2025年9月に開幕するミュージカル『コーラスライン』。1975年の初演以来世界中で愛され続けた本作が、原案・振付・演出のマイケル・ベネットの精神を受け継ぎながら、新演出版として生まれ変わります。大きな変更点はこれまで舞台上に姿を現さなかった演出家・ザックが出現するということ。このザックを演じるアダム・クーパーさんに本作の魅力を伺いました。

役に説得力を持たせるため「キャラクター作り」を大切に

−長年愛されてきた作品『コーラスライン』で、ザックを舞台上に出現させるという新しい演出プランを聞いてどのように思われましたか。
「オファーを受けたときはとても嬉しかったです。オリジナルバージョンではザックは声でしか存在せず、かけ離れた存在として描かれていますが、マイケル・ベネットは元々そういうザックの描き方をしていませんでした。映画版ではマイケル・ベネットが描きたかった、オーディションを受けている人たちから影響を受けているザックの姿があって、それを舞台版でも描きたいのだということを聞いたので、出演したいと思いました」

−ザックを演じてみていかがですか。
「ザックは長い時間、オーディションの経過を見届けるための集中力が必要なので、そこは難しいとは思います。マイケル・ベネットが描きたかったように、そこにいる、その場で生きている演出家であるということを心がけています」

−ザックが舞台上に出現する他に、新演出での見どころを教えてください。
「1970年代という舞台設定はそのままに、新しいエネルギーや、感情が揺さぶられる演出が加わることで、よりお客様が作品に入り込めるようになっていると思います。また振付も新しくなっており、担当したエレン・ケーンは『マチルダ』にも携わった新進気鋭の素晴らしい振付家です。彼女が作品の魅力を引き出すような振付をしています。照明も非常に変化していますし、オーケストラの演奏も現代版にアレンジされています」

−ザックとご自身との共通点をどのように感じていますか。
「ダンサーとして経歴を始めたところ、そしてそこから振付家・演出家になったというところがとても似ていると思います。また、人をオーディションで選ぶ時のプレッシャーを感じるのも共通点ですね。とても共感できるところだと思います。
演出家としてアプローチが違うなと感じているのは、お話が作られた1970年代の演出家は度々あったのだと思いますが、オーディションを受けている側と演出家が非常にかけ離れた存在だったということです。私はどちらかというとオーディションに参加する人たちとよい空気の中で、よき関係作りをしながら人を選んでいきたいと思っています」

−ご自身とザックの一番の違いは何だと思いますか。
「私は優しいと思います(笑)。この作品ではザックがオーディションをしているところは見られますが、演出をしているところは描かれていません。ですが私が予想するに、あまりいい演出家ではないだろうなと思います(笑)。自分がやって欲しいことをただ役者に伝えるだけの演出家なのだろうなと。私はその真逆で、役者と一緒にいろんなことを探りながらクリエーションしていくことが好きです。それはなぜかというと、私がパフォーマーで若かった時に、一緒に作り上げていってくれるような演出家が好きだったからです。なので、そういう演出家になろうと心がけています」

−踊りや演技に感情を込める時に大切にしているプロセスは何でしょうか。
「私はキャラクター作り・役作りから始めます。それが一番私にとって大事だと思っています。お客様に説得力を持って、自分じゃない誰かを見せる時には、その役の歴史やバックグラウンド、どういう時にどんな人と関係を持ったのかというところを作り上げなければならないと思うので、そこから始めるようにしています」

感情が揺さぶられる数々の名曲たち

−本作の楽曲「One」は日本での知名度の高い人気楽曲です。本作の音楽の魅力をどのように感じられていますか。
「素晴らしい楽曲が揃っている作品だと思います。「One」はフィナーレの楽曲ですが、それ以外の楽曲もそれぞれのシーンに対して象徴的に描かれており、それぞれのキャラクターのストーリーがあって感動させてくれます。特に「At the Ballet」や「Montage」、ディアナが歌う「Nothing」などに感情を揺さぶられますし、「What I Did for Love(愛した日々に悔いはない)」は全てのお話がこの楽曲に集約されていると感じます。なぜオーディションを受けているのか、そこにはダンスやエンターテインメントへの愛があって、凄く意味がある楽曲だと感じます」

