・ミゼラブル』を上演している帝国劇場での撮影が実現。ジャベール役について、また小野田さんが初めて帝劇の舞台に立った『ルドルフ 〜ザ・ラスト・キス〜』について伺いました。

「生きるって悪くないな。人を想うって良いな」と思ってほしい

−『レ・ミゼラブル』のジャベール役を拝見しました。これまでのジャベールのイメージとは違い、人間らしい姿が印象的でした。
「これまでのジャベールは声が重たく、朗々とした印象があったと思うのですが、重たくなる表現は無くしてほしいと稽古で何度も言われました。バルジャンもジャベールも、普通の人間として生き続けてほしいと。声にもドライブ感を持ち続けて歌っています。稽古ではどうしても歌っていると重くなっていましたが、「今日は重くなっていたからもう少しラフに」と何度も言われました」

−バルジャンとジャベールの関係性も、最初から強い敵対関係があるのではなく、度重なる再会によって思いが強まっていく様が見えました。
「そうですね。今までは2人の敵対関係が最初から印象的だったと思うのですが、今回はただの職務で、しかもそこまで関心のない職務だと言われました。僕は厳格な職務として捉えていたのですが、本当に相手にしていない感じで良いと言われました。「俺はジャン・バルジャン」と反抗してくるので「なんだこいつ」と思うところはあるけれども、硬くなりすぎないようにというのは気をつけています」

−「自殺」でも、人間らしい葛藤や戸惑いがより見えるようになりましたよね。
「方向性を見失って崩れていくように演じているのですが、「自殺」は音楽にならないくらいカオスで良いと言われていました。もちろん音楽は守りつつも、その中で崩していかなければならないので、度合いが難しいですね」

−「Stars」についてはどんなイメージで演じられていますか。
「やっぱり神は自分にバルジャンを与えるんだ、奴を捕まえなければいけないんだという決意がありながらも、自分の歌にしないでほしいと言われたのが印象的でした。ジャベール自身の歌というよりも、客席にいる市民に向かって宣教師のように、「法を犯したら痛みという代償を払う」と伝えているイメージです。そういったところも含めて、今回はジャベールの色々な側面を見ていただけるんじゃないかと思います」

−ジャン・バルジャンを演じられている吉原光夫さん・佐藤隆紀さん・飯田洋輔さんはそれぞれ違う印象ですか?
「全然違いますね。アタックの強く来る人もいれば、自分の葛藤が強く出てくる人もいて、それぞれです。誰がどうとはあまり言いたくないのですが、道は一緒だけれど、道筋は違うという印象です。日によっても違います」

−それによってジャベールも変わっていくものでしょうか。
「そこで変わってしまうとジャベールではないんじゃないかなと思うんです。何があっても自分の意思や信念は変えられないのがジャベール。道筋が毎回変わってしまうと、ジャベールの生きづらさを描けないのかなと思っています」

−30代になって作品に参加したことで、印象の変わったキャラクターはいますか。
「それはあまりないのですが、ジャベールは演じてみてより彼の人生が愛おしいし、かけがえのないものだなと感じます。これまでも孤独の中で生きてきて、切ない人生で惹かれるなとは思っていたけれども、ここまで心が詰まるような感覚になるとは思いませんでした。今回は演出の雰囲気が変わっている部分が多いので、作品全体にも新鮮な部分が多いですね」

−『レ・ミゼラブル』は観るたびに作品のテーマの深さを感じますし、初めて観た頃はそういったところまでは理解できていなかったなと思います。
「『レ・ミゼラブル』は作品として長い歴史があるし、帝劇の、東宝の風物詩でもあり、原作も尊いものですが、僕はそこにとらわれ過ぎずに、目の前で起きた世界を体感してもらえると良いなと思います。もし「なんかよく分からなかったな」と感じたとしても、それも答えだと思うんです。分かろうとしなくて良いと思う。もちろん考察的なことを思いながらご覧になる方もいると思うしそれも良いと思うのですが、1つの劇場体験として、作品を観て「よく分からなかったけれど、なんか生きるって悪くないな。人を想うって良いな」と思ってほしいし、そういったドラマを届けられる俳優でありたいと凄く思います」

緊張感と恐怖と、慎重に扱わなきゃいけない作品

−若い実力あるキャストも増えて、日本のミュージカル界も黎明期から次の世代に向かっているのだなと感じるカンパニーでもあります。
「土壌が整えられているからこそ、心の部分を大事にしなければいけないと感じますね。僕自身も含め、作品が良くて音楽が良いと、自分が歌えている、芝居が出来ていると思ってしまいがちだけれども、そこで自分を疑って、もっとこういうアプローチもできるんじゃないかと模索しなければいけないと思います。役としての孤独な部分や苦しい部分に目を背けずに、戦い続けなければいけない。ミュージカル文化が盛んになったからこそのトラップでもあるんじゃないかな」

