2025年9月から日生劇場にて日本初演されるミュージカル『Once』。2007年に公開されたアイルランド映画を原作に、2011年にミュージカル化、トニー賞では作品賞・演出賞・脚本賞・主演男優賞を含む8部門を受賞した大ヒット作です。本作にガールの母親バルシュカ役として出演する斉藤由貴さんにお話を伺いました。
『Once』の魅力は「心に刺さる歌」

−ミュージカル『Once』ブロードウェイ版の映像をご覧になっていかがでしたか。
「楽曲が本当に素晴らしくて、心に刺さる歌ばかりだと思いました。アイルランドのダブリンでガイとチェコ移民のガールが出会い、恋に落ちる物語の中で、彼らの貧しさや、移民であるというシチュエーションだからこそ響いてくる何かがあるんだろうなと感じました」
−ガールの母親バルシュカをどのように作っていこうと思われていますか。
「出演シーンは少ないですが、とても個性的な人です。限られた場面の中でその個性をどう表現したら良いかなというのを今考えています。演出の稲葉賀恵さんのお考えによって変わるとは思いますが、舞台上に多くいることになると思うので、喋らずとも母親としての存在感を出していければ良いなと思います」
−ガイはアーティストとしての成功を夢見る人物ですが、同じ表現者として共感される部分はありましたか。
「表現の仕事は才能だけでなく、時代や運というものによって大きく変わってくるというのは自分に重ね合わせても凄く感じました。私は幼少期から夢を持って努力してデビューしたわけではなく、たまたまオーディションに参加したのをきっかけにCMの仕事が決まり、歌の仕事が決まり、ドラマの仕事が決まりと、あらゆることがもの凄いスピードで変わっていきました。今振り返ると、色々なところで運が良かったのだなと感じます」
−本作は日本初演となります。これまで様々な舞台作品に出演されてきて、初演を創る難しさはどのように感じられていますか。
「初演に対する向き合い方というのはきっと作品それぞれに違うと思うんです。オリジナルを踏襲しようという場合もあれば、全く違うスタイルでやろうとする場合もあります。だから一概には言えないのですが、何十年もこの仕事を続けてきて凄く学んだことの1つは、どんな作品も監督・演出家のものであるということです。俳優は表に立っているけれど、あくまで作品のいち要素であって、そこは勘違いしてはいけないという戒めがあります。だから、演出家がどのように初演を創り上げようとしているのか、わくわくしながら稽古初日を待ちたいと思っています」
−ガイ役の京本大我さん、ガール役のsaraさんへの印象を教えてください。
「お二人とも実際にお会いするのはこれからなのですが、京本さんは特別番組『さよなら帝国劇場 最後の1日 THE ミュージカルデイ』で歌っているのを見て、凄くピュアで素敵な歌を歌う方だなと感じました。アイドルとしての活躍はもちろん、舞台で歌う歌い手としても素敵なのだろうなと思って楽しみにしています。saraさんも『Once』の素晴らしい楽曲を歌うことを任されていますから、実力のある魂のある歌い手さんなのだろうなと思っていて、今から歌を聴けるのが楽しみです」
『マイ・フェア・レディ』で出会った「夢の世界」

−斉藤さんはミュージカル作品への出演は久しぶりになりますが、どのような思いがあったのでしょうか。
「ミュージカル作品に限らず、舞台をコンスタントにやらなきゃというのはいつも思っていることなんです。舞台は、その時々の自分が演技する人間としてどれだけ練り込まれているか、維持できているか、あるいは怠っているかを確認できる場所だと思っています。今年活動40周年を迎え、長いキャリアになってきた中で、今の自分をそろそろ確認しないといけないなと感じていたので出演のお話を頂いて嬉しかったです。
舞台は、自分のエネルギーが如実に出るからこそ、厳しい世界ですし、落ち込むことも多いです。でもそれで良いと思っています。楽しいことや楽なことばかりやっていてもだめだと思うから。いくつになっても、自信がなくなったり、落ち込んだりする経験が必要だと思います」
−日生劇場に立たれるのは久しぶりですよね。
「かなり久しぶりだと思います。私の初舞台は日生劇場で上演されたミュージカル『マイ・フェア・レディ』なんです。17歳の時に花売り娘の1人として1シーンだけ出て、自分が出ているシーン以外は大部屋の楽屋のモニターで毎日釘付けになって見ていました。そういった特別な場所なので、今回日生劇場の舞台に立ったら、きっと胸がいっぱいになると思います」
−『マイ・フェア・レディ』で初めてミュージカルの世界に触れた時、どのように感じられましたか。
「夢の世界、ですね。美しくて、ロマンチックで、キラキラしていて、夢みたいな素敵な世界。だからこの世界に憧れて目指す人はたくさんいるだろうなと感じました。残念ながらイライザ役にはご縁がなかったですけれど、そこから始まったことには凄く意味があると思います」
歌い手として、作詞家として。音楽の魔力に魅せられて

−本作はガイとガールを繋ぐ「音楽」が非常に重要な役割を果たしています。斉藤さんにとって音楽はどのような存在ですか。
「舞台に毎日立っていると、役者の演技というのはどうしても慣れが出てきてしまいます。でも音楽は、不思議と何回聴いても何回歌っても、感動したり吸い込まれたりするんです。何度でも、音楽の調べとともに心に響いてしまう−それが音楽の魔力だと思います。私は18歳の時からずっと歌を歌ってきていますけれど、色々な場面で歌が救いになってきてくれました」
−斉藤さんは作詞家としてもご活躍ですが、ご自身が作った詞に救われた経験もありますか?
「あります。ミュージカル『ローマの休日』で作詞を担当させて頂いて、「虹」という楽曲で“愛してる 愛してる 愛していると呼んでも 泣いても かき抱いても 遠い虹のように 穏やかな弧を描き 面影は去ってゆく 二度とは戻らない”という歌詞を書きました。メロディーも素晴らしくて、歌詞を書いた時に自分でもこれ以外ないなと感じたんです。それを山口祐一郎さんが歌っているのを初演の稽古で観た時、こんな素晴らしい作品に出会って、詞を書かせてもらっているということに凄く感動して、ジーンとしたのを覚えています。私は色々な意味でとても運の良い出会いがいっぱいあって、面白い人生だなと思います」

−最後にミュージカル『Once』の上演を待っている観客にメッセージをお願いします。
「この作品には、恋愛と、自分がやりたいこと・夢への渇望が描かれています。これはみんなが人生を生きている中で持つものですし、大事なことだと思うんです。そういった自分の人生の夢に対して素敵なエールを贈ってくれるような、素晴らしい楽曲がたくさん散りばめられている作品だと思うので、楽しみにしていてください」
ミュージカル『Once』は2025年9月9日(火)から28日(日)まで日生劇場で上演。10月4日(土)から5日(日)まで愛知・御園座、10月11日(土)から14日(火)まで大阪・梅田芸術劇場メインホール、10月20日(月)から26日(日)まで福岡・博多座にてツアー公演が行われます。公式HPはこちら

『ローマの休日』のとても素敵な歌詞についてもお話しいただき、才能溢れるお人柄を感じることができました!映画では第80回アカデミー賞 歌曲賞を受賞、ミュージカルではトニー賞 ミュージカル作品賞を受賞した『Once』。日本初演はどのような上演となるのでしょうか。