メジャーリーグを舞台に、スター選手によるカミングアウトから始まり、徐々に様々な実情が浮き彫りになっていくチームを描いた舞台『Take Me Out』。玉置玲央さん、三浦涼介さん、章平さん、原 嘉孝さんらが出演するレジェンドチームの観劇リポートをお届けします。
彼らは楽園を失った−。閉鎖的空間で生まれる孤独や差別
舞台『Take Me Out』は、2003年第57回トニー賞の演劇作品賞、2022年第75回トニー賞の演劇リバイバル作品賞を受賞した作品です。日本では2016年に初演され、2018年に再演。藤田俊太郎さんが引き続き演出を手がけ、7年ぶりに上演されています。
本公演はレジェンドチームとオーディションで選び抜かれたルーキーチームの2チーム体制で上演。レジェンドチームは、会計士のメイソン・マーゼック役に玉置玲央さん、メジャーリーグの球団「エンパイアーズ」で活躍するキッピー・サンダーストーム役に三浦涼介さん、「エンパイアーズ」のスター選手であり、ゲイであることを告白するダレン・レミング役に章平さん。

日本人投手タケシ・カワバタ役に原 嘉孝さん、キャッチャーのジェイソン・シェニエー役に小柳 心さん。チームメイトのトッディ・クーヴィッツ役に渡辺 大さん、マルティネス役に陳内 将さん、ロドリゲス役に加藤良輔さん。
ダレンの親友で敵チームのデイビー・バトル役に辛 源さん。二軍から上がってきた投手で壮絶な過去を持つシェーン・マンギット役に玲央バルトナーさん。そしてチームの監督スキッパーを田中茂弘さんが演じます。

メジャーリーグの球団「エンパイアーズ」でスター選手のダレン・レミング(章平さん)。彼は白人の父と黒人の母を持ち、類稀なる才能と裕福な家庭環境によって人種差別とは無縁の暮らしをしてきました。
彼は親友デイビー(辛 源さん)の「自分が誰なのかを表明するべき」という言葉に背中を押され、記者会見で自分がゲイであることをカミングアウトします。
カミングアウト後も何も変わらないと信じていたダレン。しかしチームの均衡は少しずつ崩れていきます。ロッカールームには日本人選手やドミニカ人選手など多様な人種が同じ空間に存在しており、常に混沌とした雰囲気。聡明で語学堪能なキッピー(三浦涼介さん)はチームメイトとコミュニケーションを取り、ダレンを友人として気にかけます。

一方、ダレンの会計士として新たに着任したメイソン(玉置玲央さん)はダレンの告白に勇敢さと気高さを感じ、ダレンと交流を深めていきます。
チームは日本人ピッチャーのカワバタ(原 嘉孝さん)の失速もあり、徐々に負け始めます。そこで二軍から上がってきたシェーン(玲央バルトナーさん)を起用。チームは再び勝ち始めますが、シェーンはロッカールームで誰とも打ち解けようとしません。

ダレンとキッピーが話しかけると、シェーンは両親が心中し、孤児院で育った壮絶な過去を打ち明けます。シェーンの活躍によって順調に見えたチームでしたが、勝利を収めたある日、シェーンはメディアの前でダレンへの差別的な発言を行い、謹慎処分を受けることに。それは悲劇の始まりでした。
本作はメイソンとキッピーがストーリーテラーの役割を担い、観客に寄り添いながら物語が進められていきます。玉置玲央さん演じるメイソンは「野球初心者」でありながら、仕事として野球を見始め、徐々にその魅力に魅了されていきます。野球を見ている時間は、現実を忘れ、非日常に連れて行ってもらえる。子どものように目をキラキラと輝かせて野球を語る姿は、演劇を愛する私たちにとって強く共感できるはず。そしてその純粋さにダレンが心を許していく様子が見て取れます。
三浦涼介さん演じるキッピーは冷静沈着で聡明なキャラクター。誰に対しても優しく、相手を理解しようとするキッピーの根底にはチームへの熱い想いや、ダレンへの情熱的な友情が感じられます。一方で、ずる賢さや嫉妬といった人間らしさも持ち合わせている人物です。
章平さん演じるダレンは白人の父と黒人の母を持ち、ゲイであることを告白するマイノリティでありながら、常にスターとしての風格と余裕を見せ続けます。才能のある自分は、差別はされない。そう信じているように見える彼の本心はなかなか見えません。彼はなぜ告白したのか、アイデンティティとは何か。大きなテーマを突きつけてくる謎めいたダレンに惹き込まれます。

本作はダレンのセクシャリティだけでなく、チーム内で多様な人種が描かれます。原 嘉孝さん演じるカワバタは唯一の日本人選手として言語の壁に悩み、1人で孤独に葛藤します。自分の失速によりチームが負ける中、相手が自分を嘲っているかもしれない恐怖。焦りや葛藤は言葉なくとも伝わり、寡黙な彼が口を開いた時、彼の生き様がまざまざと伝わります。

そしてダレンに対し差別的な発言を行うシェーン。玲央バルトナーさんはともすれば観客に嫌悪感を抱かせかねないシェーンを、孤独や混乱、無知さを織り交ぜながら絶妙な塩梅で見せていきます。有色人種やゲイに対しての強い差別意識は、許されるものではありません。しかし恐らく教育の機会もほとんどなかった彼を、ただ追放すれば済むものでしょうか。社会の責任は?「ただ投げたいだけ」と切望する彼を、どうしたら救えたのでしょうか。

舞台セットはロッカールームを中心に展開する中で、メイソンとダレンはロッカーから幕を隔てた場所で交流を深め、ダレンにとってロッカールームという閉鎖空間から離れた場所であることを感じさせます。またキーとなるアイテム、シャワーやボールなどを象徴的に魅せるのも印象的。
実力派の俳優陣による重厚な台詞劇が展開するレジェンドチーム。ルーキーチームは躍動的なダンスを取り入れた大きく異なる演出となっているため、2チームを見比べながら作品への理解を深めるのもおすすめです。

舞台『Take Me Out』2025は6月8日(日)まで有楽町よみうりホールにて上演中。6月14日(土)~6月15日(日)に名古屋・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール、6月20日(金)~6月21日(土)に岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場、6月27日(金)~6月29日(日)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて上演が行われます。公式HPはこちら

野球についての知識がなくても、人間ドラマにグッと惹き込まれていきました。