チャールズ・ディケンズによる不朽の名作を元に2007年にミュージカル化され、日本では2013年に帝国劇場で上演されたミュージカル『二都物語』。弁護士シドニー・カートン役に井上芳雄さん、フランスの亡命貴族チャールズ・ダーニー役に浦井健治さんと初演から続投するキャストに加え、2人から想いを寄せられる女性ルーシー役に元・宝塚歌劇団宙組トップ娘役の潤花さんを迎え、12年ぶりの再演が上演されます。本作の囲み取材・公開ゲネプロの様子をお届けします。

「希望が湧くような変化がありました」

囲み取材には、井上芳雄さん、浦井健治さん、潤花さんが登壇しました。

12年ぶりの再演に際し、「帝国劇場の建て替えにあたって明治座さんでやらせてもらうとなった時に、この作品がちょうど良いんじゃないかなと僕も思いましたし、とにかくまた出来て嬉しい」と語った井上さん。「濃密なドラマがある作品なので、客席や劇場の空間がぎゅっと濃密な明治座は合っているんじゃないか」と感じられたと言います。

浦井さんも「鵜山さんの演出のもと、ストレートプレイのような濃縮なお芝居になっている」と語り、「個人的にはソロ曲も新曲であるのでそれも頑張りたいと思います」と意気込みます。また「芳雄さんがダーニーは浦井健治ではないかというオファーをくださったと聞いて、相思相愛だなと」と笑顔に。

井上さんは「話を大きくするんです。僕が全権力を握っているみたいな言い方するから(笑)。浦井くんはもちろん、できる限り12年前と同じキャストで出来たら良いなとは言ったんですけれど」と弁明しつつ、「帝劇の最後のコンサートから一緒なんですけれど、次の帝劇に繋がる大事な5年間なので、そのスタートを浦井くんと一緒にできて心強いです」と信頼を寄せました。

本作品に初参加となる潤花さんは「12年前の初演に出演されていた方、スタッフの方が多いからこそ、お稽古場から凄く濃かったですし、劇場に来て私が出ていないシーンを客席から観ていると凄く距離が近くて、これはお客様との一体感が高くなるんだろうなと思ったので、凄く今から楽しみな気持ちでいっぱいです」と語ります。

潤花さんは浦井さんと「似ている」と言われることが多いそう。笑い上戸で天然なところが似ているとカンパニーから言われていると明かします。井上さんが「みんなから愛される感じが似ているかもしれない。カンパニーの最年少なんです。12年経ってみんなおじさんになったので、そんな中で入れられて大変だと思うんですけれど、みんなから愛されて、色々なお菓子とかもらってるもんね」と言うと、潤花さんも「たくさん美味しいものをいっぱい!」と答え、微笑ましいエピソードを明かしました。

井上さんは12年ぶりのカートン役について、「12年前とは違う物語の受け取り方になりました。カートンは最後にある種、聖人のような選択をするんですけれど、ずっと聖人だったわけではなくて、僕たちと同じように色々と感じながら生きていて、投げやりになったり恋をしたりしながら、1個1個愛する人たちのために選択をしていったら最後凄いことを成し遂げたという人のように今回感じて、自分たちとの距離は縮まった気がします。自分たちももしかしたら同じように選べるかもしれないという希望が湧くような変化がありました」と語ります。

また『二都物語』というタイトルについて「パリとロンドンの二都なんですけれど、シドニーとダーニーの2人の男性ということもあるでしょうし、フランス革命を描いているので貴族と民衆とか、色々な相反する2つのものがあって、2つのものがあると争いになっちゃうというのは世の常だと思うんですけれど。僕の解釈では彼(カートン)はその間を取り持てると最後に思ったんじゃないかな。二都というタイトルを凄く考えます」と語りました。

これには浦井さんも「(カートンとダーニーが)瓜二つという設定も、状況や環境の異なる2人が同じ志を持っていて、どう生き抜いたのかというのを描いていて、結果、見た目どうこうではなく考え方が瓜二つだったんだということを今回は印象的に形作れたらなと思いながら挑みました」と想いを語ります。また「家族の物語なんだなと改めて感じて、それはルーシーの一家もそうですし、チャールズたちも含めて、切っても切れないものでありながらも、カートンとミスター・ロリーのように実の親子ではないけれども一緒に過ごした時間の中で家族になっていくことが可能なのではないかという願いを込めた、ディケンズの未来に託したメッセージが伝わるように役を作っていけたら」と語りました。

