『反乱のボヤージュ』は、2001年に出版された野沢尚さんの小説です。取り壊しの危機にある大学の学生寮を舞台に、寮の存続に奮闘する学生たちと大学から送り込まれた舎監との心の交流を描きました。同年にはドラマ化もされた傑作が、2025年に舞台として蘇ります!若者たちの熱意と葛藤は、ステージ上でも鮮やかに息づくことでしょう。

大学の廃寮化運動を舞台に描かれる、若者たちの葛藤と成長

まず舞台『反乱のボヤージュ』のあらすじをご紹介します。

首都大学の学生寮“弦巻寮”。大学側は寮の取り壊しをもくろみ、元機動隊の名倉憲太朗が舎監として送り込まれることに。一方、一年生の坂下薫平は、活動的な三年生の江藤麦太をはじめとする学生たちや、口は悪いが料理の腕は確かな食堂担当の調理師・日高菊らと楽しい日々を過ごし寮生活を満喫していた。しかし強行に廃寮をすすめる学長補佐の宅間玲一からの要請を受けた名倉は着任早々厳しい統制を始める。

時を同じくして起こった、薫平の父親問題や寮生のストーカー事件。自分たちが抱える問題に踏み込んでくる名倉に最初は反抗するが徐々にうちとけていく。一方で、過去のトラウマや秘密を抱えていた名倉も、 かつての学生襲撃事件で共に闘った久慈刑事と接点を持ちつつ廃寮に向けて学生に厳しく接しながらも、やがて学生たちと心を通わせていく。 トラブルを乗り越えながら結束を固めた寮生達は、遂に大学側との戦いに立ち上がる。その時、薫平は、そして名倉がとった行動とは――

作品は、1991年から約10年間続いた東京大学駒場寮の存続運動に着想を得て執筆されました(ただし、史実とは大きく異なります)。1970年代の影を背負い続けてきた名倉と、大人社会との狭間で闘う若者たちの反乱を描きながら、自分の存在に葛藤し、未来を模索していく青春群像劇となっています。

「学生寮?ちょっと昔の話?」あらすじを読んで、そう感じた方もいるかもしれません。しかし、だからこそ描ける「心の交流」や「対立と和解」があります。ここからは、そんな視点でこの舞台の魅力を紐解いていきましょう!

石黒賢と岡本圭人が織りなす、世代を超えた心の交流

今回の舞台では、学生寮の舎監として着任した名倉憲太朗を石黒賢さん、廃寮に反対する学生・坂下薫平を岡本圭人さんが演じます。年齢も立場も大きく異なる2人が、最初は反発し合いながらも、次第に心を通わせていく姿は、本作の大きな見どころです。名倉の厳しさの奥にある誠実さ、薫平のまっすぐな想い。世代を超えて結ばれる信頼が、観客に静かな感動をもたらすことでしょう。

「僕が演じる名倉は、学生たちとつかず離れず、時には兄のように、時には父のように見守る重石のような存在で、この役を演じるのは身の引き締まる思いです」と石黒さん。岡本さんも「原作を読み、心を動かされとても感動しました。 この物語は、今のこの時代に、上演するべきだと思いました」と作品への熱意を語っています。

そのほかにも、三年生の江藤麦太役を大内リオンさん、名倉と接点を持つ久慈刑事役に加藤虎ノ介さん、食堂担当の調理師・日高菊役に南沢奈央さん、学長補佐の宅間玲一役に益岡徹さんなど、傑作小説の舞台化にぴったりな顔ぶれが揃いました!

原作を読んだ体験について振り返る益岡さんのコメントからも、名倉と薫平の「心の交流」が想起されます。「大学の寮の存続についての、学生達と、大学側が送り込んできた舎監の物語。反目で始まり、いくつかの出来事があって、両者の距離が縮まり、最後家族のような関係になるところまで、一気に読んでいました」。

2人の間に芽生える信頼は、現代のわたしたちにも大切な問いを投げかけてくれます。異なる価値観を持つ者同士がぶつかり合いながらも歩み寄る姿に、誰もが心を重ねるはず。今だからこそ観たい、世代を超えた交流の物語が、舞台で静かに、しかし力強く息づきはじめます。

鴻上尚史が描く、対立と和解のドラマ

脚本・演出を手がけるのは、演劇界の第一線で活躍を続ける鴻上尚史さん。第39回岸田國士戯曲賞や第61回読売文学賞(戯曲・シナリオ賞)など数々の受賞歴を持ち、現在は日本劇団協議会および日本演出者協会の理事も務めています。確かな筆致と演出力で、本作にも新たな命が吹き込まれます。

かつて野沢尚さんは『反乱のボヤージュ』を「父親探しの物語であり、子供探しの物語だ」と表現しました。実は父も子も、お互いの実像を求めているのではないか?現代の若者は、大人に反発しながらも、強くてやさしい存在を求めているのではないか?そして大人も、若者に恐れを抱きながら、かつての日本にいたような怒れる若者を欲しているのではないか?そのような意図が背景にあったようです。

舞台化にあたり、鴻上さんは「若者と大人、反抗と秩序、祝祭と日常、混沌と理性、息子と父親など、あらゆる対立がうずまくドラマをエネルギッシュに、ポジティブに描ければ」とコメントしました。

彼によって描き出されるのは、ただの対立や衝突ではなく、そこから生まれる理解や希望。世代や立場を越えた「出会い直し」の物語が、観る者の胸にあたたかく届き、明日からの日常にそっと新たな彩りを添えてくれるはずです。

舞台『反乱のボヤージュ』は、2025年5月6日(火・祝)から16日(金)まで、東京の新橋演舞場で上演されます。また6月1日(日)から8日(日)までは大阪松竹座にて公演予定です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。

さよ

現代社会における若者と大人の関係性や、個人と組織の葛藤を描き出す舞台『反乱のボヤージュ』。鴻上さんと俳優陣の方々が生み出す青春と再生の旅路を、ぜひお見逃しなく!