3月10日(月)からシアタークリエにて開幕するミュージカル『ボニー&クライド』。本作に出演する柿澤勇人さん、矢崎広さん、桜井玲香さん、海乃美月さんと、上演台本・演出を務める瀬戸山美咲さんが製作発表会見に臨みました。
クライドの原動力は「怒り」「何者かになりたい思い」
後のハリウッド映画に多大な影響を与えたアメリカン・ニューシネマの第1号として今も語り継がれる名作『Bonnie and Clyde』、邦題「俺たちに明日はない」で描かれた実在のギャングカップルを題材に、『ジキル&ハイド』『デスノート THE MUSICAL』などを手掛けた作曲家フランク・ワイルドホーン氏が、ジャジーなサウンドとポップなリズムで新たに創造したミュージカル『ボニー&クライド』。
2011年12月にブロードウェイで上演後2012年には日本で初演され、その後ブラッシュアップされた本作は2022年にロンドン・ウェストエンドで再演、2023年には日本で宝塚歌劇団雪組にて上演され話題となりました。そして2025年3月10日(月)からシアタークリエにて新演出版が上演されます。
製作発表会見ではまず柿澤勇人さん、矢崎広さん、桜井玲香さん、海乃美月さんが疾走感あるナンバー「ピクチャー・ショー」と「残すのさ名前を」を4名の特別バージョンで披露し、エネルギッシュな作品の空気を感じさせます。
脱獄し、ボニーと強盗を繰り返すクライドを演じる柿澤さんは、彼のエネルギーの原動力について「色々なものがあるとは思うのですが、その中で一番大きいのは怒りの感情なのかなと。1930年代は世界恐慌の時代で、禁酒法など抑圧されたものもあって、でもそれを変えるにも変えられないし、希望の光も見えないし、動いても何も変わらないとみんなが諦めている。そんな時代に、クライドは反逆して、犯罪を犯してしまうんですね。その原動力は怒りなのかなと思います。僕は当時をリアルには知らないですけれど、個人的にも、皆さんも生きていてどうしようもないことや、「おいおい、ふざけんなよ」みたいなことってたくさんあると思うので、そういったものをぶつけられたら。個人的には新年早々良いことがあまりなくて、三が日にまず自宅のトイレが詰まりました。そして韓国に仕事で行ったのですが、パスポートを落として韓国で日本大使館に初めて行きました。そういうところもぶつけようかなと(笑)」とユーモアを交えながらも熱い想いを語ります。
Wキャストでクライドを演じる矢崎さんも柿澤さんの思いに同意しつつ、「なぜ今自分はここにいるんだろう、俺のいる意味は何なんだろうということを実は凄く自問している人で、何者なんだ、俺はもっと大物になるんだという思いだけな部分もあるんじゃないかなと思っています。その中で相棒のボニーと出会って、何者かになりたい思いが加速していく、止まらなくなっていった2人なんじゃないかなと思います」とクライド像を語りました。
一方、桜井さんはボニーについて「ボニーとクライドは色々な作品で世に出ているんですけれども、作品を見るたびにボニーの印象が結構違っていて。真面目な素直な女の子という描写があったり、セクシーな女性だったり、クライドに付いていく危ない片鱗が見えたり。色々な面が描かれているので、どう演じていこうかというのはよく(海乃さんと)2人で話しているんですけれど。ボニーは小さい頃から人を惹きつけるような魅力を持っていた女の子だったようなので、観ている皆さんが気になってしまう、目が離せないような女性というのが近いのかなと現時点で思っています」と語ります。
海乃さんも「ボニーは幼少期から色々な人に好かれるというのがまずあるなと思っていまして。その中で、文章や詩を書くのが好きで文学的な才能もあって、ということはきっと想像力が豊かな女性だったんだなと思っています。家庭環境もあって真面目な部分もあるんですけれども、だからこそクライドに出会った時に心が揺れ動いたり、惹かれすぎてしまうくらいに惹かれたりするというのがあるのかなと思っていて。自分の夢を引っ張ってくれるクライドの勢いとの相乗効果で、世界恐慌の時代をかき分けて走っていくような存在になっていくので、その信念の強さもボニーの大きな特徴かなと感じていて、そこを大事に演じていけたら」と想いを語りました。
上演台本と新演出を務める瀬戸山美咲さんは「2人とも犯罪者として生まれているわけではなく、他の人より少し欲望が大きかったり、人を惹きつけるような才能を持て余していたり、そういう2人が互いに出会ってしまったからこういうふうになってしまったということをまずしっかり描きたいと思っています。求めているもの、求めている方向は実は違うんだけれども、生きている体温やエネルギーが似ている2人で、出会ってしまったから増幅していったところもあります。そして2人は対等な関係だったからこそアメリカ中の人たちが熱狂したのだと思っていて、どちらが欠けてもダメだし、どちらが主導しているわけでもなくて、2人が合わさった時に圧倒的にかっこいいように見えた。その過程をしっかり描きながら、人々がどういうふうに熱狂していったかも戯曲にしっかりと書かれているので、民衆のパワーというのも段階を踏んでお見せしたい」と意気込みました。