−今回はジャベール役と向き合うため、劇場では1人でいる時間が多いそうですね。
「そうですね。基本的には誰かに喋りかけにいくということはないです。もちろん必要があるときは喋りますけれど、どうしてもジャベールをやっていると1人で孤独に向き合うことが多いです」

−『レ・ミゼラブル』の製作発表時、吉原光夫さんが「帝劇は吸い込まれるような怖さがある」と仰っていましたが、小野田さんもそういった感覚はありますか。
「ありますね。帝劇は横に広くて真っ暗で、オケピも広いので客席までが遠いんです。怖いと感じるけれど、演じている時は芝居に集中しているので怖さはないですね。作品の世界にいる感覚は強いですし、帝劇に立てば立つほど、精神力が鍛えられます。それは楽屋に入った時から感じますね。心臓が強くないとこの仕事は出来ないだろうし、それが鍛えられる場所だとは思います」

−『レ・ミゼラブル』は特別な作品だと感じる観客も多いと思いますが、演じる小野田さんからしても特別な作品でしょうか。
「『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』は特別ですね。ミュージカル文化として日本で大きな力になった作品ですし、愛され続けている作品で、きっと自分が死んでも生き続ける作品だと思うんですよ。初演で演じられていた方の中には、亡くなられている方もいらっしゃいますよね。それでもなお、盛り上がり続ける作品というのはなかなかないです。今後も日本のミュージカルの風物詩であり続けるだろうし、東宝ミュージカルの1つの大きな核としてあり続けるだろうし、だからこそ、「レミゼブランド」で終わってはいけない。そこに常にエネルギーを注いで新鮮なものであり続けるというのが俳優を含め、関わる全ての人に求められていると思います。非常に緊張感と恐怖と、慎重に扱わなきゃいけない作品だなと感じます」

16歳で初めて観た、帝劇の舞台からの景色

−小野田さんが初めて帝劇の舞台に立った『ルドルフ 〜ザ・ラスト・キス〜』は2008年5月に上演され、当時16歳で大人キャストとして出演するのは異例だったそうですね。
「オーディション時は15歳でしたから、若かったですね。キャストオーディションに制限年齢が書いてなかったので受けたら、オーディションで「年齢順で歌ってみましょうか」と50代の方から20代まで歌っていって、「全員歌い終わりましたか?」と聞かれて、「僕歌ってないです」「え、小野田くんは何歳ですか?」「15歳です」って。驚かれましたけれど、演出の宮本亜門さんとプロデューサーさんが「小野田龍之介はミュージカル界に必要だ、今逃すと痛手になる」と言ってくださって、出演できることになりました。僕が言ったんじゃないですよ、亜門さんが言ってくれたんですよ?(笑)それがなかったら東宝作品に関わっていなかったかもしれないと思うと、自分を大きく変えてくれた作品ですから、今でも思い入れが深いですね」

−初めて帝劇の舞台に立った瞬間、どんなことを感じられましたか。
「でか!って(笑)。ずっと客席から観ていた劇場だったので、舞台上から見る景色というのは奇妙で、異空間のような感じがしました。帝劇の独特の匂いを舞台上でも感じたし、毎回舞台に立つ度に、劇場に見張られているような、ジャッジされているような感覚がありました」

−カンパニーでは最年少だったと思いますが、緊張はありましたか。
「もちろん。ペアダンスでもみんなが先輩だし、怖かったですし、失敗できないと思いました。僕は基本的にどの役でも、「やったー!」と思うよりも、プレッシャーを感じます」

撮影:木南清香、ヘアメイク:野中真紀子、スタイリスト:津野真吾(impiger)
衣装:カーディガン¥14,300- / AMERICAN RAG CIE パンツ¥9,900- / HARE 他、スタイリスト私物

−当時と今とで、一番変わったことは何だと思いますか。
「10代の頃は若くて、勇み足の部分もあったと思うんですよ。今ではとても開き直って、腹のくくり方が変わったと思います。自信は今でもないけれど、「よし、今日もやってやろう」と思えるようになりましたね。それは経験が大きいと思います。それによって、勇み足ではぶち破れない壁もぶち破れるようになったし、役を正面からだけでなく、横からも見られるようになりました。トライできるようになったからこそ、ジャベールにも向き合えているのかなと思います」

ミュージカル『レ・ミゼラブル』は2025年2月7日(金)まで 帝国劇場で上演中。その後、大阪・福岡・長野・北海道・群馬と全国ツアー公演が6月まで行われます。公式HPはこちら

Yurika

小野田さんにとっても、私たち観客にとっても「特別な場所」である帝国劇場で撮影させていただきました!来月も帝劇での写真と共にインタビューをお届けしますので、お楽しみに。