ハリウッド外国人映画記者協会が主催し、85ヶ国から集まった300人以上の記者やジャーナリストを中心に受賞者や受賞作品が決定する「ゴールデングローブ賞」。前身団体の設立を含むと80年以上の長い歴史を持つ歴史ある賞です。
2025年度の「テレビシリーズ・ドラマ部門」では、戦国時代の日本を舞台とした時代劇『SHOUGUN』が作品賞、主演男優賞(真田広之さん)、主演女優賞(アンナ・サワイさん)、助演男優賞(浅野忠信さん)を獲得し、国内外を問わず大きなニュースとなりました。
このように、ゴールデングローブ賞で日本の作品・俳優が快挙を成し遂げた一方で、もうひとつ重要な部門に目を向けてみましょう。
ゴールデングローブ賞には「ミュージカル・コメディ」部門が設けられており、過去には数々の名作が受賞、ノミネートされてきました。どの作品も時代を超えた魅力に輝き、その感動は今も色褪せることがありません。本記事では、2000年代から2020年代までの受賞・ノミネート作品を振り返ります。
『シカゴ』(2003年)
スターを夢見るロキシー・ハート(レニー・ゼルウィス)が、自分を裏切った男性を殺害し、投獄先でナイトクラブのスターだったヴェルマ(キャサリン・セタ・ジョーンズ)と出会うところから始まる『シカゴ』。
伝説的な演出家であり振付家のボブ・フォッシーが生んだ名作ミュージカルを映画化した本作は、2003年度のゴールデングローブ賞で最優秀作品賞、最優秀主演男優賞、そして最優秀主演女優賞の3部門を獲得しました。
最優秀主演男優賞を獲得したリチャード・ギアは、ヴェルマが雇った敏腕弁護士ビリー・フリンを演じました。ヴェルマ役のキャサリン・セタ・ジョーンズは、ゴールデングローブ賞での受賞は逃したものの、アカデミー賞で女優助演賞に輝きました。
作品の見どころは、なんといってもボブ・フォッシー振付による、独特のセクシーで力強いダンスナンバーです。ヴェルマの代表的ナンバー「All That Jazz」はもちろんのこと、刑務所内で囚人の女性たちが歌う「Cell Block Tango」も、セクシーと強さ、そして“凶悪さ”が合わさった彼女たちの魅力を堪能できます。
『ドリームガールズ』(2007年)
演劇賞の栄誉であるトニー賞6部門を獲得したブロードウェイミュージカル『ドリームガールズ』。伝説のR&Bグループ“ザ・スプリームス”をモデルとし、3人の女性ボーカルグループの光と影を描いた作品です。
2007年度のゴールデングローブ賞では、最優秀作品賞のほか、エフィー・ホワイトを演じたジェニファー・ハドソンが最優秀助演女優賞、そしてジェームス・“サンダー”・アーリーを演じたエディ・マーフィーが最優秀助演男優賞を獲得しました。
特にジェニファー・ハドソンは、オーディションで約800人のなかからエフィー役を勝ち取り、その圧倒的な演技力と歌唱力で一躍有名になりました。アカデミー賞では、ゴールデングローブ賞と同じく最優秀助演女優賞に輝いています。
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2008年)
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』は日本でも人気の作品です。
国内でたびたび上演されており、2024年3月から4月にも、宮本亜門さん演出、市村正親さん・大竹しのぶさん主演で上演されました。
トニー賞8部門を獲得した本作を、ティム・バートン監督が映画化、主演はジョニー・デップが務めました。2008年度ゴールデングローブ賞において、最優秀作品賞と最優秀主演男優賞を獲得しました。
18世紀末のロンドンを舞台に、無実の罪で流刑にされた理髪師・ベンジャミン・バーカーが、15年後に“スウィーニー・トッド”と名前を変えて街へ戻ってくるところから、彼の復讐劇が始まります。
恐怖と狂気のなか繰り広げられる復讐劇に、ハラハラドキドキしながらも目が離せない名作です。
『レ・ミゼラブル』(2013年)
ミュージカルの金字塔とも呼んでも過言ではない『レ・ミゼラブル』。
2012年に映画化された本作は、2013年度最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(ヒュー・ジャックマン)、最優秀助演女優賞(アン・ハサウェイ)の3部門に輝きました。