フランク・ワイルドホーンさんが手がけた音楽について、ワイルドホーンさんの手がける作品に数々出演している柿澤さんは「変わらずしんどい(笑)。エネルギーが必要なんです。物理的にもキーが高いですし、『ジキル&ハイド』よりも今回は若干キーが高いので、そこは自分としても課題だと思っています。ただ疲弊するとか疲れるというのは、フランクさんにとってみたら正解だそうで。セリフではなくなぜ歌にするかと言ったら感情が高まって抑えきれない何かがあるというのがミュージカルの基本であって、しかも1930年代の鬱々とした抑圧された時代での思いを歌う楽曲なので、自然的にエネルギッシュな楽曲が多くなるのかなと思っています」とコメント。
矢崎さんは「家に帰っても歌いたくなるような耳残りの心地よい楽曲をたくさん書かれる方だなと思いますし、特にこの作品は楽曲と仲良くなって作品を表現したいと思わせてくれる大ナンバーばかり。楽曲の力を借りながら共に歩いて頑張りたい」と意気込み、「ワイルドホーンさんの紹介がカッキーのプロフィールなのかなと思うくらいワイルドホーンさんの作品に出ていらっしゃるので、横に柿澤勇人がいてくれると心強いです」と語りました。
桜井さんは「ワイルドホーンさんの楽曲はスケールが大きくて余白があって、楽譜通りきっちりではなく、その時の気分や自分のノリでカッコよくなるなら如何様にでもやって良いよと言ってくださる心の広い方なので、早く余裕を持って楽しめるようになりたい」と語ります。
海乃さんは初めてワイルドホーンさんの楽曲に取り組む上で、「元々ワイルドホーンさんの楽曲が大好きで、今回挑戦させて頂けるのが凄く嬉しいのですが、いざ自分が歌うとなると難しいなというのが第一印象でした。でもお芝居をしていく中で、ここは盛り上がりたいと思うタイミングで音階が変わったりリズムが入ったりと、お芝居にリンクしている楽曲ばかりなので演じていて心地が良いですし、ボニーとしっかり重ねて歌えたら。ボニーはバラード系の曲調も多いので、お客様に楽しんでいただけるように気持ちを込めて歌えたら良いなと思っております」と心境を語りました。
4人の印象について瀬戸山さんは「柿澤さんは爆発力が凄いです。前半の明るいシーンを稽古している段階でも、怒りや悲しさ、寂しさといったヒリヒリする感情が瞬間瞬間に垣間見えて、凄く魅力的。矢崎さんは10年前に一度ご一緒したことがあって、その時からとても楽しい俳優さんでした。今回も楽しい俳優さんですし(笑)、作品の背景やクライド像を凄く掘り下げて考えて、お話ししてくださっていて、常に稽古場で面白いことをトライしようという気概に溢れていると思います。桜井さんはボニー的というか、こういうのがお得意だなと。満たされない感じや世の中に対する反発心を実は真ん中に持っていて、もがいている感じが出てくるのが魅力的です。海乃さんは最初に歌を聴いた時、明るさにびっくりして、それが良いなと思いました。クライドがなぜボニーに惹かれたのかと言ったら、その明るさに惹かれたのかなと思いました。一方で、突然殺気みたいなものを感じる時もあって、ボニーの残酷さが一瞬見えるのも面白いです。海乃さん自身が今、新しい入り口に立たれていると思うので、それがボニーの新しい扉を開けるというところと上手くシンクロできたら良いなと思います」と語りました。
また瀬戸山さんから「ボニーとクライドは映画でも描かれたように、死んだ時の状況が凄く有名だなと思うのですが、死んだ時の状況より、生きた2人の姿をしっかり届けたい。時代は全然違うんですけれども、現在と通じるところもあって、私は2人が友達みたいに感じる瞬間もあります。ご覧になった皆さんにも、友達の姿を見ているような感覚になってもらえるような作品にしたい」と語られました。
ミュージカル『ボニー&クライド』は3月10日(月)から4月17日(木)までシアタークリエにて上演。その後、大阪・福岡・愛知にて公演が行われます。公式HPはこちら
稽古場では新しいシーンに入る前に、円になってディスカッションを行っているそう。瀬戸山さんの温かなオーラによって和やかな稽古現場となっていることがキャスト4名から口々に語られ、柿澤さんが「ミニチュアのセット模型で演出を説明するときに、自分の自慢のお家を紹介するような素敵な顔で説明してくださって、本当に舞台演劇が好きなんだな、この方に付いていこうと、瞬時に思いました」とお話しされたのが印象的でした。