井上さんは明治座で4月に上演されていた『1789 -バスティーユの恋人たち-』もフランス革命を扱った作品であることに触れ、「なんで革命を扱ったミュージカルが多いのか考えたことがあって、“自分たちは世の中を変えられるんだ”と思い出すことができると思うんです。しかもミュージカルの力を使って。なかなか毎日生きているだけでも大変だと思うんですけれど、でも自分たちは変えられるかもしれない。過去、変えてきた人たちの姿を観て、シドニーとカートンの生き方を観て頂くと、きっと劇場に来る前よりもエネルギーがみなぎっているんじゃないかなと。エネルギーに溢れる舞台をお届けしたい」とメッセージを贈りました。

「彼らは僕に家族の絆をくれた。今度は僕がそのお返しをするんだ」

18世紀後半、イギリスに住むルーシー・マネット(潤花さん)は、行方不明になっていた父ドクター・マネット(福井晶一さん)が17年間バスティーユに投獄されていたのち、酒屋の経営者ドファルジュ夫妻(橋本さとしさん、未来優希さん)に保護されていると知り、パリへ向かいます。

バスティーユへの投獄という辛い経験から錯乱状態でしたが、愛する娘との再会にかつての記憶が蘇るマネット。

一方、パリでは市民の貧困が進み、貴族への恨みが沸々と溜まっています。特に恨みを買っていたのが市民に侮辱した態度を取るエヴレモンド侯爵(岡 幸二郎さん)。甥のチャールズ・ダーニー(浦井健治さん)は侯爵と縁を切り、ロンドンに亡命しようと考えますが、侯爵によってスパイ容疑で裁判に掛けられてしまいます。

ロンドンへの帰途の最中にダーニーに親切にされたルーシーは、ダーニーの無実を証明しようと動きます。結果、ダーニーと瓜二つの酒浸りの弁護士シドニー・カートンが彼を救うことに。

ダーニーとルーシーは結婚を誓い合う仲になり、カートンも密かにルーシーを愛していましたが、2人を想い、身を引きます。

井上芳雄さん演じるシドニー・カートンは、酒浸りで人生投げやりな姿から、ルーシーと出会い、その優しさに心救われて変化する姿が印象的。ルーシーの優しさを受け取って希望に満ち溢れたカートンを、井上さんの圧巻の歌唱力と演技力で魅せていきます。

恋をした。ただそれだけではなく、ルーシーの分け隔てなく人と接する態度、誰でも良い点を見つけようとする姿、見返りを求めずに優しさや無償の愛を渡す生き方、そういったルーシーの人間としての魅力が、シドニーを変えたのだろうと感じさせます。そんなルーシーを嫌味なく純真に演じる潤花さんの好演が光ります。

浦井健治さんは冒頭のカートンとは対照的に、純朴な青年ダーニーを瑞々しく演じ、その温かさでルーシーを包み込んでいきます。そんな彼だからこそ、カートンは鬱屈せずに身を引けたのでしょう。

マネット親子とダーニー、ルーシーの娘の“小さなルーシー”、そしてカートンは共に過ごす“家族”として愛を育んでいきます。そんな穏やかなロンドンとは対照的に、憎しみを募らせていくパリの人々も鮮明に描かれていく本作。

橋本さとしさん、未来優希さん演じるドファルジュ夫妻を筆頭に、革命が湧き上がっていく様子をドラマティックに描きます。民衆が人権を手にする革命でありながら、憎しみが連鎖していく一面も。

ダーニーは昔の使用人の危機を救おうと祖国フランスに戻ったところを民衆たちに捕えられてしまい、死刑を宣告されます。ダーニーとルーシーの幸せを願うカートンはある決心をし、ダーニーが捕えられている牢獄へと向かいます。

カートンの決断は、ルーシーと“小さなルーシー”がカートンに手渡した愛から生まれたもの。そこには愛の連鎖があります。憎しみの連鎖と愛の連鎖、それぞれの究極が描き出す人間ドラマが、本作の最大の魅力と言えるのではないでしょうか。ジル・サントリエロの楽曲(追加音楽はフランク・ワイルドホーン)がそれを情緒的に盛り上げます。

撮影:山本春花

「彼らは僕に家族の絆をくれた。今度は僕がそのお返しをするんだ」と語ったカートン。私たちはカートンと同じような決断をすぐには出来ないかもしれません。それでも、本作から受け取った“無償の愛の尊さ”が、きっと日常をほんの少し変えてくれるはずです。

ミュージカル『二都物語』は2025年5月7日(水)から31日(土)まで明治座にて上演。6月7月には梅田芸術劇場メインホール、御園座、博多座でのツアー公演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

衣装や舞台美術も美しい作品!カートンの生き様に涙せずにはいられません。