原作はヴィクトル・ユゴーの同名小説で、パンを盗んだ罪で19年ものあいだ服役したジャン・バルジャンが、執念深いジャベール警部(ラッセル・クロウ)の追跡を逃れながら、激動の時代を生きていく人間ドラマです。
本編はほとんどセリフがなく、キャラクターの歌で物語が進んでいきます。
この特徴を生かし、監督のトム・フーパー氏は、キャストの歌唱を事前に収録するのではなく、実際に撮影現場で歌唱させるというスタイルをとりました。
これまでに数多くの名優が演じてきたジャン・バルジャンに抜擢されたのは、過去に演劇界の名誉であるトニー賞の受賞経験もあるヒュー・ジャックマンです。さらにラッセル・クロウ、アン・ハサウェイなど有名俳優のほか、『ファンタスティック・ビースト』シリーズで主人公のニュート・スキャマンダーを演じるエディ・レッドメイン(マリウス役)やアマンダ・セイフライド(コゼット役)といった若手俳優の歌唱も光っています。
映画『レ・ミゼラブル』はデジタルリマスター/リミックス版が2024年12月27日から上映されています。
『ラ・ラ・ランド』(2017年)
2017年度のゴールデングローブ賞において、最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(ライアン・ゴスリング)、最優秀主演女優賞(エマ・ストーン)、最優秀監督賞、最優秀脚本賞(ともにデイミアン・チャゼル)、最優秀作曲賞(ジャスティン・ハーウィッツ)、最優秀主題歌賞の計7部門を受賞するという快挙を成し遂げたのが、『ラ・ラ・ランド』です。
売れない女優のミア(エマ・ストーン)とジャズピアニストであるセバスチャン(ライアン・ゴスリング)の恋を描いた本作では、ゴージャスかつロマンチックな歌とダンスがふたりの恋模様を彩ります。
夢を追いかけることの情熱と、挫折と現実。本作は、歌とダンスによる華々しい演出と、多くの人が直面する繊細な心の機微とが見事に調和した名作です。
『ウエスト・サイド・ストーリー』(2022年)
スティーブン・スピルバーグ監督によってリバイバル化された『ウエスト・サイド・ストーリー』は、最優秀作品賞、最優秀主演女優賞(レイチェル・ゼグラー)、最優秀助演女優賞(アリアナ・デボーズ)の3部門を受賞しました。
シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』をモチーフにした本作。作曲家レーナンド・バーンスタインが生んだ数々の名曲によって、伝説のミュージカルとして多くの人々に愛されています。
本作は、ヨーロッパ系移民“ジェッツ”と、プエルトリコ系移民グループの“シャーク”のグループ間の対立が生む悲劇と、敵対する立場にありながら惹かれ合っていくトニーとマリアの純真な恋を描いています。原作の設定を活かしつつも、アメリカの社会問題(移民や人種による分断)も取り入れられ、よりメッセージ性の強い作品となっています。
バーンスタインによる楽曲はどれも名曲ですが、特に代表ナンバーともいえる『Balcony Scene (Tonight)』や、プエルトリコの女性たちによるパワフルな『America』、恋するマリアが歌う『I Feel Pretty』など、誰もが一度は耳にしたことのある有名な曲が多いのではないでしょうか。
2025年3月に本邦公開、気になるノミネート作品は?
最優秀作品賞の受賞は逃したものの、2025年度のゴールデングローブ賞にノミネートされた注目作品も。
それは2025年3月7日(金)に日本で公開される『ウィキッド ふたりの魔女』です。
名作小説『オズの魔法使い』の前日譚として、のちに“悪い魔女”と“善い魔女”と呼ばれることになるエルファバ、グリンダのふたりの少女の友情と苦悩を描いた作品です。
ゴールデングローブ賞ではシネマティック・ボックスオフィス・アチーブメント賞を受賞したほか、最優秀作品賞にノミネート、さらに最優秀主演女優賞(シンシア・エリボ)、最優秀助演女優賞(アリアナ・グランデ)部門にもノミネートされました。
過去にゴールデングローブ賞に輝いたミュージカル作品は、圧巻のナンバーと卓越した歌唱力に加え、深い人間ドラマや社会問題までを描き出しています。『ウエスト・サイド・ストーリー』のような往年の名作から、夢を追う若者の心の機微を描いた『ラ・ラ・ランド』まで、時代を超えて心に響く多様な作品が受賞しているのが印象的でした。