−クーパーさんがお好きな楽曲は?
「やはり「At the Ballet」が大好きです。感情を揺さぶられる楽曲ですし、演出的にも美しいものになっています。3人のハーモニーが美しく、私も好きですし私の娘もこの楽曲が一番好きです。そして今回の新演出版では、私が演出家として端の方に座っていて、この曲が終わると、舞台の真ん中の方に歩いていくんですね。それによってお客様は、ザックが演出家としてこの曲からどういうふうに影響を受けたのか、感動しているのかというところも観てもらうことができます。それはオリジナルのバージョンにはなかったもので、新演出として変わった良い例になっていると思います」

−ダンスの多い作品なので、クーパーさんが本作の楽曲を踊るところを見たいと思うファンも多いかもしれません。ダンサーたちを見ていて、踊り出したくなる瞬間はありますか。
「踊りたいし踊りたくない(Yes and No)ですね(笑)。本当に素晴らしい振付なので、もっと若かったらやりたかっただろうと思います。ただ最後にソロでのダンスシーンを少し足してもらったので、それが私にとっても、ファンの皆さんにとっても良いんじゃないかなと思います。また自分のキャリアとして、どこかでダンサーという立場から移行していかなきゃいけないとは思っています。コンサートや演技をすることも増えてきているので、そういう形で自分自身は進化していきたいと思っています」

日本の観客は「いつも支えになってくれています」

−イギリスでは既に本作が上演されていますが、観客の反応をどのように感じましたか。
「反応はとても素晴らしいです。最初にこの作品を上演したのは2021年だったので、コロナ禍後、初めてこの作品で舞台を観るという人が多かったんです。なのでとても多くの皆さんが感動されていて、話に入り込んでくれる方が多かったと思います。その後もロンドン含めイギリス中のいろんなところで公演したんですけれども、どこに行っても素晴らしい反応をいただけて、愛される作品だなと思いました。この作品はダンスもあり、歌もあり感情的になるようなお話もあり、すごくアイコニックなお話だと思うんですけれども、それがどこに行っても受け入れられて、とても感動していただけているのを感じました」

−日本では大劇場である東京建物 Brillia HALLと、約700席のTheater Hでの上演があります。劇場のサイズによってご自身での変化はありますか。
「演じる上では劇場のサイズはそこまで気にしていないですが、色々なサイズの劇場で演じることが好きです。これまで出演した劇場ですと、東急シアターオーブだとお客様からのたくさんの拍手を頂けて反応を感じられる一方で、少しお客様を遠くに感じます。『レイディマクベス』をやったよみうり大手町ホールはお客様との距離が非常に近くて、自分が感じていることをそのまま伝えることができた感じがしました」

−これまで何度も日本の公演に出られているクーパーさんですが、日本で演じる時に意識されていることはありますか。
「日本の観客の皆さんのことは本当に大好きです。私は18歳の時から日本に来て公演をしているんですけれども、日本のお客様はすごく受け入れてくださっているというのをとても感じます。そして、いつも支えになってくださっているというのをすごく感じていて、それが私にとっては大事なことだと思っています。私が演劇であれ、バレエであれ、ダンスであれ、コンサートであれ、どんな形で出演しても受け入れてくださって、楽しんでくれているのが嬉しいです。今後もクリエイターとしても役者としてもダンサーとしても進化し続けていく私を見続けていただけたらと思っています」

撮影:蓮見徹

ミュージカル『コーラスライン』は2025年9月8日(月)から22日(月)まで東京建物 Brillia HALL、10月10日(金)から19日(日)までTheater H、そのほか大阪・仙台での地方公演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

言わずと知れた名作ミュージカル『コーラスライン』が新演出に!Theater Hの濃密な空間ではよりオーディションの切実さがヒリヒリと伝わってきそうです。